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パリ五輪予選日韓戦 「ヤバい状況だった韓国」と「17-0時代の終焉」

今大会 第2戦中国戦前の韓国代表(写真:REX/アフロ)

日本0-1韓国。

22日、カタールで行われているU-23アジアカップ兼パリ・オリンピックアジア最終予選で日本代表が韓国に敗れた。

今回の目的は、まず世界の大会への出場権を得るものであり、韓国に勝つことではない。大会のレギュレーションを考えると、2日後に唯一今大会で「負ければ終わり」という準々決勝が待ち構えており、さっさと次に頭を切り替えるべきだ。

それでも韓国に負けるというのは気分がいいものではない。昨日の負けがどういうことだったのか、手短にその振り返りを。

韓国の方が「難しい状況」だった

「今回の日韓戦の勝利が非常に痛快な理由…自尊心・実利・体力のすべてを手に入れた」(ファイナンシャルニュース)

まずは「相手の方がより難しい状況」での敗戦だった。「欧州組が招集できなかった(韓国は2人、日本はおよそ11人)」「負傷者が出た」という要素は今日の両国の代表チームではよくあること。のみならず、韓国には特殊な状況があった。

「ファン・ソンホン監督は、大会直前の重要なテストマッチを直接指揮できなかったんですよ。2024 WAFF U-23選手権 サウジアラビア(3月20~26日)です。西アジアのU-23選手権にゲスト参加して、タイ・サウジアラビア・オーストラリアと対戦して2勝1分けでした。なぜなら…大韓サッカー協会から『臨時A代表監督』を頼まれたからです。2月16日のユルゲン・クリンスマン監督解任の影響を受け、3月21日と26日のW杯2次予選2戦(タイとのホーム&アウェー)の指揮を執った。ただで厳しい監督の準備状況がより難しくなったということです」(韓国サッカー専門誌記者)

結果、ファン・ソンホン監督率いるチームは、昨日の日本戦で以下のような状況で臨むことになった。

「グループリーグ第2戦の中国戦と比べて先発メンバーを10名変更」

「試合開始時の11人で大会中先発経験のあった選手はわずか3人」

「3試合連続先発出場した選手はDFチョ・ヒョンテクただ一人」

実質的には「即席チーム」。しかもフォーメーションも初めて採用する3-4-3だった。

韓国側とすれば「かなりリスキーな賭け」に勝ったというところだった。昨日の試合だけの話ではない。下手をすれば2か月前の解任の決定から蒸し返され、日本に負けたのならまた大批判が繰り出されるところだった。その試合で枠内シュート3、それを唯一の海外組のキム・ミヌ(デュッセルドルフ)が決めたのだから、まさに針の穴に糸を通すような勝利だった。

韓国代表のファン・ソンホン監督=大会第2戦の中国戦時
韓国代表のファン・ソンホン監督=大会第2戦の中国戦時写真:REX/アフロ

「17-0時代」の終わり

もうひとつ言えるのは「17-0」の時代が、その終わりを強く印象付けた、ということだ。2021年から22年まで、日本はあらゆるカテゴリーで韓国に圧勝し続けた。

2021.03(A代表) 日本3-0 韓国 (親善試合)
2022.06(U-16代表) 日本3-0 韓国(U-16 インターナショナルドリームカップ2022 JAPAN presented by JFA)
2022.06(U-23代表) 日本3-0 韓国(U-23アジアカップ準々決勝)
2022.06(大学選抜) 日本 5-0 韓国(デンソーカップ)
2022.07(A代表) 日本3-0 韓国(E-1選手権)

すでに昨年9月のアジア大会決勝などでも敗れており、この記録は途絶えていた。より重要なことは、昨年のアジア大会決勝(中国杭州)に続く敗戦だということだ。結局、公式戦での結果は「いい勝負」という話にもなった。

この間に起きた出来事は「日本が、逆にフィジカルで相手を圧倒し始める」という現象だった。

日本側が強いインテンシティのプレスをかけ、韓国が慌てる。2010年代中盤までは韓国側は「日本は強いプレスをガツンとかければ、技術を発揮できない」「前半に攻めさせ、体力消耗させれておけば後半に一気に仕留められる」といった構図を多用してきたが、それが通用しなくなったのだ。

韓国メディアの「ある評価」

いっぽう韓国ではこの「17-0」の時代をどう見ていたのか、というと「大学サッカーを入れるのはちょっと違う」「当時2敗を喫したパウロ・ベント監督(ポルトガル)は韓国人のテンションを理解しておらず、普通のトレーニングマッチのように戦った」「その件で協会から意見されたこともある」といった話が出ている。

22日の試合に関して言えば、ファン・ソンホン監督は「日本に合わせた戦術を取った」というコメントを残している。この日初めて採用した3-4-3は「日本のパスワークにぶれず、中央の守備ををしっかり固める」という狙いもあったように感じる。一方「エクスポーツ」の22日の記事からはこういった点も感じられた。

今一度、韓国側もフィジカルコンタクトにギアを入れる。

「足ではなく、頭から突っ込んだ…韓日戦「ハッスルプレー」「闘魂」をしっかり見せつけた」という見出しの記事では、昨日の試合をこう絶賛している。

「(準備過程の)困難の中でも、韓国が日本相手に劇的勝利をもぎ取ることができたのは、選手たちの体を惜しまないハッスルプレー、韓国風に言えば『闘魂』があったからだ」

日本のメディアでは話題になった「ラフプレー」についての言及はなかったが、「体のぶつかり合いを惜しまない守備で日本の集中砲火を全て防ぎ切った」と試合をレポートした。そして原稿の最後ではこうも。

「『闘魂』は以前から韓国サッカーを代表する言葉だった。技術的に劣る分、荒っぽいプレーするしかないという批判もあったが、結局22日の韓日戦で光ったのは選手たちの闘魂だった。東アジアからはるか離れたカタールで行われた試合でも変わらなかった。試合結果、そして韓国と日本の運命を分けたのは、韓国選手たちの闘魂あふれるプレーだった」

17-0の時代はパウロ・ベント監督の下「技術・ポゼッション」が評価される時代だった。その後大韓サッカー協会は何を目指すのかを明らかにしていないが、自ずと「過去の韓国スタイル」に回帰するということなのだろうか。

ただ、今むしろこの重要なのは「出場権決定までの5試合、もしくは6試合までのチームマネジメントをどうしていくのか」だろう。日韓を比較するなら直接対決の結果よりもこのポイントのほうが正しい。上位3チームがパリ五輪へのチケットを掴むこの大会、「負けたら終わり」という試合が2試合あり、それは25日の準々決勝(日本はカタールとの対戦が決定)と来月3日の3位決定戦だ。そこにどう臨むのか。決戦はこの先に待っている。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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