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5月病に今年は特に注意? コロナ制限解除による社交急増と気候変化

西多昌規早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医
(提供:イメージマート)

外出・社交機会の急増と3年ぶりの疲労感

 マスク着用が個人の判断となった4月頃から、外来診療をしていても、

出張がとにかく増えて疲れる

飲み会が急に増えてキツい

という声をよく聞くようになった。

 学生相談では、対面授業が去年よりもいっそう増えたことで、対面によるストレスが強い一部の学生からは

朝起きられず講義に出られない

学生や先生と会うのに緊張する

という悩みも、依然として多い。

 わたし自身も、今年は学会などリアル開催のイベントが、一気に増える予定だ。しかも、懇親会、飲み会など社交の誘いも前年の比ではない。夜のアルコールは次の日を考えるとつらいなと思うが、コロナ禍以来3年ぶりという集まりも多く、コミュニケーションのためにも出席しなければとも思う。

 このゴールデンウィークは、コロナ前以上の、すごい人出のところが多かったように、久しぶりに行楽や旅行に行って楽しんだという人も多いだろう。大変よいことだと思う。ただ、コロナ制限の解除による外出機会やリアルイベント参加など社会活動の増加はたいへん望ましいことだが、心身にはかなりに負担をかけると予想される。

 しかも日本では、ちょうど「5月病」の時期と重なるのが注意点だ。コロナが連休明けから5類感染症に移行することは、精神的な問題とは無関係に思われるかもしれない。しかし、コロナ規制に飽きて通常化を望む社会心理は強く、社交機会はコロナ前以上に、リバウンド的に増えるかもしれない。

今年の5月病はいつもと違う?

5月病については、もうたくさんの情報があるので、簡単な説明に留めておく。4月からの新年度になって新しい職場や部署、学校で頑張っていたが、次第にストレスに対処できなくなり、心身の不調をきたすようになった状態の俗称が、5月病だ。ゴールデンウィークの反動も大きい。

 連休明けから体調が徐々に悪くなり、梅雨に入る6月か7月頃に、仕事や勉強に支障が生じてくる。連休中の生活リズムの乱れや、6月は梅雨で天気が悪く、おまけに祝日がないことなどが、原因として考えられている。

 今年はリモートやオンラインではなく、リアルで人に会う機会が急増する人も多いだろう。3年ぶりに社交ストレスや身体的疲労が本格的に加わるので、自分で予想した以上に負担は大きいと考えたほうがいいだろう。準備運動なしで、いきなりエクササイズをするようなものだ。

 リモートワークをしている人や内向的な人は、特に注意すべきだろう。またリアルイベントは、行く前は面倒・億劫と思っていても、いざ出かけてみると楽しいことが多い。飲み過ぎてしまう、はしゃぎ過ぎて羽目を外してしまう可能性もある。

「春バテ」「蒸し暑さ」天気の変化も心身の負担に

 最近は年休・有休を取らなければならないので、6月に祝日がないというのは、大きなストレス要因ではないかもしれない。しかし、「天気」「気候」の影響は、かなりあるのではないかと考える。

 今年の4月は寒暖差が激しく、体調管理にかなり苦労した人が多いように思う。寒い日もあったが、気温が上がり熱中症患者も出た日もあった。今年の寒暖差による疲労感は、たしかに「春バテ」と呼んでもいいかもしれない。

 このゴールデンウィークも、夏日で暑い日もあれば、雨でじめじめした梅雨を先取りしたような日もあった。5月も気温差は大きく、肌寒い日もあれば、蒸し暑い日なども出てくる。温度は真夏ほどではないが、熱中症も増えてくる時期だ。なにより、梅雨入りも近くなり雨も多くなり、気圧の変動で体調を崩す人も多くなる。

 これに、3年ぶりの急激な活動増加が重なってくる。

ゴールデンウィーク以降の過ごし方

 今年は、急激な外出・社会活動の増加に特に気をつけたほうがいいと思う。予定を詰め込みすぎない、活動をセーブすることが、大切になってくる。対面イベントが苦手な人、リモートワーク中心で身体がなまっている人は、特に注意したいところだ。

 特に連休中に生活リズムが乱れてしまった人は、5月に無理をしないほうがいいだろう。今年は、まだ半年以上残っている。すべての誘いに応じなければいけないという強迫観念は、持たないほうがいいだろう。

 また、気候対策も重要なのだが、これは昔ならば「仕方がない」として片づけられていた。わたしもかつてはそう思って諦めていたのだが、最近は俗に言う「気象病」に、漢方薬が効く印象を持っている。

 患者からも好評であることもあり、処方する機会が増えてきた。気候変化による頭痛に奏効するというデータもある(Shibata & Ishiyama, 2020)。気候の変化は、数年前より明らかに心身にキツくなっているので、天気や気圧の変化に弱い人は、選択肢として考えてもいいと思う。

Shibata, Y., & Ishiyama, S. (2020). An analysis of the meteorological factors influencing climate-related headache and the clinical effects of goreisan. Journal of Neurosurgery and Kampo Medicine, 6(1), 26-32. https://doi.org/10.57364/jnkm.6.1_26

早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医

早稲田大学スポーツ科学学術院・教授 早稲田大学睡眠研究所・所長。東京医科歯科大学医学部卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員講師などを経て、現職。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会総合専門医など。専門は睡眠、アスリートのメンタルケア、睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。著書に、「休む技術2」(大和書房)、「眠っている間に人の体で何が起こっているのか」(草思社)など。

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精神科医の西多昌規(にしだ まさき)です。メディアなどで話題となっている、あるいは世間の関心を集めている事件や出来事を、精神医学やメンタルヘルスから読み解き、独自の視点をもとに考察していきます。医療・健康問題だけでなく、政治経済や社会文化、芸能スポーツなども、取り上げていきます。*個人的な診察希望や医療相談は、受け付けておりません。

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