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なぜ”ジダンの後任”は決定しないのか?コンテ、ラウール、ポチェッティーノ...必要な「辣腕」と刷新。

森田泰史スポーツライター
アセンシオに指示を送るジダン監督(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

レアル・マドリーが、新たな指揮官を探している。

マドリーは先日、ジネディーヌ・ジダン監督の辞任を発表した。2019年3月に電撃復帰を果たしたジダン監督だが、2020-21シーズンは無冠に終わり、クラブを去る決断を下している。

コーチングスタッフと話すジダン監督
コーチングスタッフと話すジダン監督写真:ロイター/アフロ

「私は去る。クラブから必要な信頼を得られなかった」とジダン監督はスペイン紙『アス』に宛てた手紙で辞任の理由を説明した。

「フットボールを、マドリーというクラブで要求されるものを、私は理解している。何も勝ち取れなかった場合、去らなければいけない。それを自覚している」

「私は船から降りるわけではない。指導することに疲れたわけでもない。この数カ月の私とクラブ、私と会長の関係は、もう少し違ったものであってほしかった。レアル・マドリーというクラブで20年過ごせたのは、私の人生で最も美しい出来事だった。それはフロレンティーノ・ペレス会長のおかげだ」

■ジダン・マドリーの結末

この数週間、現地メディアではジダン監督が続投するかどうかが連日のように報じられていた。

リーガエスパニョーラ第37節アスレティック・ビルバオ戦の前にフロレンティーノ・ペレス会長とジダン監督が意見を交わしていたといわれている。その時点では、まだマドリーにリーガ優勝の可能性が残されていたが、どういう結末を迎えるかは明確にされていた。

インテルを率いていたコンテ監督
インテルを率いていたコンテ監督写真:ロイター/アフロ

ラウール・ゴンサレス監督(マドリー・カスティージャ)、シャビ・アロンソ監督(レアル・ソシエダB)アントニオ・コンテ監督(フリー/前インテル)、マウリシオ・ポチェッティーノ監督(パリ・サンジェルマン)...。すでに後任候補が挙げられてきている。

マッシミリアーノ・アッレグリ監督やヨアヒム・レーヴ監督もリストアップされていたようだが、アッレグリ監督はユヴェントス復帰が決まった。レーヴ監督に関しては「この夏にマドリーやバルサとサインすることはない」と明言しており、実質的に招聘の可能性はなくなった。

エンバペとポチェッティーノ監督
エンバペとポチェッティーノ監督写真:ロイター/アフロ

コンテ監督は2018-19シーズン、マドリーの監督就任に近づいていた。フレン・ロペテギ監督(現セビージャ)が解任となり、その後任を定めようとしていた時期だ。S・ラモスを筆頭に、マドリーの選手たちはコンテの到着に難色を示していたといわれており、最終的にはBチーム相当のカスティージャで指揮を執っていたサンティアゴ・ソラーリ監督の昇任が決まった。

ポチェッティーノ監督は今季半ばにパリ・サンジェルマンの監督に就任した。パリSGとの契約が、あと一年残っている。だがスポーツディレクターのレオナルドとの確執が伝えられており、マドリー、トッテナムが関心を示している。

■契約延長問題と選手売却の可能性

マドリーが解決すべき課題は、監督の人事だけではない。

マドリーはセルヒオ・ラモスの契約延長の問題、選手獲得・放出、(レンタル組の処遇)について決断する必要がある。

マドリーはS・ラモス、ルーカス・バスケス、ルカ・モドリッチが今季終了時に契約満了となっていた。モドリッチだけが、2022年夏までの契約延長で合意している。

S・ラモスは今季、度重なる負傷に苦しめられた。この夏に行われるEUROに向けたスペイン代表の招集リストからも外れている。無論、マドリーで671試合に出場しているS・ラモスの能力に疑いの余地はない。だが30歳以上の選手には基本的に単年契約をオファーするマドリーのクラブ方針がS・ラモスの障害になっている。

勝利を喜ぶヴァランとS・ラモス
勝利を喜ぶヴァランとS・ラモス写真:ロイター/アフロ

2021-22シーズンに向けて、マドリーはすでにダビド・アラバを獲得している。アラバがマドリーの今夏の補強第一号となった。

一方、ラファエル・ヴァランの去就が不透明になっている。ヴァランの現行契約は2022年夏までだ。つまり、マドリーとしてはこのタイミングが「売り時」になる。新型コロナウィルスの影響でマドリーの財政は圧迫されている。移籍金5000万ユーロ(約65億円)から6000万ユーロ(約78億円)での売却が検討されている。

ヴァランは2011年夏に18歳でマドリーに入団した。マドリーはランスに移籍金1000万ユーロ(約13億円)を支払っている。ヴァランの獲得を進言したのは、当時補強担当の役割を与えられていたジダンだった。

アラバの獲得とエデル・ミリトンの成長で、マドリーはS・ラモスとヴァランの放出を考慮している。危険な”賭け”に思えるが、一方でマドリーはお金をつくる必要性にも駆られている。それがペレス会長のジレンマだ。

■刷新への期待

先日のスペイン『マルカ』のアンケートでは、「レアル・マドリーに必要なものは?」の問いに、「辣腕を振るった大刷新」に70%が、「徐々にチームを移行していく」に30%が票を投じている。10万人以上がそのアンケートに票を投じた結果だ。

マドリーの大刷新。その水平線には、キリアン・エンバペ(パリ・サンジェルマン)がいる。2022年夏までパリSGとの契約を残しているエンバペであるが、契約延長にはサインしていない。

マドリーは2018年夏にクリスティアーノ・ロナウドがユヴェントスに移籍して以降、得点力不足に悩まされてきた。トッテナムにレンタル中のガレス・ベイル(2013年夏加入/移籍金1億500万ユーロ/約136億円)、エデン・アザール(2019年夏加入/移籍金1億ユーロ/約130億円)と高額な移籍金で加わった選手たちは本来のパフォーマンスを見せられていない。

リーガ最終節のマドリー対ビジャレアルの一戦
リーガ最終節のマドリー対ビジャレアルの一戦写真:ロイター/アフロ

「僕たちはラ・リーガで最終節まで戦った。チャンピオンズリーグでは、決勝にあと一歩だった。多くの負傷、コロナの感染...難しいシーズンだった。(監督交代は)会長が決めることだ。僕に決定権はない。ただ、僕たちはタイトルを獲得できなかった。何かを変えなければいけない」

これはリーガ最終節ビジャレアル戦後のカゼミーロの言葉だ。ジダン・マドリーを長く支えてきた彼が語るように、マドリーには変化が必要だ。長い夏が、幕を開けようとしている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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