皇后杯はベスト4が決定!埼玉が「ドーベルマンディフェンス」「ワンチャンス・ワンゴール」で掴んだ勝利
【金平莉紗の延長戦ゴールが決勝点に】
WEリーグは中断期間に入り、女子サッカーは現在、皇后杯の真っ只中。1月27日の決勝に向けて、WEリーグ勢がタイトルを争っている。リーグ戦とは違う一発勝負ならではの波乱や、戦い方の変化も楽しめるのがこの大会の醍醐味だろう。
1月14日に行われた準々決勝では、ちふれASエルフェン埼玉が日テレ・東京ヴェルディベレーザを1-0で下してベスト4に進出した。
リーグ戦は前半戦の7試合で12チーム中最多の15得点を奪った東京NB(4位)に対し、埼玉(10位)は失点数がリーグ3位タイと堅守を誇る。
そんな“盾と矛”の戦いとなった一戦は、90分間では決着がつかず、延長戦に突入。
そして延長前半5分、埼玉が縦に速い攻撃で一瞬の隙をついた。右サイドのスローインから、吉田莉胡が中央のスペースに進入した金平莉紗にパス。金平は途中出場の祐村ひかるとのワンツーから、ダイレクトで左足を振り抜き、ゴール右隅に流し込んだ。
「ひかさん(祐村)が相手を集めてキープしてくれたので、(走り込んだ自分が)フリーで決めることができました。試合ではよくシュートを外しているし、練習でもあまり決める場面がないので、みんなにもびっくりした!と言われましたが(笑)、自分が一番びっくりしています。こういう舞台でゴールを決められてすごく嬉しいです」(金平)
【「ドーベルマンディフェンス」と「ワンチャンス・ワンゴール」を体現】
12月のリーグ戦で埼玉と東京NBが対戦した際は、スコアレスドローで勝ち点を分け合った。東京NBを2試合連続で無失点に抑えた要因は、埼玉の「ドーベルマンディフェンス」だ。スペースを消しながら、一人ひとりがさながらドーベルマンのようにボールに食らいつくような守備で相手の自由を奪う。その上で、池谷孝監督は東京NBに対しては5バックでカウンター戦術を徹底してきた。
「負ける時は0-6ぐらいになるぐらいの力の差はあると思っていますが、勝つなら1-0かなと。前半は相手のサッカーを壊し、後半は相手のサッカーを壊しながらワンチャンス・ワンゴールを狙おうと伝えていました」
12月の対戦時は、計12本のシュートを浴びながら、自分たちのシュートは4本にとどまった。一方、今回は被シュート数が25本と増えたが、放ったシュートも倍以上の11本を記録。流れの中でワンチャンスを見極める嗅覚を磨いてきた成果が、金平の決勝ゴールにつながった。
「あれだけ攻められても、辛抱強く守れるチームになったことは大きな進歩だと思います。(チームコンセプトとして)掲げてきた『ドーベルマンディフェンス』と『クイック・シンプル・トゥ・ザ・ゴール』が出せたと思います」(池谷監督)
値千金の決勝弾を決めた金平は、日体大から加入して3シーズン目。ゴールについて聞くと、「大学で決めた初ゴールの次に嬉しいゴールになりました」と顔を綻ばせた。
今季は左のサイドバックとウイングバックのファーストチョイスに定着。粘り強い守備と献身的なプレーが持ち味で、黒子に徹することも多いが、この試合では「ウイングバックが鍵になる」という指揮官の言葉を体現した。
埼玉は過去には2019年と22年の皇后杯でベスト4に進出しているが、そこから先のステージに進んだことはまだない。
1月20日の準決勝で対戦するのは、リーグ戦で首位に立つINAC神戸レオネッサだ。5(3)バックでポゼッションと鋭いカウンターを使い分け、攻撃では田中美南や高瀬愛実、成宮唯、守屋都弥ら、決定的な仕事ができる選手が揃う。
静岡県・藤枝市出身の池谷監督の根底にある理想のサッカーは、「ボールを保持して回して攻める」スタイルだという。今は「結果を出す」ために守備重視のサッカーを選択しているが、戦い方の幅を広げるためにも、まずは個を磨くことを強調している。
「8月に就任してから、技術の練習を重ねてきました。脳と腸がつながっているという意味の『腸脳相関(*)』という言葉がありますが、選手たちに伝えているのは、『脳と足をくっつけて、周りをよく見て考えながら、意識を変えて、技術を変える』こと。その道を続けていきたいと思っています」
昨年は神戸に同ステージで1-2で敗れたが、果たして今年はどうなるか。5カ月間の積み上げの成果が試される一戦となる。
(*)重要な器官である脳と腸が影響を及ぼしあうこと