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さあ、日本選手権。社会人野球・監督たちの野球哲学/3 大阪ガス・竹村誠

楊順行スポーツライター
開催地・京セラドーム。大阪ガスは5日の第2試合で三菱自動車岡崎(愛知)と対戦(ペイレスイメージズ/アフロ)

○…2度目の監督に就任したのが、2013年でした。不祥事があり、自粛していた活動を再開したときですが、15年には都市対抗で準優勝と、V字回復でしたね。

「監督になって最も大切にしたのは、組織の基盤づくりでした。たとえば社業の現場では当然、PDCAなど、目標達成のための方法論を共有するでしょう。ですが野球部という組織では、それがちょっと薄れていると感じていたんです。そこでどうしたかというと、大阪ガスの野球部にはもともと、『大阪ガス野球部心得集』という冊子があるんですね。部はこうあるべき、投手は、内野手は、走者が一、二塁のときの連携は、トレーニングは……と、チームとして共通理解しておくべきことをさまざまな角度からまとめたもので、必要に応じて項目を追加してきました。まずこれを、全員で読み合わせしたんですよ。最初のキャンプの3日間で、ポイントを事細かく説明しながらなので、4時間くらいかかりましたかね(笑)。

 さらに、年間の活動計画を立案し、たとえば"スタートダッシュ""エース育成""得点圏での強さ" などという野球部としてのミッションを設定した。たとえば社業なら、社長がこの商品を売れ、といったら部下は、そのためのプランを立て、実現のために知恵を絞るでしょう。私は関連会社の社長を務めた経験もありますが、部下をうまく使うくすぐり方というのは、選手を生かす方法と共通していますよね。そうやって、同じ組織内で横を向いている人間をなるべく少なくしたい。たとえスタメンから外れた選手でも、代打や抑えで男になる、それが組織としての全員野球だと思います」

バントはコスパが悪い

○…実際の采配となると、竹村さんは送りバントをあまり用いませんね。

「野手出身なんで、守りでも打つのでも攻撃的な野球が好きなんです。周りからは"あの場面で、なんでバントせえへんの?"といわれることもありますが、判で押したようにバントばかりするくらいなら、監督になっていません(笑)。過去の経験からしてみると、公式戦で1イニングに3点以上取られると、まず8、9割は負けです。ということは、守るときは最少失点に抑え、攻めるときは複数以上の点を取れば勝率はぐんと上がる。まあ当然のことなんですが(笑)、だとするとバントで確実に1点を取りに行ったとしても、コストパフォーマンスが悪いでしょう。

 また、少年野球の指導をお手伝いしたことがあるんですが、どうも指導者が勝ちにこだわりすぎている気がしました。バントを失敗したら、"なんでできへんのや?"。それに嫌気がさしてやめていく子も多いんです。社会人でも、やらされている練習では強くなりません。スタッフがいなくても、本気で練習するような選手が強い。プレーするのは結局、選手ですから。

 大阪ガスのユニフォームを着たら、その選手の行動は大阪ガスという会社の行動です。たとえアウトでも、一塁まで全力疾走を貫けば、そういう社風なんだと感じてもらえるてしょう。そして7〜9回の勝負どころで、"こっから楽しもうで!"という声が出るようなチームが理想ですね」

※たけむら・まこと/1961.7.21生まれ/奈良県出身/郡山高→同志社大→大阪ガス

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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