韓国の「コロナと宗教」 全村民=信者の村で集団感染 市側のワクチン接種勧誘に応じず
ここ数日、1日の新型コロナ感染者数が過去最多の7850人(14日集計)となるなど、難しい状況が続いている韓国。
日本メディアでもこの状況を巡って「K-防疫の崩壊」や「文在寅政権が失敗云々」という記事をよく見るが、ここでは日本でのコロナ対策ではあまり出てこなかったキーワードについての話を。
宗教団体。
感染が本格的に始まった2020年2月以降、韓国では幾度か「コロナと宗教」が話題になっている。感染予防対策に対する非協力的姿勢や集団感染…。
11月以降は「ソウル郊外の教会で共同生活者200人が集団感染」のニュースが報じられる。山間にある人口420人の集落は「居住者すべてが信者」。そこで半分以上が陽性の診断を受けた。
これが韓国内の感染状況に決定的な影響を与えているわけではない。しかし日本の立場からも少し考えさせられる話ではある。
- サムネイルは”宗教集落”のなかの施設の様子。関連ニュースを報じる「YTN」
舞台は「宗教集落」
あるグループがワクチンを集団で接種しない。これは全く罪ではない。
しかし韓国では宗教団体が接種の勧めに応じないことに頭を悩ませる事態が起きた。
舞台はソウル郊外、天安(チョナン)市のG教会。
韓国の全国メディアでは実名を控えて報じられている。何かの間違いを犯しているわけではないからだ。唯一、地方メディア「忠清トゥデイ」のみがここを「グローバル改悔(フェゲ)ヨンサン教会」と実名で報道する。
- サムネイルは信者らが集団生活を送る施設の様子。「JTBC」アカウントより
11月21日に現地在住の信者のうち1人の感染が明らかに。追って集団生活を送る信者たちを検診した結果、11月23日に209人の集団感染が発表された。その日の韓国全体での感染者数が4115人だったから、およそ5%に該当する。
さらに翌日には50名の感染が追加で明らかになった。合計259名は村の人口420人の半分以上でもある。
その実態について市のトップは緊急会見を開き、こう説明した。
「雰囲気が多少閉鎖的な宗教施設だという点は否定できません。外部の人達が頻繁に出入りする地域ではありませんね」(23日に会見したパク・サンドン天安市長)
そこは人口のほぼ全てが”出家信者”、かつ周囲と隔離された生活を送る「宗教集落」なのだ。
市長「強制的な接種は…」
大韓民国
忠清南道
天安(チョナン)市
クァンドク面ソジェ
改悔(フェゲ)村
該当の教会が位置する場所だ。
天安市はソウル地下鉄網と繋がっており、時に「首都圏」と捉えられる。人口約67万人(2018年現在)の街の中心地から離れた山間にその教会は位置する。
もともと各地に暮らしていた信者が1989年からここに集まり集団生活を送りはじめた。
このため韓国メディアでは「村全体が接種拒否」という強い表現で報じる向きもある。住民の92%がワクチン未接種なのだ。前出のパク市長は事情をこう説明する。
「市の職員から地域のリーダー格の方に電話や直接交渉を通じてワクチン接種を積極的に勧めたといいますが…その村の雰囲気自体が外部からの接触もあまりなく、(団体が)接種を好まなかったのだと思います」
しかし市長は、こうも言う。
「強制的な接種を行うわけにもいかない」
信者「別の病気がここで治ったから…」
教会側には公式サイトが存在せず、今回の件について声明なども発表されていない。当事者たちからの数少ない”情報発信”は、全国メディア「JTBC」が顔出しNGの女性信者にマイクを向けた際の言葉しかない。
「別の病気がここに来たら治ったんですよ。だからここで暮らしています」
個々からも察するに、団体自体に「独自の思考が強い」という面はあるか。前出の「忠清トゥデイ」はその成り立ちについてこう報じている。
「初期(1989年頃)は祈祷院(宿泊施設などもある大型の聖堂)の形式でスタートし、今では全国各地から信者が集まり共同生活を行っている」
「この村では2014年に当地に居住する小中学生20人あまりを学校に通わせない、いわゆる『集団登校拒否』を起こし、社会的に物議を醸したりもした。自分たちが直接宗教プログラムで子どもたちを教育するという理由からだった」
また今回、明らかになった感染者の多くは「無職」だと「忠清トゥデイ」は報じる。いっぽうで「一部信者は教師、医師、弁護士などいわゆるエリート層」とも。
いっぽうで同媒体はこの教会が、国内のキリスト教界隈では「異端」とはみなされていないと記す。それは聖書の解釈方法からではなく、”活動ぶり”からの評価であると。
「キリスト教界では該当の教会を異端とはみなしていない。勢力を全国に拡大させようとしたり、他の教会に迷惑をかけたりしていないからだ。自分たちだけで信仰生活を共有するためだと見られる。改悔(フェゲ)村の住民は近隣の村の住民と疎通を行わず、彼らだけの枠のなかで生活しているという」
- 該当の教会の様子。関連ニュースを報じる「MBN」より
韓国社会と宗教そしてコロナ
2021年4月7日に世論調査会社「韓国ギャラップ」が「韓国人の宗教1984-2021 (1)宗教の現況」という調査結果を発表した。
・「現在信じる宗教がある」とする人:2004年54%→2014年50%→2021年40%。
・男性より女性、高年齢であるほうが宗教を信じる人が多い。
・20代~30代の脱宗教現状が加速。
つまりは調査結果によると現代韓国人の約6割は「無宗教」ということ。
しかし「脱宗教」の流れが進むなか、2020年来のコロナ禍ではいくつかの宗教団体の動きが目立っている。
2020年2月にはキリスト教系の「新天地」が大邱にて換気の悪い空間での大規模礼拝を実施。国内最初の大型集団感染が起きた。
また同月にはソウル市城北区に位置する「サラン第一教会」で、当時すでに当局が中止の要請を出していた日曜礼拝を強行。周辺住民と騒動を起こす出来事があった。この団体は牧師の政治的思想から「極右教会」と呼ばれる。左寄りの文在寅政権の「言うことは聞かない」という明確な狙いのもとに、行動を起こしたのだった。
この先日本でも、宗教であれ政治であれ、強い思想を持つグループの感染予防ガイドラインにそぐわない行動が大きく報じられることがあるだろうか。現在、韓国のG教会は保健当局の権限により「関連施設の使用禁止」となっている。そして政府側が規定するソーシャルディスタンスのガイドラインに背いていないか、調査を受けている状況だ。