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7・26を前に、相模原障害者殺傷事件・植松聖死刑囚が最近、獄中で描いた表現について考える

篠田博之月刊『創』編集長
植松死刑囚がイラストを描いた獄中ノート現物(筆者撮影)

今年も7・26前後に様々な取り組みが

 今年もあの凄惨な相模原障害者殺傷事件が起きた7月26日がもうすぐやってくる。社会的には風化が進み、忘れられつつあるが、障害者支援などに関わってきた人たちにとっては忘れることができない日だ。この事件を一貫して追ってきた月刊『創』(つくる)にとってもやはりこの時期になるとこの事件について考えざるをえない。

 7月26日(水)当日は、津久井やまゆり園では、かながわ共同会主催の追悼式が予定されている。式典は10時半から11時40分に行われるが、その前後の時間、9時から10時半と12時半から17時までは鎮魂のモニュメントに献花も行われる。

 詳しくは津久井やまゆり園のホームページを参照いただきたい。

https://tsukui.kyoudoukai.jp/news/20230623-1.html

津久井やまゆり園の鎮魂のモニュメント(筆者撮影)
津久井やまゆり園の鎮魂のモニュメント(筆者撮影)

 また同日、元職員の太田顕さんたち「共に生きる社会を考える会」が主催する「津久井やまゆり園事件 犠牲者を偲ぶ会」も、津久井やまゆり園近くの千木良公民館で13時20分から行われる。津久井やまゆり園の園長のスピーチもあるそうだ。

 私はと言えば、今年も7月23日(日)午後、新宿のロフトプラスワンで相模原事件についてのトークイベントに出る予定になっている。澤則雄監督の映画『生きるのに理由はいるの?』を一部上映し、『こんな夜更けにバナナかよ』の作者・渡辺一史さんと議論するトークライブだ。詳しい内容は下記をご覧いただきたい。

https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/255468

相模原障害者殺傷事件の真相に迫る!

 また8月6日(日)13時半~16時半には「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」のシンポジウム「津久井やまゆり園事件 あれから何が変わったのか?」が京王線橋本駅前の「ソレイユさがみ ミーティングルーム1」で開催される。問い合わせ先は下記だ。

sugi808@infoseek.jp

 事件に関心のある方は是非それらに足を運んでほしいと思う。7月23日のロフトプラスワンでのトークイベントでは、渡辺さんからも植松死刑囚の近況などについて興味深い報告も行われるし、私は彼が最近描いている獄中マンガやイラストを紹介し、そこから何を読み解くか考えてみたいと思っている。作品には当然、彼の思いが反映されており、分析する価値はあるのだが、『創』に既に掲載しているのは送ってきたものの半分ほどに過ぎない。何気ない表現にも彼の思想性や差別性が反映されてはいるから、これをそのまま公開するのはどうなのか、などと考えざるをえないものもある。当日は未公開の植松の表現なども可能な範囲で紹介したいと思う。

分析の素材ではあるが悩ましい問題も

 このへんはなかなか難しい問題で、最初に彼の手記なども掲載した書籍『開けられたパンドラの箱』を刊行した際、彼の障害者観が反映されたイラストの掲載を見合わせたところ、傷害のある方から批判されたこともあった。彼の差別性が反映された表現であっても、事件について分析するために必要であれば、自主規制してはいけないのではないか、載せ方の工夫をすればよいのだ、という意見だった。これは正論なのだが、実際にはなかなか難しい。

  植松死刑囚の描いたマンガ(月刊『創』より)
  植松死刑囚の描いたマンガ(月刊『創』より)

 例えばこれは最近、『創』6月号に掲載したマンガだが、よく読み解くと、植松死刑囚の考え方が反映されていることがわかる。あまり露骨に彼の差別性が反映されたものはもちろん『創』でも公開されないことを理解しているので、彼もそこは判断して公開可能ではないかと思われる表現を送ってくるのだが、それにしても彼の人間性や考え方を分析するためと言ってもそのまま公開して良いかどうかは検討しなければならない。

    右上の「刺青」「大麻」の男は本人か(月刊『創』より)
    右上の「刺青」「大麻」の男は本人か(月刊『創』より)

 例えばこのマンガも何気ない表現だが、右上に描かれた刺青を入れて大麻を吸っているのは植松死刑囚本人と思われる。自分のイメージをこんなふうに彼は投影しているわけだ。

   「不幸な人、幸せな人」(月刊『創』より)
   「不幸な人、幸せな人」(月刊『創』より)

 このマンガの「不幸な人、幸せな人とはなんだろう」というセリフも、植松死刑囚が考えているテーマを反映したものだろう。

衝撃だったイラスト「世界は美しい!!」

 ある意味で衝撃だったのが、以前もヤフーニュースに紹介したが、彼が最近、突然、前後の脈絡もなくノートに描いてきたこのイラストだ。世間が抱いている植松死刑囚のイメージとあまりにもかけ離れているゆえに衝撃なのだ。いったい本人はどういう思いでこのイラストを描いたのだろうか。

  「世界は美しい!!」(月刊『創』より)
  「世界は美しい!!」(月刊『創』より)

 ちなみに彼はこうしたマンガをどんなふうにして編集部に届けているかというと、上のイラストのもとになった彼の獄中ノート現物が、この記事の冒頭に掲げたものだ。絵の部分とセリフの部分をノートの左右ページに描き分け、それを合体させ、セリフは手書き文字でなくパソコンで打ち直して掲載しているのだ。

 同様に以前ヤフーニュースでも紹介した刑務官を描いたマンガは、ノートではこう描かれている。

植松死刑囚の獄中ノート(筆者撮影)
植松死刑囚の獄中ノート(筆者撮影)

 この刑務官を描いたマンガについて書いた記事は下記だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20230630-00356016

 植松死刑囚はこうしたマンガについて不許可にしようとした拘置所側と争って懲罰房扱いにされたらしいのだが、それはこのマンガではないかというのが私の推論だ。

ついでながら、植松死刑囚の再審請求をめぐる近況については下記の記事に書いたのでご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20230429-00347530

障害者殺傷事件の植松聖死刑囚の再審請求棄却と最近書かれた獄中手記の中身

植松死刑囚の獄中ノート

 彼は死刑が確定する前から、イラストや文章など、獄中で大学ノートに書いたものをかなりの分量で送ってきていた。そのまま発表できないものも含めて、植松死刑囚について分析する、あるいは彼がなぜあのような考えに至って凄惨な事件を引き起こしたのか考える素材となり得るものだ。編集部には未公開の彼の記述や表現がまだたくさん保管されている。

マンガを描いた獄中ノート(筆者撮影)
マンガを描いた獄中ノート(筆者撮影)

 7月23日のロフトプラスワンでのトークでは、『創』などで公開するのはとりあえずしていないものも含めて、彼の表現をめぐっても少し議論できればと思っている。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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