Yahoo!ニュース

NHK、史上最高の利益剰余金5,135億円を記録。NHKという名の投資ファンド。有価証券保有が4割も

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
出典:東洋経済オンライン

NHKの『値下げ』と『2倍割増』受信料よりも事業支出が多い構造改革と放送法を考える…

という記事を書いたが、東洋経済の『NHKの正体』の特集でも、『受信料ビジネス』という視点で解説されている。

特筆すべきは、受信料が減りながらも確実に利益を出し続ける経営手腕だ。

■金融資産が急膨張 まるで投資ファンド

出典:東洋経済オンライン
出典:東洋経済オンライン

□2022年9月末時点のNHKの連結剰余金残高は5135億円

営利を目的としない特殊法人でこの数字というだけでも貯め込みすぎの観があるが、それより注視すべきは8674億円もの金融資産残高だ。剰余金残高の1.7倍近くに上る。

□受信料収入は2018年度(2019年3月期)に過去最高の7235億円を計上したが、営業スタッフによる戸別訪問を段階的に廃止した影響で、2021年度の受信料収入は6896億円へと約340億円減った。

□特別な事情で多額の資金流出があった年度を除けば、毎年1000億円を超える事業CFを生んできた。

□そしてその半分強が設備投資などに回り、残りは余資となり国債など公共債での運用に回されてきた。その結果として積み上がったのが、7360億円もの有価証券である。

金融資産は総資産の6割を占めており、このほかに保有不動産の含み益が136億円ある。まるで資産運用をなりわいとしているファンドのようなバランスシートだ。

□内訳は、番組配信費が125億円増えた一方で、国内放送の番組費が461億円減っている。

これら放送関連の費用以外では、契約収納費つまり受信料の徴収にかかる費用が158億円減ったのに、人件費は28億円増えている。

□減価償却費は年々増加傾向にある。2021年度の連結の減価償却費は858億円。この分がキャッシュアウトを伴わない事業費用に計上されており、事業収支の何倍ものCFが手元に残るのである。

□そして何よりもNHK本体は法人税負担がない。一般事業会社の税金等調整前当期純利益に当たる税金等調整前事業収支差金は、連結で478億円だ。

https://toyokeizai.net/articles/-/647127

出典:東洋経済オンライン
出典:東洋経済オンライン

■NHKの財務諸表は簡単に入手できる

NHK予算のページ

https://www.nhk.or.jp/info/pr/yosan/

2023年、令和5年度の収支予算と事業計画

出典:NHK
出典:NHK

https://www.nhk.or.jp/info/pr/yosan/assets/pdf/2023/youyaku.pdf

一般企業でいうところの、『P/L損益計算書』で見る限り、2023 年の受信料が減り6,240億円、事業収入も6,440億円となった。一般企業でいうところの営業利益の『事業収支差金』は▲280億円の赤字が見込まれる。

2023年度(令和5年度)の事業計画では、事業支出の6,720億円の内容に放送に5,031億円74.9% 受信料の収納に607億円9.0%となっている。

出典:NHK
出典:NHK

https://www.nhk.or.jp/info/pr/yosan/assets/pdf/2023/siryou.pdf

なぜか、事業支出の6,720億円以外の数値が合わないと思うと…、

よく※キャプションを読むと、『業務ごとの経費(物件費)に、人件費と減価償却費を要員・施設の投じて配分したもの』とある。

つまり、変動費と固定費が見事に混ぜられているグラフだった。

■NHKの決算書から見える高収益構造

現在、令和4年度の中間決算が発表されている。

https://www.nhk.or.jp/info/pr/kessan/

便宜上、1年間の令和3年度(2021〜2022)の財務諸表を比較してみた。

ジャンル別番組制作費

出典:NHK
出典:NHK

ジャンル別の番組制作費3,070億円がどのような構成で支出されているかがわかる。

ニュースが一番高く30.8%を占め945億円

ライフ・教養で25.5%で783億円

スポーツ14%430億円

ドラマ11.8%361億円

エンタメ音楽 7.6%234億円

と続く。

これらは出演料、著作権料、放送権料、美術費、回線料、人件費、減価償却費を含めた番組総経費と固定費も含まれている価格だ。

出典:NHK
出典:NHK

実質の固定費と分離させたのがこちらのグラフ

出典:NHK
出典:NHK

直接の変動費にあたる経費は、3,070億円のうち、63%の1,937億円だった。制作会社などの人件費やスタジオはもこの中に含まれるので、NHK側のコストは37%の1133億円あることとなる。

■『契約収納費』622億円に縮小だが、実質は62億円の公平な受信料負担の強制力

出典:NHK
出典:NHK

受信料の『契約収納費』は、『営業経費』という名目だが、『営業経費=契約収納費+人件費+減価償却費』である。136億円はNHK側のコストであることがわかるので実質の回収コストは、486億円。それでも経費関連の手数料が292億円を占める。法人委託の手数料も131億円。実質に集金に動いているスタッフコストは62億円分と、10%だ。このスタッフで未納世帯は2倍の負担といっても何も影響力がない事がわかる。

■一人当たりの平均給与は、1,629万円

出典:NHK
出典:NHK

給与1,114億円と退職手当・厚生費517億円を足すと1,631億円,

職員数10,175人で割ると、平均一人当たりで1,629万円となる。純粋に給与1,114億円だけでも、平均一人あたり、1,094万円となった。

https://www.nhk.or.jp/info/pr/kessan/assets/pdf/2021/gaiyou_r03.pdf

令和3年度NHK単体財務諸表 令和3年4月1日〜令和4年3月31日

NHK単体

純資産合計が8,579億円

内訳は、固定資産充当資本という、公益法人特有の資本が4,923億円。剰余金が3,654億円、建設積立金1,693億円も積立られている。資産合計で1兆2,720億円だ。

出典:NHK
出典:NHK

https://www.nhk.or.jp/info/pr/kessan/assets/pdf/2021/t-zaimu_r03.pdf

一方、法人税が発生するグループ会社もまとめた連結のB/Sがこちらだ。

資産合計は、1兆3,961億円となり、純資産は9,577億円に及ぶ。

出典:NHK
出典:NHK

令和3年度NHK 連結財務諸表 令和3年4月1日〜令和4年3月31日

https://www.nhk.or.jp/info/pr/kessan/assets/pdf/2021/r_zaimu_r03.pdf

出典:NHKより筆者作成
出典:NHKより筆者作成

B/Sをもとに、NHK連結の有価証券や剰余金を緑で表示してみた。

まずは調達のクレジット側

NHK連結グループの資産は1兆3,961億円

資金調達の68.6%は純資産で9.577億円

流動負債の大半は受信料の前受け58.2 %

固定負債の大半は退職給付引当金で79 %

NHKの資産の1割は退職給付引当金であった。

そして運用のデビット側

流動資産の71.4%は有価証券

固定資産の19.9%は長期保有の有価証券

有価証券の合計で5,487億円となり、1.3兆円資産の39.3%も占めている。さらに建設積立資産が1,693億円と12.13%を占める。

損益計算書や予算書では赤字に見えても…。バランスシートでは、内部留保や減価償却費計上による莫大なキャッシュフローがあることがわかる。

公益法人ということでNHK本体には税負担がない。連結の決算でも法人税は24億円ほど。純資産9,577億円の0.25%にすぎない。

この状況でインターネットからも受信料という話がでてくる時点で、NHKの『本来業務』をまっとうすべきではないだろうか?

日本を代表する受信料で運営される公共放送のNHKの運用が、有価証券保有率が4割近くもあるというのは、もはや公共ファンドとして存在させ、受信料の負担者に、配当金を還元するべきかと思う。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

神田敏晶の最近の記事