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北朝鮮のロケットエンジン噴出実験は偵察衛星打ち上げの前触れか!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2016年9月に行われた停止衛星運搬ロケットエンジン地上噴出実験(労働新聞から)

 韓国の李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防部長官は先月29日の国会国防委員会で、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)について発射準備を続けていることを明らかにしていたが、北朝鮮は李国防長官の発言前後(8月28~31日)に平安北道鉄山郡東倉里の西海衛星発射場でロケットエンジン噴出実験を行ったようだ。

 米国の北朝鮮専門媒体「NKニュース」は衛星発射場を撮影した衛星写真を分析した結果、エンジン噴出実験が行われた可能性を指摘し、「衛星発射の前兆かもしれない」と伝えていた。

 北朝鮮が最後に人工衛星(「光明星―4」)を発射したのは国家宇宙開発5か年計画最終年にあたる2016年(2月7日)である、この時から北朝鮮は1度も衛星を打ち上げていない。しかし、衛星を運搬するロケットエンジンの噴出実験は継続して行われていた。

 「光明星―4」を打ち上げた翌月の3月24日には金正恩(キム・ジョンウン)総書記の立ち合いの下、大出力固体ロケットエンジン地上噴出実験が行われ、当時労働新聞は「我々の頼もしい国防科学者、技術者らが僅か6か月という短い期間で一回で成功させる驚くべき奇跡を創造した」と書き、「新たなミサイルエンジン試験がどのような意味を持つか世界は間もなく見届けることになる」と報じていた。

 この年は4月9日にも金総書記が立ち会い、新型の大陸間弾道ロケット(ICBM)大出力エンジン地上噴出実験が実施されたが、この時は金総書記自らが「新たな大陸間弾道ロケットにより強力な核弾頭を装着して核攻撃を加える確固とした担保を手にした」と成果を誇り、今後「核攻撃手段の多種化、多様化をより高い水準で実現し、核には核で断固対抗しなければならない」と関係者らに訓示していた

 北朝鮮のロケットエンジン噴出実験は5か月後の9月20日にも行われたが、北朝鮮はこの時は「新型停止衛星運搬ロケット用エンジン地上噴出試験を行った」と発表していた。

 金総書記が参観して西海衛星発射場で行われたこの実験は単一エンジンとしての推進力は80tfで、延焼時間は200秒だった。このエンジンを4個束ねれば、320トンの推力が得られる。「光明星―4」は27tfのノドン・ミサイルエンジンを4個束ねて打ち上げられていたが、北朝鮮は7か月間でその3倍の推進力を持つエンジンを開発したことになる。

 当時、北朝鮮が公開した噴出実験の写真を分析した米航空宇宙研究機関「エアロスペース」のジョン・シリング研究員は北朝鮮専門媒体「38ノース」への寄稿文で「北朝鮮が公開したエンジンが小型無人月探査装備を発射するのに十分で、停止軌道に通信衛星のみならず多様な低高度偵察衛星を発射するのにも適している」と分析していた。

 翌2017年3月18日には100tfの新型大出力エンジン地上噴出実験が行われ、成功させている。現場で実験を観察した金総書記はこの成功を「3.18革命」と称し、「新型の大出力エンジンが開発完成したことで宇宙分野でも世界レベルの衛星運搬能力と肩を並べることができる科学技術土台を築くことができた」と、大喜びしていた。

 ロケットエンジンは長距離弾道ミサイルの発射にも共用されるが、4月3日放送の朝鮮中央テレビは夜9時からの定例番組を中断させ、「我が共和国に対する極悪で無分別な制裁を科している奴らを踏みつぶすのを世界は間もなく目の当たりにするだろう」との外務省談話を流し、北朝鮮はその延長線上で5月14日には準ICBM「火星12号」を、7月4日には準ICBM「火星14」を、そして11月29日にはICBM「火星15」を発射してみせた。

 エンジン噴出実験は長距離弾道ミサイルの発射同様にトランプ政権との首脳会談実現のため2018年4月21日に凍結を宣言したことから中断されていたが、米朝対話が決裂した2019年には再開され、12月8日に実験を行った国防科学院は「大変重大な試験が行われた」と発表していた。

 当時「今回行った重大な試験の結果は我が国の戦略的な地位を改めて変化させる上で重要な作用となるであろう」と国防科学院の報道官は述べていたが、何の実験を行ったのか、説明はなかった。国営メディアもただ単に「再び世界が驚く我が革命を一歩前進させる雄大な作戦が計画されている」と報道するのみだった。しかし、その後、ロケットエンジン噴射実験を行ったことが確認されている。そして、今回の西海衛星発射場でのロケットエンジン噴出実験である。

 昨年1月の労働党大会で「近い内に軍事偵察衛星を運用し、偵察情報収集能力を確保する」ことを宣言していた金総書記は今年3月10日には宇宙開発局を現地指導し、衛星搭載型光学撮影装備と映像送信機をはじめデータ送受信通信装備、各種のセンサーおよび装置の開発および準備実態を調べ、国家宇宙開発局が2月27日と3月5日に長距離弾道ミサイル「火星17」を使って行った実験結果について説明を受けていた。

 金総書記はその際、「軍事偵察衛星の開発と運用の目的は南朝鮮地域と日本地域、太平洋上での米帝国主義侵略軍隊とその追随勢力の反朝鮮軍事行動情報をリアルタイムで朝鮮武力に提供することにある」と指摘し、「党中央が定めた期間内に偵察衛星の開発を立派に完遂するよう」命じていた。そして翌日(11日)には西海衛星発射場に足を運び、「エンジン地上噴出実験場の能力を拡張し、軍事偵察衛星をはじめとする多目的衛星を多様な運搬ロケットで発射できるように発射場を改修、拡張するよう」指示していた。

 この視察から半年が経過した。エンジン噴出実験が行われたところをみると、過去のケースからして偵察衛星発射の準備が整ったとみても不思議ではない。

(参考資料:今朝の北朝鮮のミサイル発射で軍事偵察衛星発射の日は近い!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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