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北朝鮮の新型2段式長射程地対空ミサイルの構造を推定

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮KCNA2021年10月1日発表より「新型地対空ミサイル」

 10月1日に北朝鮮が発表したところによると、9月30日に新型の地対空ミサイルの発射試験が実施されていました。最近になって巡航ミサイル、鉄道ミサイル、極超音速ミサイルと立て続けに発射試験が実施されていますが、金正恩総書記の視察は無く、今回の地対空ミサイルも視察したのは朴正天書記でした。

 公開された新型地対空ミサイル写真は解像度が低く、現時点では精細な分析は困難ですが、部品構成の推定を行ってみたいと思います。

北朝鮮KCNA2021年10月1日発表より「新型地対空ミサイル」
北朝鮮KCNA2021年10月1日発表より「新型地対空ミサイル」

北朝鮮KCNA2021年10月1日発表より「新型地対空ミサイル」を拡大
北朝鮮KCNA2021年10月1日発表より「新型地対空ミサイル」を拡大

 発射車両は10輪のトレーラー型で垂直発射式です。噴射煙で隠れてしまい、キャニスター(発射筒)の本数や大きさの推定は難しくなっています。大まかな形状は過去にパレードで登場した地対空ミサイル「ポンゲ」の4連装型と推定されていたものに似ています。

参考:北朝鮮KCNAより2020年10月10日パレードに登場した型式不明の地対空ミサイル
参考:北朝鮮KCNAより2020年10月10日パレードに登場した型式不明の地対空ミサイル

 なお今回の北朝鮮の公式発表には新型地対空ミサイルの特徴が2つ記されていました。

  • 쌍타조종기술 (ツインラダー操縦技術)
  • 2중임풀스비행발동기 (2重インパルス飛行発動機)

双翼操舵方式

 ツインラダー(双舵)とは地対空ミサイルの技術では一体どのようなものを指すのでしょうか? 例として日本陸上自衛隊の03式中距離地対空誘導弾(03式中SAM)の初期型の操縦方式に「双翼操舵方式」というものがありますが、言葉の意味合いとしてはかなり近いように思えます。

 一般的な地対空ミサイルは安定翼4枚1組みと操舵翼4枚1組みをミサイルの前後に装備しています。安定翼を持たず操舵翼1組みだけという場合もあります。これに対して03式中SAM初期型の双翼操舵方式は前後の2組みが両方とも操舵翼となっていて、機構は複雑になりますが高い機動性を発揮できます。

 ただし日本は03式中SAM改良型で双翼操舵方式を止めています。北朝鮮が新型地対空ミサイルでこの珍しい方式を採用するメリットはあまり無さそうにも思えます。

 しかし写真を拡大してみると、北朝鮮の新型地対空ミサイルは構造的に2組みの操舵翼を持つ可能性が高いように見えます。

北朝鮮KCNA2021年10月1日発表より「新型地対空ミサイル」。説明書きは筆者の推定
北朝鮮KCNA2021年10月1日発表より「新型地対空ミサイル」。説明書きは筆者の推定

 北朝鮮の新型地対空ミサイルは2段式の長射程型です。従来の長距離地対空ミサイル「ポンゲ」はロシアのS-300地対空ミサイルシステムの48N6ミサイルを模倣して1段式かつ操舵翼1組み(安定翼無し)のシンプルな形状だったのと比べると、新型は翼の数や段数など全てが異なっています。

 第1段を切り離した後に空中目標に向かって飛んで行く第2段の構造に注目してみると、第2段だけで翼が3組みもあることがわかります。ブースターの第1段を含めると合計4組みです。

 どれが操舵翼でどれが安定翼かは筆者の推定です。解像度が低い写真なので正確なことはまだ判明していません。

 他国の例では、北朝鮮の新型地対空ミサイルと同じ2段式で合計4組みの翼を持つ地対空ミサイルは、イスラエルの「ダビデスリング」があります。大きさや性能は全く異なりますが、翼の枚数は似ています。ただしどれが操舵翼でどれが安定翼か構成は同じかどうかは不明です。

 北朝鮮の公式発表では쌍타조종(双舵操縦)とはどういう意味なのか詳しい解説は無かったので、日本の03式中SAM初期型の双翼操舵方式とは違う意味合いの可能性もあります。現時点でははっきりとしません。

デュアルスラストの意味か、それとも単に2段式の意味か?

 2重インパルス飛行発動機とは一見すると英語の「Dual thrust rocket motor」と同じ意味に受け取れます。デュアルスラスト・ロケットモーターとは、固体燃料ロケットの推進薬の形状を工夫して、燃焼パターンを段階的にしたものです。デュアルスラストは1段の燃焼中に噴射量が変化します。これは別に新しい技術ではなく、対空ミサイル用としては世界的に見ても一般的になっています。

 ただし今回公開された北朝鮮の新型ミサイルを拡大してみると、明らかに推進ロケット部分が2段式になっているように見えます。ロケットモーターを2段用意して燃焼し終わったら切り離す方式は、デュアルスラストとは意味が違ってきます。

 北朝鮮は単なる2段式ロケットモーターの意味で「2重インパルス飛行発動機」と記述した可能性もあります。

 ただし、韓国語では이중 펄스 로켓모타 (二重パルスロケットモーター) で英語の「Dual thrust rocket motor」と同じ意味になります。

  • 2중임풀스비행발동기 (2重インパルス飛行発動機) ※北朝鮮語
  • 2중펄스로켓모타 (2重パルスロケットモーター) ※韓国語

 이중と2중は同じ意味です。インパルスとパルスも近い言葉で、使われている単語がほぼ同じ文字列なので、意味も同じと考えるのが自然になります。

※2021年10月1日23時33分、韓国語の2重パルスロケットモーターの意味の紹介を追加し、デュアルスラスト説に結論を変更しました。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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