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「斬首作戦」を警戒する金正恩総書記は米韓合同軍事演習中に出てくるか!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金正恩総書記(朝鮮中央テレビから)

 朝鮮半島有事に備えた米韓合同軍事演習が3月13日から始まった。米韓は「恒例の防御訓練である」(国防省)と説明しているが、北朝鮮は野外機動訓練が大隊級から連隊級に規模が拡大して5年ぶりに復活し、かつ「B-1B」戦略爆撃機や「B-52」核戦略爆撃機などが演習に参加し、原子力空母や原子力潜水艦まで投入されることから「攻撃的な訓練」とみなし、極度に警戒している。

 特に今回の演習には先鋭の米韓特殊部隊による金正恩(キム・ジョンウン)総書記を狙った「チーク・ナイフ」と言う名の「斬首作戦」などの演習も本格的に実施され、2020年1月にイスラム革命防衛隊のガーセム・ソレイマーニー司令官を殺害した無人攻撃機「MQ-9」リーバーも投入されることから金総書記周辺は厳重な警戒態勢に入っている

 肝心の金総書記は演習開始の2日前の3月11日に平壌で開かれた党中央軍事委員会拡大会議に出席したのを最後にこの3日間、表に出てきていない。南浦から10km北側に離れた平安南道江西郡にあるゴルフ場近くから6発の短距離ミサイルが発射された9日には妻子を連れて立ち会っていたが、12日の新浦一帯からの潜水艦巡航ミサイルの発射にはその姿はなかった。日本海に面した場所から発射されており、移動を控えたものとみられるが、昨日(14日)の黄海南道長淵からの2発の短距離ミサイルの発射にも姿を現していなかった。

 昨日は北朝鮮の「植樹の日」である。昨年のこの日は、金総書記がシャベルなどを手にして自ら植樹していたが、朝鮮中央通信が配信した今朝の植樹光景写真をみると、今年は姿をみせていなかった。その代わりに2月26日に開催された党中央委員会第8期第7次全員会議拡大会議に欠席していたため「失脚説」「健康不安説」が流れていた序列No.4の崔龍海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長が姿を現していた。

金総書記は果たして、米韓の「斬首作戦」を恐れ、警戒し、潜伏したのだろうか?米韓合同軍事演習が終了するまで外出を、公の活動を一切控えるのだろうか?米韓合同軍事演習は春と夏の年2回行われているが、その有無については過去のケースから判断するほかない。(※米国と北朝鮮の軍事的緊張が高まっていた2017年までを参考例として挙げる)

▲2012年 

春の米韓合同軍事演習(2月27日―4月30日)

 ※軍指揮官らによる図上演習である「キー・リゾルブ」(2月27日―3月9日)には駐韓米軍2100人を含む米軍1万1千人と師団級以下の韓国軍20万人が、野外機動演習「フォールイーグル」(4月30日まで)には米軍1万1千人と師団級以下の韓国軍部隊が参加して行われた。

 金正恩政権が本格的にスタートした2012年の春の米韓合同軍事演習をみると、金総書記は演習開始2日前の2月25日に西南戦線に位置する第4軍団司令部傘下の部隊を視察したのを始め3月2日には戦略軍ロケット司令部に足を運んでいた。

 国際婦人デーの3月8日には李雪主(リ・ソルジュ)夫人が歌手として専属していた銀河水音楽会に姿を現し、翌9日には再び西海岸前方哨所を訪れていた。さらに3月14日には陸海空の合同打撃訓練を視察し、3月の公開活動は25日の父・金正日(キム・ジョンイル)前総書記死去100日の錦繍山太陽宮殿参拝で締めくくっていた。

 翌4月は4日に東海岸前方哨所を、5日に海軍第155部隊を視察した後、11日に平壌で開催された第4回党代表者会に、13日に最高人民会議第12期第5次会議に連続して出席していた。翌14日には祖父・金日成(キム・イルソン)主席生誕100周年を記念して開設された人民軍武装装備館の開館式に出席し、15日には軍事パレードを行い、演説をぶっていた。さらに4月17日から4月20日までは祖父の誕生日関連行事に出席し、4月25日から28日まではほぼ連日、人民革命軍創建80周年記念関連行事に顔を出していた。

夏の米韓合同軍事演習(8月21日-31日)

 ※韓国軍と米軍の計8万人が参加した。

 この期間は軍関連では23日に新たに建造された戦闘艦船の機動訓練を視察し、24日には党中央軍事委員会拡大会議を開催し、27日から28日にかけて東部前線の第313大連合部隊の司令部と第318軍部隊を視察していた。その他に25日には音楽会の鑑賞、30日には青年節慶祝大会関連行事に出席し、演習最終日は人民軍交響楽団の音楽舞踊総合公演を鑑賞するなどこの期間は2日に1度は公式行事をこなしていた。

▲2013年

春の米韓合同軍事演習(3月11日-4月30日)

 ※「キー・リゾルブ」(3月11日-22日)には米軍約3500人と韓国軍約1万人が、「フォールイーグル」(4月30日まで)には米軍1万人と韓国軍20万人が参加した。

 演習初日の3月11日から13日までは3日連続で西部戦線の第641部隊と第531部隊や砲兵部隊を訪れていた。その後、3月18日に一旦、平壌で開催された全国軽工業大会に出席した後、再び前線を訪れ、20日に高射ロケット射撃訓練、22日に第1973部隊、24日に第1501部隊、25日に第324大連合部隊と第287大連合部隊、海軍第597連合部隊合同による上陸及び反上陸訓練を視察していた。

 続く3月26日には最高司令部声明を出して軍に「1号戦闘勤務態勢突入」を命じ、28日には全軍宣伝活動家会議に参加し、翌29日には戦略ロケット軍の火力打撃任務遂行に関連した作戦会議に出席していた。

 月末の31日に党中央委員全員会議、4月1日に最高人民会議に相次いで出席し、金日成主席生誕日の4月15日と人民革命軍創建日の4月25日には太陽宮殿を参拝した。また、4月27日は李夫人と共に平壌でオープンしたレストランを訪れ、合同軍事演習の前日にあたる4月29日にはサッカー観戦を楽しんでいた。

夏の米韓合同軍事演習(8月18日-29日)

 ※米軍3万人、韓国軍5万人の計8万人が参加した。

 演習前夜の8月17日に第3404部隊を視察し、19日には軍科学技術展覧会を訪れた。また、23日には新たに建造された戦闘艦船の機動訓練に立ち会い、翌24日に党中央軍事委員会拡大会議を開き、防衛力を強化するよう指示を出した。先軍の日に当たる25日には宴会を開き、演習最終日の前日(28日)はホッと したのかまたもやサッカー競技を観戦していた。

▲2014年

春の米韓合同軍事演習(2月24日ー4月18日)

 ※「キー・リゾルブ」(2月24日―3月6日)には米軍5100人と韓国軍1万人が、「フォールイーグル」(4月18日まで)には米軍7500人と韓国軍20万人が参加した。

 金総書記の軍関連視察は2月と4月は1件もなく、3月も7日の航空・防航空軍第2620部隊の飛行訓練参観の1件だけだった。具体的に言うと、2月は国際少年団キャンプ場(23日)と思想活動家大会場(25日)に姿を現しただけで、3月のスケジュールは平壌機械工場視察(2日)、金日成政治大学訪問(8日)、軍関係者による公演参観(10日)、中央動物園訪問(11日)、党中央軍事委員会拡大会議出席(16日)、軍指揮官らの射撃訓練指導(16日)、海軍大学・防空軍大学教職員らの射撃競技参観(18日)、機械工場視察(19日)、子供病院訪問(22日)、軍人らとモランボン楽団の公演鑑賞(22日)となっていた。

 さらに4月は軍関連では2日に白頭山を行軍した軍連合部隊指揮官らと会っただけで後はモランボン楽団公演鑑賞(2日)、サッカー競技観戦(5日と6日)、政治局会議出席(8日)、最高人民会議出席(9日)、代議員らとの記念撮影(11日)、太陽宮殿参拝(15日)など日程をこなしていた。長期間の休日は3月23日から4月1日までの10間のみだった。

夏の米韓合同軍事演習(8月17日-28日)

 ※海外からの支援軍3千人を含む3万人の米軍と韓国軍5万人合わせて計8万人が参加した。

 金総書記は演習2日前の8月15日に戦術弾道ミサイルの発射に立ち会った後は科学者の保養場建設現場視察(17日)と工場視察(24日)のみで、演習最終日の28日になって航空部隊の実働訓練を視察していた。この期間の公式活動は3件のみだった。

▲2015年

春の米韓合同軍事演習(3月2日―4月24日)

 「キー・リゾルブ」(3月2日-3月13日)には米軍8100人と韓国軍1万人が、「フォールイーグル」(4月24日まで)には米軍3700人と韓国軍20万人が参加した。

 金総書記は軍関連では演習がスタートした翌日(3月3日)に航空・防空軍部隊を、3月9日には再度、航空・防空軍第1016部隊を訪問。さらに3月12日には第287大連合部隊傘下の新島防御中隊を視察し、3月20日には航空・防空軍による飛行場打撃及び復旧訓練を視察していた。

 これ以外は平壌市養老院建設現場視察(3月5日)、水産事業所建設現場指導(3月13日)、漁具総合工場視察(3月18日)、魚粉肥料工場視察(3月23日)、機械工場視察(3月31日)、平壌弱電機械工場視察(4月7日)、平壌国際飛行場建設現場視察(4月11日)、サッカー観戦(4月13日)、太陽宮殿参拝(4月15日)、白頭山発電所建設現場視察(20日)、元山孤児院視察(21日)などの日程をこなしていた。

 夏の米韓合同軍事演習(8月17日―28日)

 ※米韓合わせて8万人の軍人が動員された。この年は演習中の8月20日に韓国の拡声器に向けた北朝鮮による砲撃事件が起きた。

 金総書記は演習がスタートした当日(17日)に大同江果樹総合農場を視察した後、20日に党中央軍事委員会を開き、準戦時体制を宣布した。1週間後の27日には党中央軍事委員会拡大会議を開催していた。演習期間中に外出することは一度もなかった。

 ▲2016年

 春の米韓合同軍事演習(3月7日―4月30日)

 ※「キー・リゾルブ」(3月7日-3月18日)には米軍1万5千人(海兵隊9200人と海軍3000人が中心)と韓国軍6500人(海兵隊3500人と海軍3000人)が、「フォールイーグル」(4月30日まで)には韓国軍29万人が参加した。

 この年の1月に北朝鮮が4度目の核実験を、2月には長距離弾道ミサイル「テポドン」の発射を強行したこともあって緊張が高まっていた。

 金総書記は演習が始まる4日前(3月3日)に新型大口径放射砲試射を視察したのを皮切りに核兵器研究院視察(8日)、戦略軍弾道ミサイル発射訓練視察(10日)、人民軍戦車競技大会参観(10日)、弾道ロケット大気圏突入環境試験視察(14日)、人民軍上陸・反上陸防御演習指導(19日)、新型大口径放射砲射撃指導(21日)、固体燃料エンジン地上噴出試験指導(23日)、長距離砲砲兵集中火力打撃演習参観(24日)など3月は軍関連視察が相次いだ。

 4月は1日に新型の対空迎撃誘導兵器の試験射撃と、8日に長距離弾道ミサイルエンジン地上噴射試験、23日と28日にSLBM(潜水艦弾道ミサイル)発射に立ち会っただけで後は機械工場(1日)、機械連合所(7日)、ノートブック製造工場(18日)、学習帳製造工場(19日)や白頭山英雄青年発電所(22日)の視察など民需部門を見て回っていた。

夏の米韓合同軍事演習(8月22日―9月2日)

 ※米軍は2万5千人と韓国軍5万人が参加した。

 「平和の祭典」であるリオデジャネイロ五輪閉幕(21日)後に米韓合同軍事演習が始まった。演習開始から3日後の24日に北朝鮮はSLBMを1発発射したが、金総書記はこれに立ち会ったものの期間中は公式活動は28日に平壌で開催された金日成社会主義青年同盟の大会に顔を出したのと、30日に大会参加者らと記念写真を撮っただけだった。また、演習終了前日にSLBMを発射させた関係者らとも記念写真に収まっていた。

 ▲2017年

 春の米韓合同軍事演習(3月13日―4月30日)

 ※トランプ政権下の2017年の演習には米軍2万3700人と韓国軍30万人が動員された。

 この期間の金総書記の日程は以下のとおり。

 3月15日 黎明通り建設現場視察

 3月18日 大出力エンジン地上噴出試験指導

 3月27日 改築された革命博物館見学

 3月30日 2017年戦車大会参観

 4月7日  平壌マツタケ工場視察

 4月11日 最高人民会議第13期第5次会議出席

 4月12日 特殊作戦部隊の渡河・対象物打撃競技大会参観

 4月14日 金日成主席生誕105周年大会に出席

 4月15日 太陽宮殿参拝

 4月15日 金日成主席生誕105年記念軍事パレード参席

 4月22日 航空・防空軍参加の家畜工場視察

 4月25日 人民軍の総合打撃示威を視察

 夏の米韓合同軍事演習(8月21日―31日)

 ※米軍は海外増援軍3000人を含め1万7500人、韓国軍は例年同様に5万人が訓練に参加した。

 金総書記は8月21日に妙香山の医療器具工場を視察してから8月29日に平壌市順安で中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射に立ち会うまで1度も姿を現さなかった。北朝鮮は演習終了後の9月3日に6回目の核実験を強行した。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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