Yahoo!ニュース

安倍首相は「ゴルフ中毒」オバマ大統領を反面教師に

木村正人在英国際ジャーナリスト

夏休みの過ごし方は、どの国の政治指導者にとっても昔から悩ましい問題だ。対処方法は(1)世論を気にせず、おもいっきり休む(2)片時も仕事を忘れず、夏休みにも海外指導者との会談を組み込む――という2つのパターンがあるようだ。

サッチャー英首相はホリデーには好んでオーストリアやスイスのアルプスに出かけた。しかし、1984年の日記を見ると、18日間の夏休み期間中に5人の海外首脳と会談し、工場見学も行っていた。

これに対して、ブレア英首相はイタリアの由緒ある銀行家の別荘で過ごし、メディアに「居候」と皮肉られた。

30年近く新聞記者として過ごした筆者は、駆け出し時代、たまに休みを取って持ち場を離れると、電車の衝突脱線事故、朝日新聞阪神支局襲撃事件が発生、明け方まで飲んで朝寝坊したらライバル3紙にそれぞれ違う特ダネを抜かれた経験があり、まったくと言っていいほど休みを取らなくなってしまった。

政治指導者の場合、精神的なストレスやプレッシャーが大きすぎて1年に2歳ずつ年をとると言われるほどだ。だから休養を十分取ってリラックスするのも仕事のうち。

しかし、仕事そっちのけで休みを取っているという印象を与えてしまったら、非難が殺到するのは避けられない。先日のエントリーで、オバマ米大統領のゴルフ通いが止まらないことを報告した。

今月に入って、米ミズーリ州で起きた白人警官による黒人青年射殺事件に端を発する暴動・略奪、米国人ジャーナリストが過激派「イスラム国」に殺害される事件があったにもかかわらず、有名人らと笑いながらゴルフを楽しむオバマ大統領に非難が殺到している。

2001年2月、ハワイ沖で日本の高校生の練習船「えひめ丸」が米海軍の原子力潜水艦と衝突して沈没、日本人9名が死亡する事件が発生した際、事故の一報を聞いたあともゴルフ場に留まった森喜朗首相(当時)は責任を追及され、首相を辞任した。

オバマ大統領の不人気ぶりは当時の森首相を思い起こさせるが、大統領自身は批判もどこ吹く風で夏休みのゴルフを満喫している。

これまでオバマ大統領のゴルフをツイッターで報告していた米CBSニュース・ホワイトハウス担当のマーク・クノラー記者も今月10日に「なぜ、ゴルフはまだ続くのか? 彼らには時計がないのか」とツィートしただけで、もうゴルフのラウンド数をカウントするのはあきらめてしまったように見受けられる。

筆者作成
筆者作成

報道によると、今月12日時点で186ラウンド、その後、8ラウンド前後はしていることから、大統領就任後、オバマ大統領のラウンド数は194回前後に達したとみられている。200回を超すのは時間の問題だ。

興味があれば、グーグルのフュージョンテーブルを使って筆者が作成したゴルフ・マップ(データは183ラウンドまで更新)もご覧になっていただきたい。「Map of Venue」をクリックすると、インタラクティブな地図が現れる。

「イスラム国」が米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏を殺害した事件で20日、オバマ大統領は「世界中のどこであろうと米国人に危害が加えられれば、米国政府は見逃さない」と非難声明を読み上げた直後にゴルフ場に直行し、有名人と笑いながらゴルフに興ずる姿が報道されたことから、国民の怒りに火がついてしまった。

夏休みの休養先からロンドンに飛んで帰ったキャメロン英首相も19時間後には休養先にトンボ返りしたことから、英大衆紙デーリー・メールに「首相はビーチから(過激派と)戦うつもりだ」とたたかれた。

広島市の土砂災害で静養を打ち切った安倍晋三首相に対し、野田佳彦前首相は自分のブログで『危機管理』と題して、次のような批判を向ける。

「被害拡大の報に接し、4ホール目でプレーを中断し、急きょ災害対応指揮のため官邸に戻りました。被害の大きさがわかってから速やかに上京したのだから、適切な対応をしたと総理を弁護する人もいますが、私はそうは思いません」

「今回の安倍総理の場合、いったんはゴルフを始めたのであり、明らかにリスクに対する感度が鈍かったといわざるをえません」

「安倍総理は、官邸に戻り報告の聞き取りや一連の指示を終えると、その日の夜には静養先の山梨県の別荘に戻りました。これまた信じられません。2次災害の危険もある中、多くの人が救命・救急の対応をしている時に…」

日経新聞の「20日の安倍首相の動静」によると――。

▽7時22分 山梨県鳴沢村の別荘発。

▽7時26分 富士河口湖町の富士桜カントリー倶楽部で森元首相、茂木経産相、日枝久フジテレビ会長、笹川陽平日本財団会長らとゴルフ。

▽9時22分 別荘着。

▽11時 官邸で古屋防災相、菅官房長官、西村危機管理監。続いて報道各社のインタビュー。

▽12時44分 北村情報官。

▽14時1分 公邸に。

▽17時19分 危機管理監。

▽19時42分 別荘着。

森元首相がここでもゴルフで顔を出しているのが興味深い。しかし、オバマ大統領に比べると、安倍首相のゴルフは2期目に入って計27回でかわいいものだ。しかも、安倍首相の場合、休暇ゴルフというより、仕事の延長のようなゴルフだ。

安倍首相のゴルフ・マップを作って分析すると、フジテレビの日枝久会長とのゴルフが5回と目立つ。

ちなみに、歴代米大統領のゴルフ通いを比較すると、イラク戦争で「ゴルフ絶ち」した前任のブッシュ大統領(2001~09年)は2期通算でゴルフは計24ラウンドだけ。

アイゼンハウアー大統領(1953~61年)は800ラウンド、ウッドロー・ウィルソン大統領(1913~21年)は1200ラウンド。オバマ大統領を上回る「ゴルフ大統領」は米国の歴史に残っている。

しかし、オバマ大統領の場合、ゴルフで気分転換というより、議会運営が二進も三進も行かなくなった上、自らの優柔不断さから国際情勢の混乱を招いてしまったため、ゴルフに逃げているという印象を与えてしまっている。安倍首相は他山の石としてほしい。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事