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身近なPM2.5の発生源:野焼き

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

日本でPM2.5が一般的な用語となったのは、2013年1月の隣国の中国での大気汚染報道からです。したがって、PM2.5というと、越境飛来してくる大気汚染物質というイメージを持っている方が多いようです。しかし、モノを燃やせば通常はPM2.5が発生するので、当然日本国内にも発生源はたくさんあります。化石燃料を使用する工場や自動車などが主要発生源として挙げられますが、身近な発生源として「野焼き」もあります。私は農業や地方自治の専門家ではありませんが、私の専門分野からの観点を中心として、今回は野焼きの問題を考えたいと思います。

焼き畑は伝統的な農作業

野外焼却は廃棄物処理法により禁止されていますが、国・地方自治体による施設管理や、農業・林業・漁業を営むためなど、やむを得ない場合のみ野外焼却できるという例外規定があります。ただし、周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である場合という条件が付いています。

学生時代に社会科で学習したことを思い出してみると、農作物収穫後に焼き畑をすることは、焼却後の灰が肥料や土壌中和の役割をしたり、焼却により害虫が駆除されたりすることで、次の作付時に備える意味があると習いました。つまり、焼き畑は伝統的な農作業であり、長年にわたり行われてきました。また、焼き畑や農業残渣の野焼きは比較的容易に実行できるため、労働力やコストの節約という側面もあるようです。

野焼きからは大気汚染物質が発生

一方で、焼き畑や野焼きではモノを燃やしているので、PM2.5などの大気汚染物質も当然発生します。PM2.5のような微粒子が発生しているから、煙として見えるわけです。特に春先や秋には、自治体が観測しているPM2.5濃度が特定の観測点のみで突発的に急上昇する場合があり、これは野焼きの影響が強く示唆されます。したがって、呼吸器疾患・循環器疾患・アレルギー疾患を持つ方の住居付近で野焼きが行われると、深刻な健康影響をもたらす可能性があります。

日本以外では、例えばタイ北部で大規模な焼き畑が行われており、毎年1〜4月は非常に広範囲にわたる煙害が深刻な社会問題となっています。

身近な大気汚染問題として考えてみましょう

この記事は2018年11月8日に書いていますが、今日午後に職場で窓を開けると、モノを燃やしている臭いがしました。PM2.5のデータを見ると、福岡県内のいくつかの地点で数時間だけ濃度が上昇していました。今晩は雨が予測されているため、雨による消火を考えると野焼きを行うタイミングであったと思われます。

農業が盛んである兵庫県三田市では、市広報の臨時号などで市民へ周知しながら、野焼きに関するガイドラインを作成するための議論が進められているそうです。ただし、野焼きの問題は三田市に限らず、どの地域でも起こっている事案でしょう。住宅地の郊外への拡大により、新たに問題が生じている地域もあるでしょう。

焼き畑・野焼きは伝統的に行われてきた一方、PM2.5などの大気汚染物質の身近な発生源であることも事実です。より良い住環境と農業が先進国である日本で両立できるように、地域ごとの状況を考慮しながら野焼きの問題が軽減されていけばと願っています。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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