阪神タイガース・西田直斗選手のリスタート!育成契約から再び支配下選手への復帰を誓う!
■覚悟はしていたが、思った以上のショックだった
「超変革」を掲げて船出した金本阪神が1年目のシーズンを終え、これからいよいよ秋季キャンプに突入しようという、まさに出発の日。若虎たちが空港へ向かうために独身寮「虎風荘」の前からタクシーに乗り込んでいたそのとき、奥の室内練習場からは一心不乱にバットを振る音が響いていた。
スイングに汗を流していたのは西田直斗選手。大阪桐蔭高校から入団して5年目のシーズンを終えたばかりだ。球団から“育成契約”の提示を受け、ようやく決意を固めた。今、その心境を明かしてくれた。
自身も昨年から「危ないな」と危機感は持っていたという。だからこそ覚悟をもって臨んだシーズンだった。誰よりも遅くまで残って打ち続けたし、走力を向上させるために個人レッスンを受けたこともあった。「結果も出ていないのに、自己満足や」などの心無い声を耳にすることもあったが、気に留めないようにしていた。自分なりに精一杯やった…つもりだった。
しかし現実を突きつけられ、やはりショックだった。相当なダメージだった。聞かされたときは何も手につかなかった。
■一緒に悩み考えてくれた友達、先輩、恩師・・・
育成契約を結ぶのか、断ってタイガースを辞めるのか、はたまた引退してほかの道に方向転換するのか。選択は自身に預けられた。
悩みに悩んだ。「最初は辞めようかとも考えました。辞めてまったく違う仕事をしようかと…」。野球だけが人生のすべてではない。他にも好きなこと、やりたいことだって見つけられるだろう。野球を辞めることでまた違う人生を歩むこともできるし、成功するかもしれない。
もちろん野球を続ける道も考えた。「トライアウトを受けようか、もしくは社会人とか…」。都市対抗や日本選手権など、高校時代に味わった“明日なき戦い”に身を投じることも思案した。
様々な人に相談した。高校時代の監督、中学時代のチームの先輩、幼なじみ、友達…みんな親身になって考えてくれた。ありがたかった。
小中学時代の野球塾の恩師・村上隆行氏(元近鉄バファローズ、現06BULLS監督)には背中を押された。「育成になることは人生の分岐点や。そういうことがあった方が、大きくなれるんや。ケガ、結婚、人それぞれ分岐点はある。それがお前の場合、育成という形なんや。スイッチを入れてくれたと思ってやったらええんや」。
ハッと気づかされた。そう考えて取り組むことで、見えなかったものが見えてくるんじゃないか。これまでやってこなかったこともやれるんじゃないか。そこで腹を括った。
「タイガースのユニフォームを着たくても着られない人がたくさんいる。まだクビと言われたわけじゃない。これは球団からの『もう1年がんばれ』というメッセージだと受け止めよう。育成でも残してもらって、ユニフォームが着られることに感謝しよう」と気持ちを切り替えた。
■家族の大きな力
そして何より支えになったのが家族の存在だったという。「自分のやりたいように決めなさい」と任せてくれた。「どれが正解って決まっていないし、どれも間違いじゃないよ」。自分の気持ちを一番に考えてくれ、どんな答えを出しても受け入れてくれる。「辞めることは間違いじゃない」と言ってくれたことが、逆に気持ちを楽にしてくれた。だからこそ、育成選手として続ける決心をすることができた。
「でも球団の人に(決意を)伝えたとき、ホントはまだモヤモヤはしてたんですよ」。照れくさそうに胸の内を明かす西田選手。そりゃそうだろう。人生をそんな短期間で決めることは至難の業だ。
それでも自らを奮い立たせるかのようにこう言った。「色んな新しい人が入ってきてすぐに忘れられる中で、育成になったことでまた注目してもらえる。桐蔭から入った1年目のように。そりゃいい注目じゃないのはわかっているけど、きっとみんな『アイツ、どうするんやろ』と見ている」。すべてをプラス材料に変えようと決意したのだ。
■今岡コーチと取り組んできた打撃改革
もちろん気持ちだけでどうにかなるものではないこともわかっている。何より野球の技術向上が求められる。「とにかく結果です。打たないと!」春季キャンプから今岡誠コーチに徹底的に指導してもらってきたことが、ようやく少しずつ結果として顕れはじめている。
まずはタイミングだ。「タイミングが遅かったんです。それとタイミングまでの準備です」。
よく言われる「1,2、3」の「2」を大事に、長くとることだという。「2が決まれば自然と3になる。2が疎かだと3もダメ」だそうで、そのためにお腹と背中に力を入れる。「これをちゃんとやって打つと、ホントにしんどい。今までにないくらい腰が張る」。
しかし春からやり続けてきたお陰で打球も飛ぶようになった。周りからも「バッティングが変わったな」と言ってもらえるようになった。シーズン後半では試合を決めるホームランも見せ、進化しつつあるバッティングを結果で示した。
「やってきてよかったと思うし、もう1年やったらもっとよくなるだろうっていうのは楽しみでもある」と自分に期待する。と同時に、付きっきりで指導し、尋ねたらその倍以上教えてくれるという今岡コーチになんとか恩返しをしたいと望んでいる。
育成契約を受け入れ、やると決めた以上はとことんやる。「自分をしっかり持って、自分でいいと思うことはドンドン取り入れてやりたい。練習から勝負は始まっている。試合で打てるような練習をする。この1年、しがみついて絶対に見返します!!」
そしてこう付け加えた。「やっぱりボク、野球が好きなんで」。
決めたらとことんやり抜く。周りに流されず、ブレない芯の強さを持つ。西田選手は再び2ケタの背番号を取り戻すことを固く誓った。