「もう、そうなったらしゃあない」。「ジャルジャル」が語る覚悟
これまでになかった笑いを作り続ける「ジャルジャル」の福徳秀介さん(36)と後藤淳平さん(35)。2018年2月から毎日1本ショートコント動画を配信し続け、総再生回数が3億回を突破するなどネットでも大きなうねりを起こしています。また単独ライブツアー「JARUJARU TOWER 2020-ジャルってんじゃねぇよ-」も5月から5都市で開催。どこまでもスピードを上げながら疾走する二人ですが、その根本には「もう、そうなったらしゃあない」と語る“覚悟”がありました。
「爆笑レッドシアター」後の客離れ
後藤:今回の単独ツアーでは5都市14公演で約1万人の動員を予定しています。これまでで一番多い数です。何年か前から「単独ライブのお客さんを増やそう」ということをとにかく考えてまして。
福徳:正直、ここ数年は全ての仕事を「ライブの動員に繋がるか」を判断基準に考えてきました。
芸人になって2年目くらいの時に、吉本興業の社員さんに「シティボーイズ」さんのライブに連れて行ってもらったんです。僕らから見たら、その時点で、もうお三方ともいい歳やなと思ったんですけど、お客さんはパンパンに入っているし、ドッカンドッカン爆笑をとってらっしゃった。本当にすごいと思いました。
そういう原風景というか、この仕事を始めた頃からの感覚みたいなものがあって、やっぱりお客さんに来てもらえる存在でありたい。その思いはずっと強いです。
後藤:この前、立川志の輔師匠の落語会に行かせてもらったんですけど、びっくしりました。渋谷のPARCO劇場、1カ月毎日満員。チケットも取れない。
また、ここは聞かなアカンというところではそれだけのお客さんがシーンとしてピシッと聞いているんです。それも気持ち良かったですし、プロの落語家とプロのお客さん。その感じもすごかったです。
福徳:正直な話「爆笑レッドシアター」(フジテレビ、2009年~2010年)で人気が出て、単独ライブもすぐにチケットが売れて。でも「レッドシアター」が終わったら、お客さんが離れて行った。「こんなに離れるか」というくらい離れました。それも経験したので、もうそうはならないように、お客さんを掴む。よりその思いは強くなりました。
「もう、そうなったらしゃあない」
後藤:一回来てくださったお客さんは満足して帰ってもらえるように。それだけを考えています。僕らの単独ライブを見て「もう一つやったなぁ…」と思われたら、もう、それはしゃあないです。
単独ライブは全く言い訳できないところ。本当に、もう、そうなったらしゃあないです。一番見てほしいところですし、一番自信があるところですし、本当の姿ですから。
2年ほど前からYouTubeで毎日ネタ動画をアップするようにしたんですけど、実際、それでお客さんの数も増えましたし、層も変わりました。これまで男性は本当に少しだけだったんですけど、今は半分くらいが男性になりましたしね。
毎日動画をアップというと大変みたいに思われるんですけど、これはね、意外にそうでもないんですよ(笑)。一回の収録で35本撮りです。その日の昼頃から夕方までで1カ月分をガッと撮ってしまうんで、そんなにYouTubeに時間を取られてはないんです。
福徳:なんか、ネット記事を見ていたら「『ジャルジャル』は週2でYouTubeに時間を費やしている」みたいなことが書いてあったんですけど、それはとんでもないデマ情報で(笑)。
後藤:アップしているものを僕らは“ネタのタネ”と言ってるんですけど、単独ライブやる時に毎回ネタを150本くらい考えるんです。その中からライブでは10本ほどやるんですけど、要は、140本くらいはボツになってるんです。
それをYouTubeにアップして“成仏させる”と言いますか。そんな思いもあって、始めた企画でもあったんです。
福徳:毎日アップする中で、感じることというか、新たな気持ちみたいなものにも出会えました。ネタに対してはなかなかストイックな方で、しっかりと完成したものしか見せないというスタンスだったんです。
基本的な部分は変わらないんですけど、毎日動画でアップしているのは本当にネタになったものではなく、その前のアイデアというか“ネタのタネ”なので、自分たちとしたたら、かなり荒々しい状態であげている感覚もある。でも、それはそれで喜んでもらえるんだと。そこに気付いて、良い意味で、少し肩の力を抜いてネタができるようになりました。
後藤:もちろん、YouTubeを見て単独ライブに来てくださったお客さんには「あ、やっぱり単独ライブの方が面白いんやな」と思ってもらえるように作ってるつもりではあるんですけどね。「Youtubeの方が面白い」となってしまうと、それはダメですから。
お笑いとアート
後藤:YouTubeをやって発見があったように、今まさに挑戦中なんですけど「JART(ジャール)」というユニットを作って、お笑いとアートの融合みたいなところを攻めていく試みもやっているんです。
福徳:もともとの話で言いますと、2010年にイギリスで単独ライブをやりまして。すごく反応が良くて、2年連続でやったんです。で、次はパリでやったんですけど、これがびっくりするほどスベりまして。1時間半、本当に笑いゼロやったんです。こんなこと初めてで。
あまりにも衝撃的だったんで、いろいろと人に聞くと、フランスは“笑い”というよりも“表現”を見せないとダメだと。そうなると、世界中の人を笑わせるんだったら“表現”の方が近道なのかなと思いまして。そこを目的に、アートの試みを始めたんです。
後藤:「お笑いですよー」と言って世界に行くと、間口が狭い。「アートなんです」という入り方の方がまだスッと入っていけるんじゃないかと。
去年の9月に「JART」としてやったイベントがありまして。
お客さんからその場で言葉をもらって、上の句・下の句で言葉をシャッフルしてバンと出したタイトルですぐに即興でコントをする「超コント」というイベント。これは僕らが以前からやっていたものだったんですけど、そこに音楽家の渋谷慶一郎さんに来ていただいて、コントに合わせてピアノを弾いてもらうということをやったんです。
そのイベント「超コントPLUS feat.渋谷慶一郎」が文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品に選ばれまして。これはもしかして、ここをきっかけに海外に挑戦しやすくなったんじゃないかと、今、ワクワクしてる最中なんです(笑)。
福徳:それをなぜ二人でやらないかと言うと、僕らはあまりにも笑かしたい願望が強すぎて、結局、芸人的な色の方にどうしても寄ってしまうんです。
でも、それだったら、これまで通り、純粋に笑いを作ればいいわけだし、そこのバランスをまさに考えている最中でもあるんですけど…。笑いに偏るのを中和する意味で、いろいろと芸術分野の方に来ていただいて、いい感じに芸術寄りにしていただこうと。
あと、現実的なことを言うと、体力の衰え、見た目の衰え、段々おじさんになっていく。これは確実なことです。
今はまだ学生コントができるだろうし、コントを2時間し続ける体力もあるけれど、10年後どうなっているのか。もちろん、やり続ける努力はしますけど、そういうことを考えると、この「JART」の方がまだ体には優しいんで(笑)、表現者として長生きするためにもこちらを何とか形にしていきたいなと思っています。
後藤:2018年の「M-1」でやった国名を挙げていくネタも、あんなのは反射神経もいるし、若さゆえの勢いやったりもするんですけど、落ち着いてやることも模索しないといけないなと。
「死ね」というツッコミは言わない
福徳:あと、これはずっと変わらず根本としてあるものですけど「死ね」というツッコミは言わないですね。
やっぱり、常にハートフルでありたいというのはあります。ハートフルであってほしいとも思いますし、どんなことでも根本は楽しく。そこはずっとそうですね。
後藤:YouTubeも、日々の些細な、ささやかな癒しになったらいいなと。本当に。
福徳:YouTubeの動画、一応、ゴールは8000本としてるんです。これまで単独に向けて作ってきたネタ、日の目を見なかったネタをカウントしてみると、動画を始めた時で8000本あったんです。
毎日1本ずつアップしていって、8000本に到達するのが2039年の予定。僕らのホームページ「JARUJARU TOWER」にネタを毎日アップしているんですけど、8000本アップする頃には、画面をスクロールしていく長さが、実は世界一になる予定なんです。
これは全く公にしていない目標で、密かな楽しみとして目指してまして(笑)。世界一スクロールに時間がかかるホームページなんで、下の方の動画は、かなり頑張って見にかからないと相当見づらいかもしれませんけど…。ここはあんまりハートフルじゃないですね(笑)。
(撮影・中西正男)
■ジャルジャル
1984年3月20日生まれの後藤淳平と83年10月5日生まれの福徳秀介が2003年にコンビ結成。NSC大阪校25期生。上方漫才大賞優秀新人賞、ABCお笑いグランプリ優勝など受賞多数。15年、18年には「M-1グランプリ」で3位に、19年には「キングオブコント」で3位になる。18年2月から毎日ショートコント動画をYouTube公式チャンネルで配信し続け再生回数が3億回を突破。単独ライブツアー「JARUJARU TOWER 2020-ジャルってんじゃねぇよ-」は大阪公演(5月7日~10日、シアタードラマシティ)、福岡公演(同16日、17日、西鉄ホール)、名古屋公演(同23日、ウインクあいち)、仙台公演(同29日、電力ホール)、東京公演(同30日~6月2日、ルミネtheよしもと)が行われる。オンラインのネタサロン「ジャルジャルに興味ある奴」も展開している。