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MLBで山本由伸人気が過熱の一途を辿っている3つの理由

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLBで山本由伸投手の獲得競争が熾烈を極めている(写真:CTK Photo/アフロ)

【山本投手人気が過熱する一方のMLB】

 今オフFA市場で最大の注目選手だった大谷翔平選手のドジャース入りが決まり、人々の注目はMLB公式サイトのFA選手トップ25で大谷選手に次ぎ2位にランクインしていた山本由伸投手に移っているようだ。

 どのチームも計算できる先発候補を必要としており、ここまでの報道を見ていると、大谷選手以上の人気を博している感がある。

 契約交渉が秘密裏に行われた大谷選手と違い、山本投手サイド(もしくはチームサイド)から契約交渉に関する情報がメディアに伝わっており、ここまでメッツ、ヤンキース、ジャイアンツ、レッドソックス、フィリーズ、ドジャースの6チームが面談を行っている(またブルージェイズも興味を示していると報じられている)。

 そして現地時間12月15日に米国で報じられたところでは、12月上旬にわざわざ日本まで山本投手に挨拶に来ていたメッツのスティーブ・コーヘン・オーナーが、今度は山本投手を自宅に招き、メッツ首脳陣と一緒に夕食をともにしたようだ。

 さらにヤンキースも、山本投手がニューヨークに滞在している間に2度目の面談を行うとされており、山本投手の獲得競争にさらに拍車がかかっている状況だ。

【過剰ともいえる山本投手人気をもたらす3つのポイント】

 その過剰とも思える人気ぶりは、明らかに各チームのオファー内容にも影響し始めているようだ。

 山本投手がポスティングシステムによるMLB移籍を発表した当時は、契約総額2億ドルと予想されていたものが、最近では3億ドル前後まで予想額が引き上げられ、今では先発投手としてMLB史上最高額で契約したヤンキースのゲリット・コール投手(9年総額3億2400万ドル)に迫るとまで囁かれるようになっている。

 昨オフに千賀滉大投手がメッツと5年総額7500万ドルで契約合意した際、メディアからMLB未経験の投手に破格な待遇だとの声が挙がっていたことを考えれば、同じ立場の山本投手が千賀投手をはるかに凌ぐ契約を獲得しようとしているのだ。

 それではなぜ、このような現象が起こっているのだろうか。これまでも各所で様々な考察がなされているが、本欄では3つのポイントを指摘しておきたいと思う。

【先発投手に関して谷間だった今オフFA市場】

 最初に指摘しておきたいポイントは、今オフのFA市場だ。当然ながらどのオフもFA選手の顔触れは変わってくるので、大物FA選手が集中するオフがあれば、そうでないオフもある。

 そして今オフを先発投手に限って考えると、かなり厳しいFA市場だったと考えられている。前述通り山本投手が大谷選手に次ぐ高い評価を受けている時点で、おおよその想像はつくだろう。

 また山本投手のみならず、同じくポスティングシステムでMLB移籍を目指す今永昇太投手や上沢直之投手に対しても、各チームが積極的にアプローチを仕掛けているのも、そうした背景があるからに他ならない。

 例えば昨シーズンのサイヤング賞受賞投手で、今オフFA市場で先発投手として最高の評価を受けていた(MLB公式サイトで3位にランク)ブレイク・スネル投手は、ここまで契約交渉で目立った動きが出ていない。

 彼はレイズ時代の2018年に、投手2冠(勝利数と防御率)を獲得する活躍で最初のサイヤング賞を受賞しているが、それ以降は負傷なども重なり、昨シーズン32試合に登板するまで、一度も30試合登板に到達していない。つまりエースとしてケガなくローテーションを担える実績に乏しいのだ。

 一方で2番人気だった(同5位)アーロン・ノラ投手は、フィリーズで突出した成績を残せていたわけではないが、3年連続30試合以上登板を果たしたことが最大限に評価され、早々にフィリーズと7年総額1億7200万ドルで契約合意している。

 当然のことながらFA市場では、チームの大黒柱を担ってくれそうな先発投手に人気が集まる。そうした流れがある中で、ここまで先発投手(大谷選手を除く)の中で5年以上の契約を獲得できたのはノラ投手1人だけで、後は前田健太投手を含むベテラン投手たちが1~3年の契約に合意している状況だ。

 仮に昨オフ市場には、ジェイコブ・デグロム投手やカルロス・ロドン投手、ジャスティン・バーランダー投手らが名を連ねており、来オフもコービン・バーンズ投手、シェーン・ビーバー投手、ウォーカー・ビューラー投手、マックス・フリード投手らがFAになる予定で、先発投手に関して今オフFA市場は谷間だったと考えるべきなのだ。

 もし山本投手のMLB移籍が今オフ以外だったなら、ここまでの人気になっていたとは想像しにくい面がある。

【現在のMLBで25歳のFA選手はかなりの希少価値】

 次に指摘しておきたいポイントはすでに多くのメディアが指摘しているように、山本投手の25歳という年齢だ。昨今のMLBでは、20代半ばの選手がMLB在籍日数6年をクリアしてFA市場に回ってくることは希有に等しい。

 その理由は2つある。まず1つは、MLB初昇格の平均年齢が徐々に上昇していることだ。それに伴い、FA資格を得られる年齢も必然的に上昇せざるを得なくなっている。

 ちなみに揉めに揉めロックアウトまで発展した昨オフの労使交渉で、選手会側はこのMLB初昇格の平均年齢上昇とMLB在籍日数6年未満のノンテンダー数の拡大により年俸格差が生じていることを危惧し、今回の統一労働協約に盛り込んだのが年俸調停権を得る前の選手たちを対象としたボーナス制度だった。

 2つ目は、各チームが早い時期にMLB初昇格を果たした若手有望選手たちと、積極的に契約延長を結ぶ傾向が強まったためだ。

 その典型例が、ブレーブスのロナルド・アクーニャJr.選手、パドレスのフェルナンド・タティスJr.選手、マリナーズのフリオ・ロドリゲス選手だ。彼らは皆メジャーで活躍した翌年には長期大型の契約延長に合意している。

 彼らのような選手はMLB在籍日数6年をクリアしても、すでに長期契約を結んでいるため、20代半ばでFA市場に回ることがないのだ。

 そのため山本投手と同じ現在25歳で、トレードされたヤンキースとの契約交渉次第では来オフにFAになるフアン・ソト選手が、今オフもずっと注目を集める存在であり続けたわけだ。

【各オフの予算を使い切ろうとするMLB流補強術】

 そして最後のポイントは、各チーム、特に大規模マーケットチームは今オフに潤沢な補強予算を用意していたためだ。もちろんその理由は、大谷選手を獲得するためだと考えられる。

 つまり大谷選手の獲得に失敗したジャイアンツ、ブルージェイズ、メッツなどは、今もその予算が残ったままなのだ。それを山本投手に回すことができるため、獲得競争が熾烈になればなるほどオファー額が上がってしまうわけだ。

 ちなみにMLBでは、残った予算を翌オフに回そうという考え方をしない。それぞれのオフにオーナー陣から与えられた予算を使い切りながら、しっかり補強していくものなのだ。

 編成担当責任者からすれば、毎オフどれほどの予算を得られるのか分からないので、その時に与えられた予算でできうる限りの補強をしていくしかない。そうなれば是が非でも欲しい選手を獲得するため、これまでも相場など関係なく、与えられた予算をフル活用するのは当然のことだろう。

 果たして山本投手を射止めるのは、どこのチームになるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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