『ゴールスナイパー・ユンカー』神戸戦で見えた新たな武器とは?
「自分の型」を持っている点取り屋
最近、浦和レッズはここ数年では珍しいほどポジティブな盛り上がりを見せている。
その中心に居るのは、ゴールスナイパー、キャスパー・ユンカーだ。4月末にチームに加わったばかりだが、どうやら、浦和はとてつもない当たりクジを引いたらしい。(当たりクジ、と言うとスカウト担当者に反感を持たれそうだが、ここでは定番の表現を使っておく)。
昨季ノルウェーリーグ得点王&MVP、また、昨年末にはFIFA公式サイトの『まだ知られていない5人の有能な選手』と題した特集に、当時柏レイソルのオルンガらと共に、このデンマーク人の名前があった。もっとも、これは世界的にはマイナーなリーグの得点王を5人並べただけの単純なリストではあるが、明確な実績を作った彼らは皆、好条件のオファーを受けて移籍し、オルンガもカタールへと旅立った。そのリストの1人を、Jリーグの浦和が獲得したわけだ。
ユンカーは早速、J1デビューからリーグ戦3試合連続ゴールと、絶好調。というか、ノルウェーリーグでは9試合連続ゴールの最中だったので、彼は国をまたいで12試合連続ゴール中(計19得点)ということになる。恐ろしい実績だ。オルンガが居なくなって若干、寂しくなったJリーグに、またこんな選手が来るとは。ただし、この手の「連続ナンチャラ」は、大きな話題にし始めた途端、途絶える鉄則もある。対戦相手も甘くはない。今日のお祭りとして楽しんで頂きたい。
点取り屋ユンカーの特徴については、本人も語っているが、スピード、ゴール前のポジショニング、左足のシュートだ。
どれも魅力的だが、特にストライカーが点を取る上で重要なのは、ゴール前のポジショニングになる。ユンカーは相手DFの背中へ消える動きがうまく、最終局面で点を取れる場所に必ず現れる。これはGKやセンターバックにも言えることだが、ゴール周辺でプレーする選手は、攻守にかかわらず、「そこに居ること」「そこにタイミング良く入ること」が何より大事だ。
ノルウェーのゴール集を見ても、ユンカーはクロスに対して反対側の死角から走り込む『ファー詰め』の形が圧倒的に多い。ゴール前のポジショニングに、セオリーを持っている様子だ。
数字以外で見えてきたユンカーの特徴
また、そうしたゴール集を見ればわかるプレーの特徴以外に、22日に行われた直近のJ1「浦和vs神戸」では、ユンカーの他の一面が見られた。
すでにリーグ戦2試合連続ゴールを決めていた。対戦相手も甘くはないので、ユンカーの特徴は分析してくる。神戸センターバックのトーマス・フェルマーレンや菊池流帆は、ユンカーの得意な裏へ抜ける動きをほとんどさせず、特に菊池は、抜け出そうとする彼に身体を激しくぶつけ、長身だが細身のユンカーを吹き飛ばそうとする場面が何度もあった。
ユンカーを怒らせようとしているのか、とも感じた。FWはそうした接触に逆上し、つかみかかってイエローカードをもらったり、あるいはボールがもらえずイライラしたりと、調子を乱すタイプが少なくない。DFとすれば、そうした駆け引きは当然のセオリーであり、神戸DFもそれを狙う感じはあった。
しかし、ユンカーは逆上せず、意に介さない。挑発に付き合わない。極めて冷静で落ち着いていた。単なるゴール集では選手の性格まではわからないが、神戸戦ではユンカーの人間的な一面も見えてきた。
時折、彼は激しく身振り手振りで示したり、大声を出したりすることもあったが、それは敵ではなく、味方に対してである。前半の浦和は、神戸の巧みなビルドアップに、プレッシングがはまらず、ボールを奪えずにいた。
汰木康也はズレを埋めるポジション移動にためらう場面が多かったし、行ったら行ったで、神戸はそれをかわす質があった。GK飯倉大樹がパスの出し手となり、ボランチ周辺に下りてきたイニエスタ、あるいはサイドから寄ってきた酒井高徳らに、浦和のプレッシングの間をのぞくパスを何度も、再現性を伴って通してくる。
浦和としては、寄せても、寄せても、間を通されて振り回される。どうすれば守備がはまるのか。ユンカーはその点を味方、あるいはリカルド・ロドリゲス監督と激しく議論した様子で、彼の矢印は、常に自分たちに向いていた。
前半は結局うまく修正できなかったが、ハーフタイムを経た後半、見違えるように変わった。ユンカーと、後半から出場した小泉佳穂は、神戸のボランチ周辺に入ってくる選手を背中で消しながら、その上で相手センターバックを追い詰める形に変えた。つまり、前半は人、人にアタックしていたが、後半は背後のパスコースを消しながら前の相手に寄せる守備に変えたわけだ。
いや、口で言うのは簡単だが、実践するのは簡単ではない。まして、ユンカーはまだ加入1カ月だ。連係は発展途上。しかし、後半の彼らは、そのプレッシング修正を実践し、神戸のビルドアップを遮断することに成功した。
後半途中に神戸にけが人が出て、最終ラインの構成をいじったため、神戸の側から崩れた部分もあったが、浦和がプレッシングの改善に成功したのは間違いない。その中心に、ユンカーがいた。
冷静かつ知的な選手だ。極めつけは、後半40分に挙げた2点目のゴールシーンである。
コーナーキックのこぼれ球を西大伍がゴール前へ放り込むと、岩波拓也が競り合って流れたボールに、ユンカーが反応し、左足でボレーシュートを決めた。
これで浦和は2-0。後半40分、一番盛り上がる類のゴールだ。サッカーは1点目のゴールより、「よっしゃー!これで勝てるぞ!」と期待感が爆発する2点目のゴールのほうが、歓喜の熱量が多い。チームメートも笑顔でユンカーを祝福にやってきた。
ところが、ユンカーはにこりともしない。どうやら、自分がオフサイドだった可能性を考えたようだ。J1はVARが導入されているので、判定が修正される可能性は常にある。ぬか喜びさせまいと、チームメートに落ち着きを促していた。しかし、その後、VARのチェック後にゴールが確定すると、ユンカーは改めてガッツポーズ。
こう言ってはナンだが、典型的なストライカーでは考えられないほど、冷静な選手だ。でも、ゴールを奪える場所には必ずいる。12試合連続ゴール中でもある。間違いなく、ストライカーだ。ニュータイプか?
挑発に乗らない冷静さ。チーム戦術への適応と修正を、主体的に行えるインテリジェンス。泰然自若のゴールシーン。冒頭、筆者がユンカーのことを『ゴールスナイパー』と表現したのは、そういうわけだ。普通、サッカーでは『ゴールハンター』と言うことが多いが、ユンカーはむしろ狙撃手(スナイパー)である。冷静に、精密に、計算を尽くしてゴールを狙う。彼はゴールスナイパー。
もっとも、この神戸戦のユンカーがすごく魅力的なプレーをしたかと言えば、そうでもない。名選手揃いの神戸は強かった。ユンカーの特徴も分析されたし、実際はかなり封じられた試合だった。
しかし、そんな試合だからこそ、彼の新たな一面、数字ではわからない一面が次々と明らかになり、改めて、浦和は良い選手を取ったんだなと思い知った。
清水 英斗(しみず・ひでと)
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。