アカデミー賞ノミネート作品も平均2時間22分。映画がどんどん長くなってる?
このところ、劇場公開映画、とくにハリウッド大作について「上映時間が長い」という反応をよく目にする。同じ料金で長く楽しめるのは、たしかにオトク感はあるものの、集中力や生理現象などを考慮すると、長すぎるのも困りもの。人間にとって一本の映画の最適時間は「90分」なんて説もあり、上映時間の長さで劇場行きを躊躇する声も聞く。
ここ数年、配信が活況を呈したこと。また、当たる作品がどんどん限定的になっていることで、とくにハリウッドでは、劇場公開の大作に「特別感」を求めているのが明らか。それも上映時間のロング化を後押ししているようだ。2023年公開の『ジョン・ウィック』新作も2時間49分と予告され、ややビビってしまう。
一年を象徴するアカデミー賞作品賞を眺めても、「映画の長さ」を実感できる。今年の作品賞ノミネート10本を、長い順に並べると……
アバター:ウェイ・オブ・ウォーター 3時間12分
エルヴィス 2時間39分
TAR/ター 2時間38分
フェイブルマンズ 2時間31分
逆転のトライアングル 2時間27分
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 2時間20分
西部戦線異状なし 2時間16分
トップガン マーヴェリック 2時間11分
イニシェリン島の精霊 1時間49分
ウーマン・トーキング 私たちの選択 1時間44分
10本を平均すると2時間22.7分。たしかに「見ごたえ」「重量感」が求められるとはいえ、ちょっと長いような。
過去10年の作品賞ノミネート、平均時間を振り返ると(年代は授賞式の年。各末尾は作品賞受賞作)
2022年 2時間19分 コーダ あいのうた
2021年 1時間57分 ノマドランド
2020年 2時間21分 パラサイト 半地下の家族
2019年 2時間11分 グリーンブック
2018年 1時間55分 シェイプ・オブ・ウォーター
2017年 2時間5分 ムーンライト
2016年 2時間10分 スポットライト 世紀のスクープ
2015年 2時間3分 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
2014年 2時間5分 それでも夜は明ける
2013年 2時間15分 アルゴ
と、今年が最長となった。また今年は、『バビロン』(3時間9分)、『RRR』(2時間59分)などのノミネートの可能性もあった。そうなっていたら、さらに数字が上昇。やはり長尺は現在のトレンドだと感じる。
上記の10年のうち、平均時間が長かった年は、2022年なら『ドライブ・マイ・カー』(2時間59分)、2020年なら『アイリッシュマン』(3時間30分)、2013年なら『ジャンゴ 繋がれざる者』(2時間45分)のように極端な長尺作品があったから。一方で今年(2023年)は「全体的に長い作品が多い」印象。
そして平均を押し上げてきた長尺作品は、2016年の『レヴェナント:蘇えりし者』(2時間36分)、2015年の『6才のボクが、大人になるまで。』(2時間46分)のように、作品賞最有力の一本とされながら受賞を逃しているケースが多い。過去10年でノミネートの中で最長の作品が受賞したケースはゼロだ。そう考えると、今年は『アバター』の受賞の可能性は限りなく少なそう。あくまでも傾向の話だが。
ちなみに過去10年のアカデミー賞作品賞の平均上映時間は、2時間1分。なんとなく傑作映画としての適切な長さが見えてくる。そして今年、この平均に最も近いのは『トップガン』!
ただ、歴代の作品賞受賞作で3時間を超えるものも数多い。
風と共に去りぬ 3時間42分
ベン・ハー 3時間32分
アラビアのロレンス 3時間27分
ゴッドファーザー PARTⅡ 3時間20分
ダンス・ウィズ・ウルブズ 3時間1分
シンドラーのリスト 3時間15分
タイタニック 3時間14分
ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 3時間21分
これ以外にも、特に1950〜60年代あたりは、3時間近い映画が作品賞を受賞するケースが目立っていた。しかし近年の作品賞受賞作は、2003年の『ロード〜』を最後に3時間超えがなくなり、前述のとおり2時間前後の作品で占められるようになった。
かつては、3時間近い作品が「年に1〜2本の特別感」を醸し出していたが、今年のアカデミー賞からもわかるように日常的になっている感は否めない。一方で、その反動で「2時間スッキリ」を狙ったアクション映画がやや増加に転じる傾向もあり、これは歓迎したいところ。
アカデミー賞を間近に控え、『フェイブルマンズ』『逆転のトライアングル』『エブリシング〜』など日本での公開が相次ぐ。『アバター』もまだまだ上映中。長めの上映時間に、どうぞ体調を万全に。直前に「お餅を食べる」とトイレが近くならない……なんて説もあるので、お試しください。