Yahoo!ニュース

NHKの『値下げ』と『2倍割増』受信料よりも事業支出が多い構造改革と放送法を考える…

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
出典:NHK

KNNポール神田です。

2022年1月18日、総務省は、正当な理由もなく受信契約に応じない人に割増金を請求できる制度を、NHKが4月に導入することを認めた。割増金の水準は、通常支払うべき受信料の2倍

https://news.yahoo.co.jp/articles/3a64bf1481ba5928afb63385a63acdddb7680342

なんとも…、時代錯誤もはなはだしいとしか思えない…。

受信契約料の微増よりも取り立て代金のほうが高いのが現状だ。

公平という名のもとに1割近くも受信料の価値を毀損している。

『割増金』にしたことによって、さらに回収コストがかかる。

■『NHK』でなくても公共放送は成立する?

ABEMAが視聴数2,343万をW杯で達成。

英政府がBBCの受信料廃止を提案

NHK党が国政政党に。

民放の約10倍もの全国1万人超えの職員

平均給与は1,090万円退職金4,000万円。NHKの受信料の契約収納費は年間700億円(受信料収入の10%)。

NETFLIXの国内売上推定720億円。受信料支払い率は81%。

割増金を2倍にしたところで何も改善されないのが現状だ。

むしろ、公共放送は、現在のNHKでなくても、新たな『放送協会』を考える良い機会なのではないだろうか?

1950年の『放送法』で受信料を制定しているのは、戦後のテレビ(放送)の一般家庭への普及と促進のためだった。

そして、『放送法』は『放送による公共の福祉と健全な発達を目的』としていたので、すでに目的は達成済みの法律といえるのではないだろうか?

度重なる『受信料支払い』に関する問題も『法律』で制定されているから起こるものだ。

■令和5年2023年、NHK経営計画より

https://www.nhk.or.jp/info/pr/yosan/

2023年 受信料の値下げ

1,225円から、1,100円と、月額125円の値下げ 

推定▲700億円 の減収

出典:NHK 経営計画修正版(2021−2023年度)
出典:NHK 経営計画修正版(2021−2023年度)

出典:NHK経営計画(2021−2023年度)
出典:NHK経営計画(2021−2023年度)

収入が減っているのに、それでも支出が上回る経営

受信料収入よりも事業支出が上回る…これは赤字になって当然だ。

https://www.nhk.or.jp/info/pr/plan/assets/pdf/2021-2023_setsumei.pdf

修正版でも赤字である。

『受信料収入<事業支出』の構造はまったく変わらない。

出典:NHK 経営計画修正版(2021−2023年度)
出典:NHK 経営計画修正版(2021−2023年度)

https://www.nhk.or.jp/info/pr/plan/assets/pdf/2021-2023_keikaku_syuusei.pdf

■そもそも何に6,720億円も支出しようとしているのか?放送関連費用は3,553億円の55%だけ

出典:令和5年度収支予算、事業計画及び資金計画
出典:令和5年度収支予算、事業計画及び資金計画

NHKの2023年度の収支計画がこちらだ。

収入は6,440億円 受信料が96%で 6,240億円

国からの交付金は0.5%の36億円

放送に関連するコストは、3,553億円で全体の55%だ。

つまり、残りの45%の2,887億円はそれにまつわる削減で可能なコストと考えてもよい。

なんといっても人件費関連だ。合計で1,730億円で全体の26%に至る。

NHKの受信料の3割近くは人件費と考えても良い。

しかもその人件費は放送の直接、制作面に関わっていない職員の人件費だ…。

これを軽減すればさらに、受信料が減っても対応できる。

プロダクションや子会社への支出は放送費用に含まれているからだ。

https://www.nhk.or.jp/info/pr/yosan/assets/pdf/2023/syushi.pdf

■そもそも『放送法』の『目的』は何?…

受信料を公平に負担する根拠はこの『放送法』である。

この放送法で決めていることを整理してみたい。

第1条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。

1 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。

2 放送の不偏不党真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。

3 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000132

この『放送法』の目的だが、1の『(放送を)公共の福祉に適合する』や『(放送の)健全な発達を図る』は、とっくの昔に達成できていると考えられる。

さらに、2の『放送の不偏不党』3の『健全な民主義の発達』のほうがむしろ怪しいとさえ思えてきている…。つまりこの『放送法』そのものが当初の目的を達成しながらも、まったく機能していないのではないだろうか?

そして、なぜ?このような法律があるかというと…

1926年(大正15年昭和元年)に発足した社団法人日本放送協会は、まさに国営放送局であり、大本営発表などの戦争プロパガンダに利用されてきた。そして戦後の(終戦は1945年)1950年にGHQの管理化において電波3法のひとつとして制定された。

今から73年も前の法律であり、幾度も改正されているが、本来の目的は一緒のままであり、時の政府のプロパガンダに二度と利用させないという命題があったからだ。

しかし、『選挙速報』などのNHKの選挙戦における調査報道力は戦争に例えるとCIA並みの情報力ともいえるだろう。政府にとってNHKは公共放送機関であるとともに『報道』という名の諜報機関であるのかもしれない。

そして12人の経営委員会衆・参両議院の同意を得て、内閣総理大臣により任命されるた人たちで運営され、その人たちからNHK会長が選任される。『不偏不党』が目的のひとつであればこの構造はおかしい。

むしろ、この人たちは公共放送ならば、国民の選挙で選ばれるべきではないだろうか?。政治権力から切り離すべきだ。国政選挙の年に委員を選べばコストも軽減され、NHKの運営に対して国民との距離は近づくはずだ。

■『NHK(日本放送協会)』の本来の目的は…

第15条 (日本放送)協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるよう豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする。

第64条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、同項の認可を受けた受信契約の条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000132

『公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるよう豊かでかつ良い放送番組による国内放送を行う』

NHKの是が非かを論じる以前に、NHKの存在理由は、これ以上でもこれ以下でもない。つまり、NHKの目的はすでに達成しているので、NHKの存在理由が、もはやどこにもないのだ。その前提の上で、受信設備を設置した者は受信契約を締結しなければならないとされているので、形骸化された法律としか言いようがない…。

『放送法』そのものを検討するほうが、『受信料』の是が非を議論するよりも価値があるのではないだろうか?

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

神田敏晶の最近の記事