文武両道・彦根東 滋賀学園を破る!
甲子園をめざす各地の予選も中盤から後半に入ってきた。必ずしも決勝で実力トップ級同士が顔を合わせるとは限らない。早い段階で優勝争いを左右する対戦はどの県でも行われている。滋賀はまだ8強が決まっていないが、3回戦でセンバツ出場の滋賀学園と春の県大会優勝の彦根東が対戦。期待通りの熱戦となった。
秋の滋賀学園、春の彦根東
滋賀学園は秋の県大会で優勝し、近畿大会でも智弁和歌山、報徳学園(兵庫)を破って、2年連続でセンバツに出場した。1回戦で東海大市原望洋(千葉)との延長14回の死闘を制し、2回戦では福岡大大濠と延長15回引き分け。再試合で惜敗し、2年連続の8強こそ逃したものの、実力が全国レベルであることは間違いない。彦根東とは、春の県大会準々決勝で当たり、センバツで活躍した棚原孝太(3年)を先発させたが、1-3で敗れた。彦根東はそのまま優勝し、近畿大会でも龍谷大平安(京都)を破り、センバツ優勝の大阪桐蔭に8回までリードして王者を慌てさせた。
滋賀学園・後藤が先制アーチ
彦根東、躍進の原動力は左腕の増居翔太(2年)。しなやかなフォームから、低めに球を集める。
春の滋賀学園戦は、初回に失点したがすぐに立ち直り、逆転につなげた。村中隆之監督(49)は、迷わず大一番の先発に起用したが、課題の立ち上がりにつかまった。四球の走者を置いて、滋賀学園の主砲・後藤克基(3年)が、豪快な中堅越えの高校通算30号。いきなり2点を失い、その後も安打を連ねられたが、何とか2点で切り抜けた。
看板の投手陣不調の滋賀学園
滋賀学園は、沖縄出身の神村月光(ひかり=3年)、棚原の右腕2枚が看板だったが、ともに故障で、同じ沖縄出身の宮城滝太(だいた=2年)を主戦に据えざるを得ない状況となっていた。宮城もセンバツ時ほどの球威がなく、初戦では初回に5失点するなど、本来からは程遠い出来。この日も初回、四球と安打でピンチを招くと、4番・岩本道徳(3年)には犠飛。6番・吉本孝祐(3年)には、高めのボール球を左翼線に運ばれて、たちまち2-2の同点となった。
高校初アーチで彦根東がリード
増居はその後立ち直るが、宮城の投球はピリッとせず、3回に手痛い一発を浴びる。
3番・高村真湖人(3年)が、思い切って振り抜くと、打球はぐんぐん伸びて、バックスクリーンの左に吸い込まれた。「練習試合でも打ったことがありません」と高村本人もビックリの勝ち越し本塁打で、彦根東が序盤をリードした。宮城に立ち直りの気配が見られず、滋賀学園の山口達也監督(46)は、左腕の島邊太成(2年)を5回からマウンドに送る。何とか流れをつかみたい滋賀学園は、島邊が期待に応え、3インニング連続で三者凡退に抑え、終盤に望みをつないだ。
滋賀学園、8回の無死1、3塁逃す
2回以降ほとんど好機もなく、淡々と攻撃を終えていた滋賀学園だったが、8回、小浜峻史(3年)が安打で出塁すると、後藤がつなぎ、無死1、3塁の絶好機を迎える。最悪でも同点かと思われたが、4番・武井琉之(3年)は2ボールから力んで捕邪飛。続く知念良智(3年)は、球威に押されて二ゴロ併殺で無得点と、まさかの逸機になった。「サインを見落としたり、今日は立ち上がりからパニックになっている選手がいた」と山口監督は悔やんだが、じっくり攻めていれば最低でも追いつけた場面だった。逆に彦根東の増居は、「同点まではオーケーと言われていたので、一人一人、まっすぐで押していこうと思った」と冷静に球を低めに集めた。
彦根東・増居は直球勝負
「特に9回はすごい球が来ていた」と村中監督も納得の投球で、増居は最後の打者を一邪飛に打ち取り、彦根東が大一番を3-2の1点差でモノにした。
球威に押されての飛球アウトは13を数えたが、「最速135~6キロ」(増居)とは思えない直球の伸びは、増居のこだわりでもある。近畿大会の大阪桐蔭戦では、すべて直球勝負を挑んで逆転を許していた。「(桐蔭に打たれて)夏は通用しないと思った。フォームでも、体重移動を意識して、まっすぐは春より良くなっている」と手応えをつかんだ様子。カーブ、スライダー、チェンジアップも投げるが、「変化球はタイミングを外す程度」と意に介さない。「立ち上がり、それも一巡目にいつも(点を)取られる」と苦笑いしたが、課題は本人が一番わかっている。
「文武両道」は彦根東のためにある
甲子園への最難関を突破したといっても、まだ8強。甲子園にたどり着くにはあと3勝が必要だ。
「今日は滋賀学園が相手でしたが、相手がどこでも自分たちの力をいかに出すか、どんな試合でも苦しい状況をどう勝ち上がっていくかをテーマにやっています」と村中監督。同校は、2009(平成21)年センバツに21世紀枠で出場。56年ぶりの甲子園だったが、夏に2度の優勝経験がある習志野(千葉)と互角に戦い、サヨナラで惜敗した。その後も毎年のように甲子園を狙える力を蓄え、4年前の夏、ついに選手権初出場を果たした。21世紀枠の理念の一つである「実力で甲子園に戻って欲しい」を実現し、出場前よりも実力を伸ばしている。これだけ強い野球部でも、入試や学業での優遇はまったくない。部員は朝7時に集合し、その日の授業の予習をしてから教室に向かうという。その結果、過半数の部員が国公立大学や有名私大に現役合格する。彦根東ほど「文武両道」という言葉がマッチする高校はない。