Yahoo!ニュース

知的障害のある娘に13歳で結婚生活を強要? 中国で父親が複数の男に未成年の娘を嫁がせたワケ

宮崎紀秀ジャーナリスト
中国が抱える社会問題の1つが農村の結婚問題(写真は北京の天安門)(写真:イメージマート)

 中国で知的障害のある未成年の娘を、実の父親が次々と複数の男たちの元に嫁がせていた。結納金などを騙し取るのが目的だったと見られるが、娘が最初に婚約させられたのは、13歳だった可能性もある。中国の農村における嫁不足、結婚にこだわる価値観、人権や遵法の意識の低さが凝縮されたような事件だ。

30歳過ぎの男の元に「若くて子供を産める女性」

 事件があったのは、湖南省娄底市にある農村。

 中国のネットメディア「澎湃新聞」が報じ、知的障害のある女性の2人目の嫁ぎ先になった男性のケースについて詳しく取材し、経緯を明かしている。

 2019年10月、その男性は、同じ村の人から、近くの村に住む女性を紹介された。男性はすでに30歳過ぎ。ずっと出稼ぎに出ており、その歳まで結婚できないのが、一家の悩みだったという

「女性は18歳で、若くて子供を産める。こんな人は農村ではなかなか見つからない」

 紹介者は、そう促した。

 実際に会ってみると、女性には知的障害があった。それでも男性は婚約に同意し、紹介者に1000元(2万円弱。現在のレートで計算、以下同)、女性とその父親にそれぞれ2000元(4万円弱)ずつ支払った。

“妻”は実は14歳だった?

 翌月、結婚式と宴会を開いた。女性がまだ法律上結婚できる年齢に達していないとして、法的な手続きなどは時期を待つという運びだったが、男性の側は紹介者に6000元(12万円弱)、女性の父親に68000元(約134万円)を結納金として支払った。

 結婚式を終えた後も男性は出稼ぎのため村を離れなくてはならない。だが、知的障害のある女性を連れていくわけにもいかない。女性はそのまま父親と同居を続け、男性が帰省した際に迎えに行って、家に連れて来るということになった。

 それから2年後、男性は女性の本当の年齢を知った。2005年1月生まれなので、結婚式を挙げた時にはまだ14歳だったわけである。男性が仕送りのために銀行のカードを作ろうとして、女性の身分証を手に入れて気づいたという。それまで彼女の身分証は父親の管理の元にあった。だが結婚してすでに2年経っている。男性はそれ以上こだわらなかった。

最初は13歳で結婚生活を強要?

 その翌年2022年、今年の春節に男性が帰省して、女性を迎えに行ったが、父親に送り返され、女性には会えなかった。村の紹介者に事情を尋ねると、改めて電話があり、男性の弟に性的暴行を受けたため婚姻を解消したい、などと言われたという。だが男性の弟も出稼ぎに出ており、女性と接する機会はほとんどなかった。

 問い詰めたところ、村の紹介者が真相を明かした。女性の父親は、女性をすでに別の男の元に嫁がせているという。さらに、男性の前にも他の男と婚約していたという話で、この3、4年の間に3回も嫁いだというわけだった。

 この男性の前、1人目との婚約は、2018年で、その時は男と一緒に暮らしたという。事実だとすれば、わずか13歳にして結婚生活を強要させられたことになる。

 男性の側は、女性の父親に結納金などの返還を求めた。父親は手持ちが無いと言って、借用書を書いたが、返済の期日になると「借用書は無理やり書かされた。結婚解消の理由は、性的暴行で、牢屋に送らないだけマシだ」などと罵倒し、逆ギレしたという。

 男性の側は警察に通報した。

金欲しさに娘を利用した父親

 父親は詐欺の疑いで取り調べを受け、身柄はすでに検察に送られたという。警察によれば、父親は、ろくに仕事をしておらず、金を稼ぐために、娘がすでに婚約をしていることを隠して、年齢のいった男性と婚約させ、結納金を騙し取っていた。一方、その娘、即ち複数の男の許嫁にされた女性は、まだ未成年であることから、養護施設に保護された。女性の3番目の嫁ぎ先では、婚姻生活を続けたいと希望しているそうだが、担当者は、「あり得ない」とした上で、女性の生活が保障されるよう法規に従い手続きを進めるという。

 中国の農村での嫁不足は深刻だ。にもかかわらず、男性なら結婚して家庭を築き、子供を授かり老後に備えてこそ一人前という考え方に強く囚われている。現実と古い価値観のギャップを埋めるために、未成年者や知的障害者が犠牲になる事件がしばしば起きる。

 14億人の国民に支持されていると自賛する体制は、社会の構造がもたらすこうした問題を根本的に解決できてこそ、初めて胸を張れるはずだ。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

宮崎紀秀の最近の記事