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右からも左からも叩かれる文在寅政権の「対日政策」 相次ぐ韓国での対日政策「批判本」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「新冷戦 韓日戦」(左)と「日本 同行と克服」(カバーから筆者キャプチャー)

 文在寅大統領の任期最後の「8.15(光復節)」演説は日本では不評だった。「史上最悪」と称される日韓関係の打開に向けた具体策を何一つ示さなかったためである。

 文大統領の対日政策が問題視されているのは何も日本だけではない。韓国でも日本に対話を呼び掛けるだけで行動が伴っていないことや日韓関係が「史上最悪」のまま放置されていることに保守メディアを中心に批判の声が上がっている。

 リーダーシップを発揮して元慰安婦や元徴用工らへの救済措置を取らないことや2019年7月から続いている日本の輸出厳格化措置に手をこまねいていること、さらには日本との対立を政権浮揚に利用していることに不満が渦巻いている。総じて、文政権の対日強硬一辺倒政策が何の成果ももたらさず、むしろ事態を悪化させていることへの批判である。

 文大統領の対日政策への批判は韓国ではこれまでは野党「国民の力」など保守勢力の「専売特許」だったが、最近では政府寄りの進歩層の間でも公然と叫ばれるようになった。その象徴が先月出版された進歩派の愛読紙「ハンギョレ新聞」の現職記者が書いた「新冷戦 韓日戦」である。

(参考資料:「反日」から「親日」に転じた進歩派の金大中大統領と「親日」から「反日」に豹変した保守派の朴槿恵大統領

 著者のキル・ユンヒョン氏は「親政府紙」と称されている「ハンギョレ新聞」に2001年に入社したそれなりに名のあるベテラン記者である。社会部、国際部などを経て2011年に東京特派員となり、安倍政権下の2013年9月まで日本に滞在し、日本の政治情勢や安全保障問題、さらには日韓関係などについて本国に送稿していた「日本通」でもある。

 キル記者は帰国後、同社系列の雑誌「ハンギョレ21」の編集長に転出した後、再び本紙に戻り、国際ニュースキャップを担当し、現在は統一外交チーム長のポストにあるが、2017年には駐日特派員時代の取材を基に「安倍とは誰か」を出版している。朴槿恵政権から引きずっている元慰安婦問題を巡る日韓葛藤は「これから近寄ってくる強大な不和の序幕に過ぎない」とこの本で予言していたが、日韓関係は今日、まさに彼の予言どおりで収拾のつかない泥沼状態に陥っている。

 「新冷戦 韓日戦」は2015年12月28日の「日韓慰安婦合意」から日韓関係が最悪に至った今日までの推移を克明に追う一方で、文政権登場後の日韓葛藤の原因を多角的に分析し、膠着状態にある日韓関係を改善するには「年老いた原告人への日本企業による謝罪を入り口とした日韓の歴史的な和解が必要である」と、著者なりの打開策を示した本でもある。

(参考資料:「史上最悪」の日韓関係修復のためのソウル大日本研究所の韓国政府への「10の提言」)

 著者は日韓関係悪化の韓国側の責任として文政権及び執権与党「共に民主党」の現状認識や分析が正確な事実に起因しておらず「陰謀論的誤解」に根差していること、日本の意図を不必要に悪魔化していること、興奮のあまり誤った決定を下したことなどを挙げている。

 結論として、1965年の日韓請求権協定を無視した韓国大法院の元徴用工判決に積極的に対応しなかったことや文政権が成功を願う米朝交渉への日本の影響力を軽視、疎外し、ジャパンバッシングに走ったのは失策であると綴っている。著者が結論としてこの日韓の「戦争」で「韓国は敗北した」と断じたのは何とも興味深い。

 「新冷戦 韓日戦」と同時期に出版されたのが保守派の学者であるInha大学国際通商学科のチョン・スンヨン教授の著書「日本 同行と克服」である。

 「韓日経済比較論」を日本語で出版するなど日本経済専門家と知られているチョン教授は保守派の立場から文政権の対日認識と政策への全面的な批判を展開している。

 京都大学で経済学博士号を取得し、金沢大学で経済学部教授として教壇に立っていたチョン教授は文政権が日本の輸出厳格化措置により勃発した日本との経済戦争に勝ったと自評していることについて「技術国産と対日貿易赤字改善を100メートルのレースに例えるならば、文政権の2年間の努力は僅か5メートルを走ったに過ぎない。それにもかかわらず、文政権は『我々が勝った』と広報しているのは「欺瞞である」と皮肉っている。

 特に文政権が日本の輸出厳格化措置にGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)破棄で対応し、反日感情を煽ろうとしたのは批判されてしかるべきであると指摘しているが、その理由については「外交安保の側面で日本との摩擦が高潮すれば、東北アジア情勢下で韓国の生存権が脅かされるからである」と論じている。

 チョン教授は著書で過去から現在、未来に繋がる日本との関係を展望し、韓国にとって日本はどういう存在なのか、どう相手にすべきか、キル記者とは別な角度から問題提起しているが、「韓国の経済と安全保障を考えれば、日本との持続的な関係悪化を避け、真に日本と行動を共にすることが望まれる」との点で二人の考えは共通していた。

 文在寅政権を批判したため解職された公務員のハン・ミンホ氏が昨年出版した「なぜならば、そうだから」も「日本と聞けば、反日で条件反射する」と、文政権の対日政策を全面的に批判した著書として保守派の関心を引いている。

 文化体育省に1995年に入省し、解任されるまでは文化体育部政策課長のポストにあった著者は「解任されたのは文政権の原発政策や対日政策に反対したためである」と回顧しているが、怨念もあってか「文政権は亡国罪で断罪されるだろう」と断じていた。

(参考資料:未解決の「日韓紛争」ランキング「ワースト10」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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