Apple新製品CMから見える90年代回帰というアップルの裏テーマ
今年の春のAppleの発表会が無事終わりました。今回も魅力的な製品がたくさん発表されました。
注目ポイントとしては、M1チップを搭載するハードウェアの拡大でした。なにしろ、とうとうMacBookもMac miniもiMacもiPad ProもM1チップ搭載のハードウェアとなってしまったわけです。
中でも戦略的なものを感じるのは、iPad Proの12インチモデルです。このモデルにだけ、Liquid Retina XDRディスプレイが搭載され、さらにその性能は2596分割されたローカルディミングゾーンを持つという聞いたこともないような高性能ぶりです。筆者ももし購入するのであれば、iPad Pro12インチだと思います。今のAppleのハードウェアの中心にいるのはiPad Proですからね。
そして、いちばん注目を集め、ヒットしそうなのがiMacです。
今回のiMacはその薄型の実現やコロナ禍での家でのビデオ会議などを意識したマイクとスピーカーの充実ぶりもさることながら、実にひさびさにiMacのカラバリが復活したことが大きな特徴です。
このあたらしいiMacのCMは、カラバリ復帰という文脈上当たり前のことですが、過去の自分たちが作り出した製品CMのセルフパロディになっています。
そして、このパロディという視点で見てみると、今回のAppleの一連の製品CMが実にパロディにあふれていることに気づきます。
まずは、Apple自身がタイトルでネタばらししているように「ミッションインポッシブル(1作目)」です。
元ネタはこちら。
そして、もう1つはこちら。
私は発表会のはじめの方でこれが流れたとき、あまりにもびっくりして、しばらく発表の内容が頭に入ってきませんでした。
ええ、それはAirTagのCMです。
元ネタはこちら。そう「マルコビッチの穴」です。
探し物をする製品のCMに、自分とはなにか?ということをテーマにしている「マルコビッチの穴」を持ってくるとは、なかなかにAppleにくい。そして、その製作に映画ばりの予算をかけている(としか思えないクオリティ)のも、もう脱帽です。すてき。
いやあ、マルコビッチの穴って何年前の映画だよ?と思ったところ、おや?と思うことがありました。整理してみましょう。
ミッションインポッシブル1作目の公開は1996年
マルコビッチの穴の公開は1999年
キャンディーカラーのiMacの登場は1999年
そう、見事にあの頃に元ネタが集中しているのです。約20年前であり、20世紀最後の頃です。
じゃあ、なぜAppleが今その時代に注目しているのか?ということになります。
ひとつには、PCの再定義が求められているということ。
ゲーミングPCの流れもありますし、PCといえばオフィスにあればいいということになりつつあったところに、コロナ禍で家に仕事が持ち込まれた結果、家にPCが戻ってきているという現状へのキャッチアップということです。そして、家にPCが大量に導入された最初の時代は、90年代だったということです。
もうひとつはカルチャーとして振り返るのに約20年前というのは、ほどよく古いということ。
最初のカラバリiMacは液晶ではなく、CRT(ブラウン管)であり、今となってみれば、巨大で分厚い物体でした。ネットはもちろんありましたけど、今のようなSNSもないし、スマホもない。つまり、約20年前なんていうのは、若い世代にとっては、もうとっくに異世界の時代であるということです。
つまり、そろそろ90年代というあの頃をネタにしてもいいよねとAppleは考えているということですね。
だって、今のAppleの発表会って、コロナ禍以降、毎回約1時間でたくさんの製品を発表するぎゅっとコンパクトな機会なんです。それなのに、これだけ90年代モチーフが繰り返されているのですから、もうそう考えるしかありません。
そして、大事なポイントとしては、Appleという会社は巨大なグローバル企業で、かつそのレベルでトレンドを決めてしまう会社だということです。
そんなわけで、Appleがこの時代に注目し始めたということは、じわじわといろんなところに、大きな影響となって、この先90年代回帰として現れるのではないかと思います。
それにしても、数多くの魅力的な製品があるのに、こんなことを考えさせられる製品の発表会を巨大な予算で作り上げ、その発表会で「マルコビッチの穴」を使うとは、ホントに参りました。やっぱりAppleすごい。