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全米19箇所に建つ「バスケットボールの虎の穴」

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
NBAで4季プレーしたケイシー・ジェイコブセンもSHOOT360を絶賛する(写真:ロイター/アフロ)

 全米19箇所に建てられた民間のバスケットボール練習場「SHOOT360」が注目を集めている。

 同施設に取材を申し込むと、19箇所のなかで最も広い敷地を誇るカリフォルニア州トーレンスに招待された。中に入ると、この9月よりDivision1、カリフォルニア州立大学アーバイン校に入学する18歳のガードが自主練習する姿が目に飛び込んできた。

撮影:著者
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 彼は言った。

 「個人練習には最高の場所です。今日は3ポイントのトレーニングを中心にしています。

 あらゆる角度から3ポイントを打てるし、その成功率をデータで示してくれるから、自分のストロングポイント、ウィークポイントが分かるんです。シーズンに入ってからも、なるべく多くここに通いたいと思っています」

 18歳がシュートを放つと、ゴールしたか否かにかかわらず、数秒後に自動的にボールが手元に返ってくる。よって、ひたすらシュートを打ち続けられる。

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 フープ上のスクリーンには、利用者がどの位置から何本のシュートを放ち、どれだけ決まったかが色分けで表示される。彼の言う通り、自身の課題が把握できる。

撮影:著者
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 隣のコートでは高校生が、またその隣では父親の指導を受ける小学生が、といった具合に、子供から大人までバスケットボーラーが思い思いにシュート練習していた。

 この日、中学生の息子の送迎をしていた恰幅のいい中年男性は話した。

 「息子は週に2~3回、ここで練習している。30分で200本ものシュート練習ができ、ゲームもやれる。信じられないスピードで上達しているよ。本当に素晴らしい環境だ。ここに通えて助かっているよ」

撮影:著者
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 シュートだけではない。画面に出てくる円に向かって正確にパスを出す機具や、徹底的にドリブルを磨くトレーニングも行われていた。利用者が申し込めば、30分単位でコーチからマンツーマンレッスンを受けることも可能である。

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 「SHOOT360」の代表を務めるジョン・ペターソンは語る。

 「トーレンスだけで、月に800名ほどの方がやって来ます。年間に40名くらいのNBA選手も、ここで汗を流しますね。場所がら、ロスアンジェルス・レイカーズ、ロスアンジェルス・クリッパーズ、ゴールデンステイト・ウォーリアーズの選手が多いかな。フィニックス・サンズ、トロント・ラプターズ、サンアントニオ・スパーズ、ニューヨーク・ニックスの選手も来ますが」

ケイシー・ジェイコブセンは名門、スタンフォード大出身。スペインやドイツでもプレーした
ケイシー・ジェイコブセンは名門、スタンフォード大出身。スペインやドイツでもプレーした写真:ロイター/アフロ

 現在53歳のペターソンも、9歳からバスケットボールのチームに入った。裁判官である父と、教師である母の下で育ったペターソンは、幼いころからスポーツの世界で生きていけたら、と思っていた。両親はペターソンに、「精一杯努力しなさい」「他者を尊敬しなさい」「ベストの自分を作りなさい」と教育した。

 カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校在籍中に指導者を志し、サンフランシスコ大、メトロステイト大、オーロン・カレッジ、ロヨラ・メリーマウント大などで指揮を執った。女子高校生チームのコーチも3年経験している。

撮影:著者
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 その後、ペターソンは、バスケットボールを愛する、より多くの若者の個を伸ばせるビジネスとして、SHOOT360の経営に乗り出した。

 「この施設の最大のメリットは、自分のプレーを瞬時に客観視できる点、数字で見られる点、自分のポジション、フープまでの距離が的確に分かる点でしょう。

 コーチ陣は若く、エネルギーに満ち溢れていて、本物の技術を持っている人間ばかりです。そのうえで、次世代の選手を伸ばす作業に喜びを感じるタイプをセレクトしています。一人一人のコーチたちも、自らが成長していかねばなりません。それには、選手の数だけ教え方も違うということを把捉する必要があります」

撮影:著者
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 入口のドアから最も遠いシュート練習場の壁には、UCLAを10度全米チャンピオンの座に導いた名伯楽、ジョン・ウッデンの言葉が刻まれていた。

 <Repetition is the key to learning(反復こそが、技術習得のカギである)---Coach Wooden>

 ペターソンにウッデンの哲学を記した意図を訊ねると、彼は応じた。

 「技術を体に浸み込ませることが、我々の狙いなのです。映像で自己のプレーをチェックしながら、何度も何度も反復練習する。それが向上につながります」

撮影:著者
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 ウッデンは12歳の頃に父から受けた「毎日、自分だけの傑作を作りなさい」というアドバイスを実践し、指導者となってから反復練習の重要性を説いた。※ジョン・ウッデンについて詳しく知りたい方は拙著『ほめて伸ばすコーチング』(講談社)をご覧ください。

 ウッデンが鬼籍に入ったのは10年以上前だが、SHOOT360には、その教えが脈々と生きている。

 帰りがけに、恰幅のいいお父さんに礼を告げると、彼は言った。「この環境に身を置けば、いくらでも上達するだろうね」。

 確かに何人ものNBA選手が自主トレするだけのものが、ここにはある。本場、アメリカのバスケットボール界の強さを垣間見た。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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