「貯蓄」の具体的な中身をさぐる
預貯金は増加中
お金がさまざまな物品やサービスを代替しうる、しかも場所をほとんど取らずに時を越えて蓄積できる存在であることから、蓄財は将来(のアクシデント)に備えた保険的な役割をも果たしていることになる。単純に現金をそのまま手元に置くのが一番と考える人もいるが、現在では多種多様な手段による貯蓄ができるようになっている。今回は総務省統計局の「家計調査」の公開値などをもとに、各家計(二人以上世帯)における、さまざまな種類別の貯蓄額の推移を確認し、貯蓄スタイルの現状や過去からの流れを確認していく。
今記事における世帯種類区分で「勤労者世帯」は勤め人が世帯主、「勤労者以外世帯」は社長や個人営業世帯、年金生活者世帯などを意味する。また「貯蓄」は貯蓄額のみで負債の足し引きはしない。例えば貯金が100万円、借金が1億円あったとしても、その人の貯蓄額はプラス100万円で、9900万円のマイナスではない。
まず最初に示すのは、二人以上の世帯全体を示した動向(「家計調査」の貯蓄・負債編は二人以上世帯のみで、単身世帯は調査対象外)。各年の貯蓄現在高積み上げグラフ、そして各項目の金額推移を折れ線グラフで示す。
・「保険見直し」の流行や運用利回りの低迷を背景に「生命保険など」は漸減継続
・「貯蓄から投資へ」の動きで2007年までは「有価証券」が増加した。しかし2007年に露呈、勃発した金融危機による株価低迷で大きな評価減が発生したこと、それに合わせリスク資産からの逃避も拍車をかけ、大幅に減少継続。2013年以降はようやく株価の復調に伴い評価額が上昇したことを受け、大きな増加を示している
・定期性預貯金は低利回りから漸減傾向にあった。しかし低リスクさが評価され、金融危機ぼっ発の2007年以降は漸増。普通銀行への預金も増えていた。一方普通銀行預金をはじめとした手堅い種類の貯蓄増加は、全体に占める高齢者(=低リスク志向)の比率が増加しているのも一因。昨今ではさらなる低金利化で流動性上の弱点との引き換えによる利息のメリットがほぼ無くなったことから、定期性預貯金は減り、普通預貯金がさらに増加している
直近の2016年では株価上昇の恩恵を受けて2015年に続き有価証券が上昇したが、同時に普通預貯金は大きく増加。一方で定期性預貯金は郵便局で減少している。金利上のメリットが無くなれば、使い勝手の良い普通預貯金にシフトするのは当然の成り行きではある。
勤労者世帯に限定して精査
これを勤労者世帯(上記解説の通り、就労者が世帯主。役員や年金生活者など大きめの資産を有する場合が多い人は除く)に限定し、再構築したのが次のグラフ。積み上げグラフでは縦軸はあえて上記グラフと同じとして、比較しやすいようにした(折れ線グラフは読みにくくなるので、縦軸の区切りは最適化している)。
・「保険見直し」、運用利回りの低迷を背景に「生命保険など」は漸減継続
・2007年までは「有価証券」が増加。しかし2007年の金融危機で株価低迷がきっかけで、以降は大幅に減少継続。ただし2013年以降は持ち直す。もっとも額面は二人以上世帯全体と比べれば少なく、半分程度に留まっている。
・定期性預貯金は低利回りが原因か、漸減傾向
・普通銀行の預貯金は漸増継続。ただし郵便貯金銀行では減り続けている
貯蓄額総額(積み上げグラフの赤文字部分数字)が「二人以上世帯全体」と比べて少ないのは、現役勤労世代から構成されているため。退職金の取得はまだできず、経年による積立がさほど無い世帯もいる。そして住宅ローン返済中の世帯も多い(直接貯蓄からはマイナスされないが、貯蓄に回せる余剰資金は当然少なくなる)。その上、貯蓄額をかさ上げする定年退職者・役員が含まれていない(ただし定年退職後に再就職した事例は該当する)。これだけ要素がそろえば、金額が小さくなるのも当然。
総額が小さいこともあり、二人以上世帯全体と比較すると、各項目の変動が大きい感はある。2013年以降は株価上昇の恩恵で、有価証券の額面が増えたのが幸い。他方普通銀行への預金も増加の一途をたどっている。
また同じ定期性預貯金でも、普通銀行のそれは横ばいだが、郵便貯金銀行では減少しているのが興味深い。利回りの低さと、定期に回せる貯蓄額の上限を考慮し、より大きなリターンが見込める普通銀行に集中させているのだろう。
かつては「有価証券」は減少傾向にあった。これは単なる株価低迷以外に、投資からの忌避的な動きによるところとも考えられる。2013年以降の有価証券額の増加は、二人以上世帯全体なら2008年、勤労世帯に限れば2007年以来のことで、景況感・投資市場動向がいかに長期間にわたって低迷していたかを推し量ることができよう。
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