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ジャパンはこれでオールブラックスに勝てるのか?「惜敗」した世界選抜戦を検証する!

永田洋光スポーツライター
攻守に孤軍奮闘した福岡堅樹。彼の活躍が数少ない救いだった。(写真:アフロ)

世界選抜のトライの方が日本らしかった?

 これでどうやってオールブラックスに勝つのだろうか?

 26日に行なわれたジャパンXV(日本代表=以下ジャパンで表記)対世界選抜XV戦を見た、素直な感想だ。

 27日の報道では28―31というスコアを取り上げて、「惜敗」「善戦」「金星逃す」といった表現が並んだが、その根拠が3点差というスコア以外のどこにあるのか知りたく思う。

 相手は世界から選りすぐりのプレーヤー集団ではあるが、半数近くはトップリーグで普段対戦している選手たち。準備期間も、1週間と十分ではない。

 対するジャパンは、20日のトップリーグ第7節を「プロテクト週」に定め、日本代表選手を宮崎の合宿地に拘束し、集中的に強度の高い練習を積み重ねてきた。

 世界選抜の「個の力」に対して、鍛え上げた「組織力」で勝利を目指すというのが、ジェイミー・ジョセフHCの方針だった。

 ところが、キックオフから10分近くジャパンはボールをキープし、アタックし続けていたにもかかわらず、得点を奪うことができず、逆に自陣から攻められて簡単にトライを許した。

 本来ならジャパンが得意とする、ラインアウトからの仕掛けで防御を崩して一気にトライに結びつける展開で、だ。

 この時点で「大丈夫か、ジャパンは?」と疑念がふくらんだ。

 世界選抜戦は、3日にニュージーランド代表オールブラックス、17日に聖地トゥイッケナムでのイングランド(相手の指揮官は、あのエディー・ジョーンズだ!)との対戦を控えたジャパンにとって、勝敗以上に「質」が問われるゲームだ。

 極論すれば、意図した通りのアタックでトライを奪い、セットプレーでボール獲得ができて防御の連携が確認できれば、勝とうが負けようが結果はどちらでもかまわない。

 それなのに、合宿で練習を重ねたはずのアタックは、単調な突進の繰り返しで、バックスの意図的なムーブがほとんど見られない。

 たとえば、前半7分過ぎにラインアウトから福岡堅樹を走らせたプレーは効果的なゲインを生んだが、一度相手に捕まり、ラックができてフェイズプレーに移ると、密集から1つまたは2つのパスで相手とコンタクトするワンパス、ツーパス攻撃を繰り返すばかりで、組織的、連動的な動きで防御を崩す試みが見られない。そして、最後は「フィフティ/フィフティ」つまり、五分五分という名の一か八かのキックを転がして相手にボールを与えてしまう。

 エースを突破役に使うと、続くアタックからは力に頼った突破を試みるばかりで、日本らしさが微塵も感じられないのだ。

 対照的に世界選抜は、10分に試合で初めてのマイボールアタックとなった自陣のラインアウトから、SHアンドリュー・エリスとSOライオネル・クロニエがループ。その間にCTBやブラインドサイドWTBがオトリに走ってジャパンの出足を止め、反対側のタッチラインまで大きくボールを動かした。

 タッチライン間際でこのアタックを止めるチャンスもあったが、タックルに行ったFBヘンリー・ジェイミーが弾き飛ばされ、そのままアタックを継続される。

 最後はタッチライン際から内側にパスを返してクロニエがトライを記録。

 一度も密集を作ることなく、一気に攻め切ったのだ。

 決してジョーダンではなく、まるで強いときのジャパンみたいなトライだった。

ジャパンは偶発的なトライしか挙げられなかった!?

 ジャパンの受難はまだまだ続く。

 15分には、自陣のスクラムから世界選抜に大きなゲインを許し、一度はタッチラインに押し出したものの、マイボールのラインアウトを奪われて、そこからトライにつなげられた。

 世界選抜はこの間、ときにフラットな(真横に放る)パスを使い、あるいは深い(斜め後方への)パスを織り交ぜ、股抜きパスまで披露した。単調なパスに終始したジャパンのアタックとはまったく対照的だった。

 21分に福岡がトライを返して7―12と追い上げたが、これは相手ペナルティのアドバンテージを活かして蹴った田村優のキックパスがマイナス気味となったことが結果的に有利に働いたもの。

 福岡や、反対側のWTBを務めたレメキ・ロマノ・ラヴァの働きとスピードは期待を裏切らないものだったが、彼らの力を活かすための方策が一か八かのキックでは、いかに混成チームとはいえ、世界選抜の防御を崩すのは難しい。

 当然、3日のオールブラックス戦への見通しも暗いものになる。

 なにしろ、オールブラックスは世界屈指の防御力を誇り、5年前の13年に対戦したときもジャパンはノートライに抑えられたのだ(6―54)。しかも、オールブラックスは相手のミスをトライに結びつける能力がずば抜けて高い。

 攻めては単調なアタックでミスを連発し、防御面ではボールを大きく動かすアタックに対応できなかったジャパンに勝機は見いだせない――というのが、悲しいけれども冷静な見立てなのである。

 それでもジャパンは3トライを奪って3点差まで追い上げたではないか――と反論されそうだが、福岡に続いたトライは、後半6分にCTBラファエレ・ティモシーがインターセプトから挙げたもの。これも、後半立ち上がりにジャパンからノーホイッスルでトライを奪い、イケイケになった世界選抜がさらに得点をたたみかけようと若干無理なパスを放ったのが原因。僅差の接戦では、まずあり得ないトライだ。

 後半20分にレメキが挙げたトライは、ジャパンがこの試合で唯一パスから挙げたものだが、その前の連続攻撃も力頼りのワンパス攻撃が目立ち、私たちが「日本らしい!」と感じるような華麗さとはほど遠かった。

 34分の中村亮土のトライも、インゴールに転がしたキックを抑えたもの。

 ジェイミー流の「キッキング・ラグビー信者」には溜飲を下げるトライだったかもしれないが、試合途中から激しく降り出した雨でコンディションが悪化。混成チームの、選手によってバラバラなフィットネスにも助けられたトライであることを忘れてはならない。

 この20日に三回忌の命日を迎えた平尾誠二さんは、キャプテンとして神戸製鋼を率いているときに「相手がコケたからトライになったことを新聞で褒められて、その気になると力は退化する」と言って、世評に惑わされて過信することを厳しく戒めた。

 その伝でいけば、オールブラックス戦を控えたこの試合を「惜敗」だの「健闘」だのと評価すること自体が、ピッチでの事実から目を背けたことになる。

 ジャパンは、世界選抜が自陣から仕掛けた切れ味のあるアタックを止めることができずに5トライを奪われた。

 そして、偶発的なトライを2つ、相手のフィットネス低下に助けられてトライを2つ加えただけで、意図的かつ組織的なアタックで美しいトライを奪うことができなかった。

 それが、世界選抜戦の「真実」なのである。

 果たして3日までに修正が間に合うのか。

 W杯まで1年を切った今、結果を出せないジャパンに不安は募るばかりだ。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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