Yahoo!ニュース

高校で女生徒の体操服に下半身を押し当てた男性教諭 逮捕のワケと驚きの罪名

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 埼玉県の私立高校で女生徒の体操服や靴下をロッカーから勝手に持ち出し、校内の男子トイレで自らの下半身を押し当てるなどして汚したとして、この高校に勤務する28歳の男性教諭が逮捕された。「好みの生徒だった」「性欲を満たすためにやった」などと供述し、容疑を認めているという。

なぜ発覚し、逮捕に至った?

 事件は昨年4~10月ごろに発生したものだが、体操服などに残された体液などの遺留物のDNA型鑑定を行った結果、犯人が特定されたというわけではない。教諭は犯行後に体操服などをロッカーに戻しており、女生徒も被害に気づいていなかった。

 では、なぜ発覚したかというと、この教諭が自らの犯行状況をスマートフォンで撮影したうえで、女生徒のロッカーから入手したといった記載を添えてSNSに投稿し、ほかのユーザーと画像のやりとりをしていたからだ。そのため、内部パトロールを行っていたこのSNSの運営会社が不適切なやりとりだとして警察に情報を提供し、アカウントの登録者を特定した結果、教諭の犯行が発覚し、事件から1年が経過した10月16日に逮捕に至った。

 教諭のスマホには、ほかにも同様の犯行に及んだ際のものとみられる画像が保存されており、警察は余罪の有無についても捜査を進めているという。

どのような罪になる?

 とはいえ、この教諭が「器物損壊罪」で逮捕されたと聞くと、驚く人も多いだろう。器物損壊罪の「損壊」とは、その物の効用を害する一切の行為をいう。物理的に壊すだけでなく、心理的に使用できなくしたり、その物が本来持っている価値を低下させたり、長期間にわたって隠してしまう行為も含む。

 したがって、体操服などに下半身を押し当てて汚すという行為も、心理的に使用できなくさせるものであるうえ、その価値を低下させるものでもあることから、「損壊」にあたるというわけだ。

 もっとも、教諭は犯行後にロッカーに戻しているとはいえ、一時的に体操服などを男子トイレまで持ち出しており、窃盗罪が成立するのではないかという問題もある。確かに刑法は、窃盗罪について「他人の財物を窃取した」と規定している。

 しかし、窃盗罪が成立するには、それに加えて「不法領得の意思」、すなわち「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分する意思」まで必要だというのが裁判所の立場だ。

 自分や家族で使うとか、売り払うのではなく、下半身を押し付けて性欲を満たそうと考えて犯行に及んだということであれば、「不法領得の意思」に疑義があるということで、窃盗罪に問うことが難しくなる。

 そこで、容疑が固い器物損壊罪による逮捕に至ったというわけだ。最高で懲役3年、罰金だと30万円以下だが、告訴がなければ起訴できない親告罪だから、被害弁償を行い、示談が成立して告訴が取り下げられれば、不起訴で終わることになる。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

前田恒彦の最近の記事