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『逃げ恥』は終わったけれど、”攻めてる深夜番組”が元気をくれる!?

碓井広義メディア文化評論家

危ないテーマもなんのその。「ほんとうの話」を直接当事者から聞く、Eテレ『ねほりんぱほりん』。女子高生たちがビジュアルでも競い合う、異色の麻雀ドラマ『咲-Saki-』(制作:毎日放送、TBS系)。『逃げ恥』は終わってしまったけれど、“攻めてる深夜番組”が元気をくれる!?

“攻めのEテレ”を象徴する、大人の人形劇『ねほりんぱほりん』

本当は聞いてみたいけどなかなか聞けない話を、本人や当事者に直接聞いちゃおうというのが、Eテレ『ねほりんぱほりん』(水曜23時)だ。それを可能にしているのが「人形劇」という手法。ゲストはブタに、聞き手のYOUと山里亮太(南海キャンディーズ)はモグラに”変身”して、画面に出ているのだ。

たとえば「元薬物中毒者」の回では、20歳で覚醒剤に手を出し、子育てもしてきたという29歳の女性が登場した。「クラブに行けば簡単に手に入るんですよお」と明るく語り、「吸引はどうやって?」と聞けば、「あぶりですね」とハキハキ答える。笑っちゃうほど赤裸々な告白になっていた。

また、女性の「元国会議員秘書」も、「へえ~」「なるほど~」のオンパレードだ。葬式をいかに活用するか。政策提案の醍醐味。選挙の裏話。そして「政策から洗濯まで」という秘書の仕事の内幕を知ることができた。

「私たち秘書には、ミスという言葉はありません」と、まるで『ドクターX』の大門未知子みたいに自信満々だった。

さらに、「痴漢えん罪経験者」の話もびっくりだった。登場したのは人のよさそうな(見た目はブタだけど)53歳の男性。通勤電車の中でいきなり、「こいつ、痴漢です!」と若い女性に騒がれ、「私じゃない!」と言い張るものの、警察署に連行されて3カ月も帰れなかったのだ。

刑事からは「キ○タマ出したんだってな」と罵倒され、徹底的に犯人扱い。結局、2年の歳月と600万円を裁判に費やした。その間に職を失い、家庭も限界状態に陥った。最後は無罪にはなったものの、壊れた人生は元に戻らない。いやあ、これはシンドイだろう。まさに当事者自身が語るからこそのリアリティーだった。

この番組、人形劇がかもし出す雰囲気から、一見軽いノリで出来ているように思われがちだが、そう簡単なものではない。制作には想像以上のリスクがあり、それを回避しながら、ギリギリ可能なところまで踏み込むという離れ技を実現している。

先日、「占い師」の回で、この番組の存続を占ってもらっていた。そして、「来年3月まで」という、やけにリアルな(笑)結果が告げられたが、まあ、そう言わず。毎週の制作は大変だとは思うが、可能な限り続けていただきたい。

この夏、障害者をダシにして感動を生み出そうとするテレビを「感動ポルノ」と呼び、違和感を表明した『バリバラ』と並んで、“攻めのEテレ”を象徴する貴重な1本だ。

ビジュアル系女子高生が勝負! 異色の麻雀ドラマ『咲-Saki-』

面白い麻雀漫画はたくさんあるが、個人的には能條純一『哭(な)きの竜』のファンだ。対戦相手が捨てた牌で、面子(メンツ)を完成させる「鳴き」。その危うさを武器に変えて勝負する竜が魅力的なのだ。

12月に始まった深夜ドラマ『咲-Saki-』(制作:毎日放送、TBS系)は、小林立の麻雀漫画が原作だ。主人公の宮永咲(浜辺美波)は、普段はごく普通の大人しい女子高生だが、麻雀では誰にも負けない天才的な勝負勘と強運を発揮する。現在は高校の麻雀部に入ったばかり。それぞれ個性的な仲間たちと県大会、そして全国を目指すことになる。

一つ目の見所は、「四暗刻(スーアンコウ)」「嶺上開花自摸(リンシャンカイホウツモ)」といった役が飛び出す対戦場面だ。麻雀を知っている人はもちろん、知らない人でもつい見入ってしまう緊迫感と高揚感がある。しかも雀士はセーラー服の女子高生たち。このギャップが面白い。

次に見るべき点は、麻雀という勝負を描くこのドラマが、出演者たちにとっても“勝負の場”になっていることだ。

ドラマ初主演の浜辺美波は、「東宝シンデレラ」ニュージェネレーション賞の受賞者。同じ高校の麻雀部員として、「SUPER☆GiRLS」のメンバーである浅川梨奈。「私立恵比寿中学」の廣田あいか(『タモリ倶楽部』にも出演する鉄オタ女子)。元「ニコラ」専属モデルの古畑星夏などがいる。

また他校の麻雀部の面々も、かなり賑やかだ。人気モデルの武田玲奈。バラエティでも見るようになった、山地まり。元「AKB48」メンバーの永尾まりや。グラビアアイドルの星名美津紀や金子理江などが集結している。皆、お互い、ドラマの設定以上にリアルなライバルだ。

女子高生たちが雀卓を囲むのは不思議な眺めだが、4校20人が競い合う、“動くグラビア大会”としてのカロリーはかなり高い。深夜番組らしいパフォーマンスで攻める、異色の麻雀ドラマだ。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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