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黄砂とPM2.5の情報提供の問題点

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
(提供:イメージマート)

黄砂やPM2.5の濃度が高くなると、特に、お子様やご高齢の方、呼吸器疾患や循環器疾患をお持ちの方の健康状態に悪影響を及ぼす可能性があります。場合によっては命を脅かすこともあります。したがって、高濃度が予測される、あるいは実際に高濃度になっているときに、その情報が広く行き渡ることが重要です。しかし、公的機関から提供される情報は、必ずしも十分でないというのが現状です。その問題点を整理します。

今週は全国的にPM2.5と黄砂の高濃度が予測されている

この記事は、2024年4月15日(月)に執筆していますが、明日から今週金曜日(19日)にかけて、全国的にPM2.5と黄砂の高濃度が予測されています。私は、独自に開発した大気中の微粒子全般の濃度を予測するソフトウェアで計算した情報を毎日(15年以上)提供していますが、西日本では明日16日(火)夜から、東日本・北日本では17日(水)午後からPM2.5や黄砂の濃度が高くなり、19日(金)にかけて濃度が高い状態が続くと予測されています(下図)。PM2.5や黄砂の健康影響が出やすい方々は、今週は注意が必要です。

独自計算によるPM2.5の分布予測図(2024年4月14日12時・16日0時・17日6時・18日6時)
独自計算によるPM2.5の分布予測図(2024年4月14日12時・16日0時・17日6時・18日6時)

黄砂の情報提供の現状は?

黄砂の予測については、公的機関である気象庁が毎日実施して、情報提供をしています。黄砂が飛来されることが予測される場合は、この気象庁の情報を基に、報道機関がニュースにして注意を呼びかけます。

一方、実際に黄砂が飛来したときの情報ですが、実は、東京と大阪以外では、黄砂の正式な観測は、今年3月26日からなくなってしまいました。気象予報士の森田正光さんも記事にしています。国際的に統一された公的な黄砂の観測方法は、目視です。気象庁は、防災機関という位置付けが明確化され、それ以外の部分の業務が削減されていっており、目視観測廃止もその流れです。2020年2月に11地点のみの目視観測に縮小され、今年3月にさらに縮小されたということです。ただし、黄砂の飛来は、それほど頻度が高くもないため、各気象台は黄砂の濃度が高いときには、臨時で情報を提供している運用になっています。

したがって、黄砂の飛来が予測される場合、また、実際に黄砂が飛来したときには、気象庁が公的な情報を提供する体制が、現状では維持されています。

PM2.5の情報提供の現状は?

それでは、PM2.5の予測情報や、実際に高濃度になったときの情報の提供の状況はどうでしょうか?気象庁は、黄砂の情報提供はしていますが、PM2.5の情報提供はしていません。PM2.5は環境省の管轄だからです。環境省所管の国立環境研究所からPM2.5の予測情報が提供されていますが、一般にはあまり利用されていないようです。黄砂が飛来する場合には、人為起源のPM2.5も一緒に飛来することが多いにもかかわらず、PM2.5の公的な予測情報の提供が十分でないため、「黄砂飛来」しかニュースにならないのが現状です。PM2.5は、黄砂の主な粒子サイズよりも小さいため、呼吸器だけではなく、循環器にも影響が及ぶと考えられており、特に疾患をお持ちの方にとっては高濃度情報は重要です。日本気象協会tenki.jpからもPM2.5予測情報が提供されていますが、黄砂の予測が計算に含まれていないようで、黄砂飛来時のPM2.5は過小に予測する可能性が高いです。黄砂にも、PM2.5のカテゴリーに入るような非常に小さなものも一部含まれているためです。

また、高濃度のPM2.5が実際に観測された場合には、各自治体が情報を発出することになっています。しかし、ほとんどの自治体では、多くの方々に影響が及ぶような非常に高い濃度にならないと、この情報は出ないことになっています。お子様やご高齢の方、呼吸器疾患や循環器疾患をお持ちの方は、もう少し低い濃度でも影響を受ける可能性があるのですが、その情報は出てきません。したがって、ニュースにならず、必要な公的情報が、必要な方々に広く届いていないのが現状です。

私は、前述のとおり、独自に計算しているPM2.5と黄砂の予測情報を無償で提供していますが、さまざまなプラットフォームで転載されています。例えば、この記事を掲載しているYahoo!関係では、Yahoo!天気アプリのPM2.5の情報は、私が計算したものが使われています(形式的にはウェザーマップ提供とさせていただいていますが、私のところで計算したデータをウェザーマップにお渡ししています)。また、Yahoo!で「PM2.5」を検索すると、Yahoo!天気アプリと同じPM2.5の分布予測図や、検索場所での当日と翌日のPM2.5濃度予測情報が最初に表示されるように最近なりました。これは、情報が必要な方々に届きやすくなる工夫の1つだと思います。

*訂正

最後の段落で、掲載当初は「検索場所での現在のPM2.5濃度情報」と記載していましたが、正しくは「検索場所での当日と翌日のPM2.5濃度予測情報」です。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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