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豊島将之九段(32)王位リーグ紅組優勝! 禁じ手「打ち歩詰め」できわどく逃れ伊藤匠五段(19)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月2日。東京・将棋会館において、お~いお茶杯第63期王位戦・挑戦者決定リーグ紅組最終5回戦▲伊藤匠五段(19歳)-△豊島将之九段(32歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は19時25分に終局。結果は106手で豊島九段の勝ちとなりました。

 トップを争っていた近藤誠也七段は佐々木大地七段に敗れたため、紅組は4勝1敗者が豊島九段ただ一人となり、プレーオフなしで豊島九段の優勝が決まりました。

 前期挑戦者の豊島九段は、今期も挑戦者決定戦に進出。藤井聡太王位(19歳)への挑戦権をかけて、5月31日、白組優勝の池永天志五段(29歳)と戦います。

 史上5人目の十代タイトル挑戦まであともう少しと迫っていた伊藤五段は今期、惜しくもここで敗退となりました。

詰めろ逃れの詰めろ&打ち歩詰めで逃れ!

 本局は3勝1敗決戦。勝てばプレーオフ以上、負ければリーグ陥落という大きな一番でした。

 伊藤五段先手で対局開始。戦型は互いに飛車先の歩を突き合う相掛かりとなりました。後手番の豊島九段が横歩を取って踏み込み、序盤から激しい進行です。

 コンピュータ将棋が示す評価では伊藤五段が少しリードしていたようですが、中盤は終始難しい形勢でした。濃密なやり取りが続いて、勝敗不明の終盤に入ります。

 75手目。伊藤五段はと金で豊島陣の金を取ります。もし豊島九段が受けなければ、次に豊島玉が詰んでしまう「詰めろ」の一手。対して伊藤玉には「詰めろ」はかかっていません。

 しかしそこで豊島九段には歩頭に桂を跳ね捨てる絶妙の攻防手がありました。それは自玉の「詰めろ」を回避しながら相手玉に「詰めろ」をかける「詰めろ逃れの詰めろ」です。この手を境に、形勢は豊島九段勝勢となりました。

 81手目。自玉の受けが困難になった伊藤五段は相手玉に王手をかけます。伊藤五段は4時間の持ち時間を使い切って一手60秒未満で指す「一分将棋」。一方の豊島九段は42分を残していました。

 豊島九段はここでじっくりと考えます。王手を受ける順はいくつかありました。しかし正解手はただひとつのみ。他はすべて負けになってしまうようです。

 考えること26分。豊島九段は読み切り、玉を引いて逃げました。唯一の正解手です。

 最後、豊島玉は詰むや詰まざるやの状況。しかし中段に逃げ出したときに「打ち歩詰め」の禁じ手が生じて、きわどく詰みません。

 106手目、豊島玉が詰まないことが観戦者の目にも詰まないとはっきりわかるところまで進め、伊藤五段は投了。熱戦に幕が降ろされました。

 部分1図は終局時における、後手玉周辺のおおよその状況です。ここで▲2七桂、あるいは▲1六歩(部分2図)と王手は続きます。

 ここで▲2五歩は「打ち歩詰め」。それを回避する手段もありません。

 後世の人は本局の投了図を見たとき、その激闘ぶりをしのぶことができるでしょう。

 前期挑戦の豊島九段はさすがの強さで、今期も挑決進出。さらにはまた今期も、藤井王位-豊島九段の熱い七番勝負が見られるでしょうか。

 伊藤五段は紅組優勝は逃したものの、その戦いぶりに大器の片鱗をうかがわせました。いずれ遠くない将来、藤井聡太-伊藤匠のタイトル戦は必ず見られるでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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