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汗まみれ土まみれで発掘!縄文人の落としモノに魅せられた女性たちに出会って!

水上賢治映画ライター

 「発掘現場」ときいて、どんなことをイメージするだろうか?

 一日中、土を掘り起こしているようなことをイメージするのではないか?

 いずれにしても、現場作業に女性が参加していることはなかなか想像できないのではなかろうか?

 実際、考古学の世界では男性の数が圧倒的に多いのが実情だという。

 その中で、松本貴子監督のドキュメンタリー映画「掘る女 縄文人の落とし物」は、縄文に魅せられ、発掘に携わる女性たちに焦点を当てる。

 なぜ、彼女たちにカメラを向けることになったのか?

 取材過程から彼女たちとの出会い、知っているようで知らない発掘現場の表と裏まで、松本監督に訊く。(全四回)

「掘る女 縄文人の落とし物」の松本貴子監督 撮影:山崎エリナ
「掘る女 縄文人の落とし物」の松本貴子監督 撮影:山崎エリナ

この仕事に従事しているのは男性が圧倒的に多い。

でも、数少ないけど飛び込んでいる女性たちがいることへの興味

 前回(第一回)は、縄文を題材にした作品を模索する中で、土偶や土器ではなく、「発掘する人」に着目した経緯について訊いた。

 そこから男性の数が圧倒的に多いという考古学の世界においてマイノリティといっていい発掘現場で働く女性にフォーカスすることになる。

「入口として『発掘する人』を掘ってみたらなにか新たな発見があるのではないかと思ったわけですけど、その時点では、つてもないですし、誰を取材すればいいのかもわからない。

 発掘現場に長く携わる人なのか、それとも、いわゆる有名な土器を発掘した人なのか、見当がつかなかった。そもそも、わたし自身が発掘現場にいったことがなかったので、どういうところかもまったくわからないわけです。

 ただ、人づてに考古学の世界は、圧倒的に男性の研究者や関係者が多いとは聞いたので、男性を主体にしたものにしても真面目なものになってしまうのではないかというか。

 『考古学とは』『縄文土器とは』『土偶とは』といったものすごく硬い学術系の作品にしかならない気がしたんです。

 そういう専門的でアカデミックである意味、スタンダードでメインストリームのストーリーしか、わたし自身が見出せなかった。

 そう考えたときに、逆の立場にいる数少ない女性たちの存在が気になったといいますか。

 実際問題としてこの仕事に従事しているのは男性が圧倒的に多い。

 でも、そこに数少ないけど飛び込んでいる女性たちがいる。この世界に入った経緯から現場でどんな風に働いているかまですごく気になりました。

 で、わたしの直感でしかないんですけど、女性たちならば『なにかドラマチックなことがあるんじゃないか』『まったく知らない発見があるんじゃないか』と思ったんです。

 そこには、変な話ですけど、失敗談や女性ならではの気苦労みたいなこともあって、アカデミックになりすぎない柔らかい作品にできるのではないかとも思いました。

 それで、女性の研究員であったり発掘の調査員をちょっと紹介してもらうことで動き始めました」

土偶を語るときは熱くなる八木さんとの出会い

 こうして、松本監督は、縄文遺跡の発掘調査に携わる女性たちを3年間にわたって追うことになる。

 本作には、個性豊かな発掘調査に携わる女性たちが登場する。

 そのはじまりは、本作にも登場している、当時発掘が始まったばかりの岩手県の洋野町にある北玉川遺跡の調査員、八木勝枝さんからはじまった。

「さきほど、発掘現場に携わる女性だったら、なにかあるんじゃないかと勘が働いたといいましたけど、でも実際のところは当然未知で。

 映画で主役を張れるような人に出会えるのかはまったくわからない。そう簡単にみつかるわけはないんだよなと思っていました。

 その中で、ある方から八木さんを紹介していただいて、じゃあとりあえず一度会いましょうということになりました。

 それで実際に撮影に入る前、八木さんがかかわっていた発掘調査の報告会があるというので、そこを訪ねてお会いしたんですね。

 実際の映画をみてもらうとわかるのですが、八木さんはわりと言葉数が少ないんですけど、土偶とか土器とかを語るときは力が入るというか。

 言葉にグッと気が入って熱い感じになるんですよね。

 話をうかがっていると、長きにわたって発掘現場に携わっていらっしゃいますけど、まったくこの仕事への情熱を失っていない。

 で、お酒をのみながら席だったこともあったと思うんですけど、土偶のことを『すごくかわいい』といったりする。土偶のことになるとなんか八木さんめちゃくちゃかわいくなって、乙女チックになるんです。

 映画の中でも、これまで発掘してきた数々の土偶をものすごく愛おしく紹介するシーンがありますけど、あのまんまなんです。

 この瞬間に、『この人は!』と思って、もうそこで映画を作りたいと思っていることをお伝えして、まずは八木さんに取材をお願いしました」

「掘る女 縄文人の落とし物」より
「掘る女 縄文人の落とし物」より

「次の現場はおそらくなにも出ない」と告げられて

 そこから八木さんの次に手掛けられる発掘現場を取材することが決定。しかし、そこで意外なことを伝えられたという。

「八木さんの次の現場、じゃあ撮影に行きますのでと言って、OKもいただいた。

 でも、いざ発掘が始まる直前になったら、八木さんがすごく躊躇しはじめたんですよ。で、聞いたんです。『どうしてですか?』と。

 そうしたら、八木さんから『次の現場はおそらくなにも出ないです』と告げられた。何も出ない可能性が高いということは、土器が出てくるような映像はとれない。それでわたしが期待するような撮影ができないのではないかということでためらっていた。

 でも、それをきいたわたしとしては『なんで?どういうこと?』といった状態で。発掘のことをなにもわかっていないですから、『なにも出ないとこ掘って意味あるの?』とか『そんなところ無理して掘らなくてもいいのではないか?』など、もう頭の中は疑問だらけなわけです。

 詳しく聞くと、新しい発掘現場は、いままでやってきて、これまでいろいろな土器が出てきた発掘現場の延長線上にあって。

 その新しい現場はその延長線上の一番端で、その先は崖になっている。崖の側は危ないので、縄文人もそんなところには住まないし、なにかを作ることもない。だから、可能性として土器や土偶が出ることはまずないとのこと。でも、ないということをきちんと確認して確定させることも発掘調査でしなければいけないということなんですね。

 その説明を受けて、はじめは『ええっ』と思ったんですけど、次には『なにも出ないというのもそれはそれでけっこうおもしろそう』と思っていってみることにしたんです。

 それで案の定、なにも出てこない(笑)。発掘作業ってだいたい何かしら出てきて、期間が延長されることもしばしばあるそうなんです。

 けど、あまりになにも出てこないから、期限より早く終わっちゃったんです。

 さすがにこれだけだとなにもつかめない。それでまた別の方をということでご紹介いただいたのが大竹幸恵さんになります」

(※第三回に続く)

【松本貴子監督インタビュー第一回はこちら】

「掘る女 縄文人の落とし物」

監督:松本貴子

ナレーション:池田昌子

出演:大竹幸恵、八木勝枝、伊沢加奈子ほか

公式サイト https://horuonna.com/#

シモキタ・エキマエ・シネマほか全国順次公開中

場面写真およびポスタービジュアルは(C)2022 ぴけプロダクション

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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