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「21日間怒らない」が夏休みの宿題!さて、その結果は・・・

宮崎紀秀ジャーナリスト
中国の子供たちは「宿題」も大変?(ペイレスイメージズ/アフロ)

 夏休みが終わると、中国では新しい学年が始まる。日本以上に学歴信仰が根強い中国では、子供たちは、激しい受験競争にさらされる。9月は子供たちばかりか、保護者も期待と不安でいっぱいだ。そんな気分を反映してか、子供たちに課された「宿題」が話題になっている。特に、「奇妙な」宿題、が槍玉に上がり、中国メディアでは議論が喧しい。

課題は「毎晩月の絵を30日描く」

 ある幼稚園では、「毎日同じ時刻に月の絵を30日間描き続ける」という宿題が出された。親の1人は、昼間は幼稚園に通わなくてはならない子供の睡眠不足が心配で、自分で毎日夜中に月の写真を撮り、子供にその写真を見せては絵を描かせた。それを1か月続けたら4キロ痩せてしまった、と悲鳴を上げたという。

 幼稚園に言わせれば、子供の観察力を養い、1つのことをやり続ける根気と集中力を高めるのが目的である。宿題の意図を理解せず、文句を言う親の方が「奇妙」と非難する声も上がっている。

 「米粒を一億個数える」という宿題も紹介されている。これに対しては、1秒に3つ数えるとして、不眠不休で数え続け、少なくとも1年はかかってしまうというツッコミがなされている。確かに1年365日とすると、1年は3千153万6千秒だから、指摘は正しい。また、600粒の米が約50グラムなので、約8トン333キロになり、米が10キロ入りなら少なくとも833袋は必要だ、などという「頭脳派」によるネットでの書き込みも紹介されている。

 すでに宿題の悪夢に悩まされなくなった身からすれば、このような議論は、なかなか楽しい。そうした中で、心温まる宿題のエピソードを、北京の新聞「北京青年報」が詳細に報じたので紹介したい。

「21日間怒らない」

 これが湖北省武漢市の、ある小学校3年生のクラスで課された、夏休みの宿題であるという。この課題は、子供のみならず、保護者も一緒になって成し遂げなければいけない。

 新学期が始まって提出された宿題は、こんな内容であった。

「7月31日、晴れ、パパと一緒にセミを取った。とても嬉しい」

「8月4日、曇り、パパはお酒をたくさん飲んだ。ママは不機嫌だ。パパはママにお茶をいれて謝った」

「21日間怒らない」宿題を報じた北京青年報(9月19日付)
「21日間怒らない」宿題を報じた北京青年報(9月19日付)

 ここでの「晴れ」や「曇り」は本当の天気でない。その日の家庭の「気分の天気」という。宿題は、「気分の天気」を晴れ、曇り、雨、大雨のいずれかから選び、その横に「原因」や「対策」についても、毎日記録する必要がある。

「21日間怒らない」を達成できたのはクラスでわずか1家庭のみ

 さて、この「21日間怒らない」課題を成し遂げられたのは、44人の生徒のうち、たった1家庭だったという。

 宿題を出した先生の分析によれば、子供が怒る率より保護者が怒る率の方が、25パーセント高かった。しかし、この宿題は、家庭での親と子供のあり方を見直すのに、絶大な効果があったようだ。

 ある家庭は、長い間、父親とは別の場所に分かれて住んでいたが、この課題を達成するために、母親と子供が話し合った結果、夏休みは父親の働く都市に行き「一緒に宿題をやる」ことに決めた。その家庭には、「晴れ」でない日が4日あった。その母は「北京青年報」の取材に、こう話している。

「最初は、21日間怒らないのは簡単で、絶対達成できると思いました。でも実に難しいことがわかってきました。感情を抑えているという状況であるにもかかわらず、子供より私が怒る方が多かったです」

 また、他の家庭では、この課題を達成するために「一時休止コーナー」と「処罰箱」を作ったという。親子で衝突が起きたとき、怒り出しそうと感じた方が、ベランダに作った「一時休止コーナー」に行って、5分から10分間経って冷静になってから、再び話し合うようにした。また、怒ってしまった場合には、大人は「処罰箱」に50元(約850円)罰金を入れる。子供は50回腕立て伏せをしなければならない。この母親は取材に対し、こう続けている。

「処罰といっても、皆、怒りを抑えている時も楽しんでいました。子供は、ある時は、腕立て伏せをしているうちに笑い出してしまい、終わる頃にはすっかり怒りも消えしまいました」

 厳しい競争に勝ち抜くために、中国の教育は、暗記ばかりという非難が再三上がってきた。しかし、教育の現場では、このような工夫もたくさんなされている。もちろん反日教育ばかりされている訳では断じてない。

 豊かな情操教育を受けた子供たちの未来が、とても楽しみである。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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