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3Dブームを作りつつ、3Dは特別な作品にこそ許されると伝える『アバター』再公開。続編にも向け…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
2009年公開の『アバター』

9/16から始まった『ロード・オブ・ザ・リング』4KリマスターのIMAX版の上映が好調である。池袋グランドシネマサンシャインのように“IMAXのメッカ”とされるスクリーンは、平日昼間にもかかわらず、座席の中央部がほぼ埋まっている状況。これから2作目の『二つの塔』(10/7公開)、3作目『王の帰還』(10/28公開)と続く3部作連続上映にも期待がかかる。

エポックとなった映画、それも壮大なスケール感が魅力の作品が、このように最新の映像環境で再び体験できることに、映画興行のポテンシャルを感じる。配信が活況の時代になっても、やはり大スクリーンでの没入に「出かける」喜びは失われていない。

同時に、『ロード・オブ・ザ・リング』に関しては、AmazonのPrime Videoで新作シリーズ『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』が9/1から配信スタートしており、過去の3部作を改めてスクリーンで観たい人が増えているのも事実。絶好のタイミングで、映画館で再上映されているわけだ。

同じようなパターンが『アバター』である。9/23から公開される『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』は、タイトルこそアレンジされているものの、簡単に言えば2009年の『アバター』の再上映である。

こちらも『ロード・オブ・ザ・リング』と同様に、新たな作品へのアピールも込められている。今年の末に、13年ぶりの続編『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が公開されるからだ。

振り返れば『アバター』こそ、エポックメイキング、歴史を変えた映画である。『アバター』は2022年の現在も、世界歴代興行収入でナンバーワンに君臨している。つまり世界で最もヒットした映画。13年経っても、その地位を譲っていない(2位は2019年の『アベンジャーズ/エンドゲーム』)。ちなみに日本国内では現時点で歴代11位(洋画では4位)

それだけ世界レベルでインパクトを与えた作品なのだが、その理由は「新たな映像体験」ということに集約される。

それまでも地球外の惑星を舞台にしたSF映画はいくつもあったが、『アバター』で描かれたパンドラの衝撃的に美しい風景、そこに生きるナヴィの造形、人間のキャラクターがナヴィと一体化するアイデア、そして演じる俳優の動きから表情をそのままCGに反映させるパフォーマンス・キャプチャ……と、ジェームズ・キャメロンの創り出した世界観は、映画の常識をアップデートするものだった。

そして何より、『アバター』は、3Dでの映画鑑賞を多くの観客に受け入れさせることに成功した作品であった。当時の『アバター』の日本での劇場公開では、3Dでの鑑賞のシェアが全体の80%以上だったと言われている。つまりほとんどの観客が3Dで観たことになる。「3Dで観なければ、その本質がわからない作品」だったのだ。

『アバター』以前から、3D作品ブームの予感はあったものの、『アバター』によってこのブームは本格化。アクション大作を中心に3Dバージョンに力を入れる作品が激増した。他のジャンル、たとえばダンス映画などにも3D作品が出現。「日経トレンディ」の「2010ヒット商品」で3D映画が2位に選ばれたりも。

しかし、3Dを想定し、3Dのカメラシステムで撮影した『アバター』と違って、もともと2Dで撮ったものを3D変換するという“無理やり”な作品も多発。上映時に煩わしいメガネをかけてまで観る負担もあって、この3D映画ブームは4〜5年で沈静化する。むしろ2022年はIMAXや4DXなどが主流となった。もちろん現在も3Dでの上映作品は続いているが、今回の『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』を観て、3Dというスタイルは特別な作品にこそふさわしい、という感慨に浸るはずだ。

今回のリマスターでは、明らかにパンドラのブルー、グリーン、ピンクなどの発色が鮮やかになっているし、3Dならではの浮遊感、距離感も久しぶりの鑑賞ということで、その効果が絶大であった。さらに一部、新たなシーンが追加されている。

2009年の公開後、DVDやブルーレイ、配信などで『アバター』を観直した人も多いだろうが、やはり「劇場の3D」は別次元の体験なのだと再認識させられた。その意味で今回の再上映は、感動を甦らせるチャンスでもある。

ただ、続編の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』がどこまで社会現象になるかは未知数である。前作のように「何もかもが新しい体験」というわけではない。それでも今回は水中での新たな体験を届けるうえに、ジェームズ・キャメロン監督なので万全の作品が用意されるのは間違いない。13年後というインターバルは長すぎるのか。あるいは満を持して、というタイミングで観客にアピールするのか。日本も含め、世界的にどのようなヒットになるのか注目したい。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』より
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』より

『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』

9月23日(金・祝) 全国劇場公開

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

12月16日(金)全国劇場公開

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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