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ベテランの漫才賞『THE SECOND 2024』、改めて知っておきたいポイントや松本人志不在の影響

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:イメージマート)

5月18日におこなわれる漫才賞レース『THE SECOND〜漫才トーナメント〜2024』(フジテレビ系)のグランプリファイナル。

今回が2度目の開催となる同大会の参加資格は、結成16年以上の漫才師。また、全国ネットの漫才賞レース番組の優勝者はエントリーできず、アマチュアや即席ユニットの参加も認められない。2023年大会は、コンビ結成20年目のギャロップが優勝、結成25年目のマシンガンズが準優勝を果たした。2回目の2024年大会のグランプリファイナルには、タモンズ、ハンジロウ、ななまがり、金属バット、ザ・パンチ、タイムマシーン3号、ガクテンソク、ラフ次元の8組が顔を揃えた。

ただ、まだ2回目の開催ということで同賞に馴染みがない方も多いはず。そこで『THE SECOND』のポイントやルールを押さえておきたい。

『THE SECOND』のタイマン形式のトーナメント戦はドラマが生まれやすい「戦い方」

まず『THE SECOND』と、ほかの賞レースの「戦い方」の違いとその意味について解説したい。

テレビ放送されるなど大規模で展開されるお笑い賞レースは、結成15年目以内の漫才師たちによる『M-1グランプリ』、コント師たちによる『キングオブコント』、ピン芸人たちによる『R-1グランプリ』、女性芸人を対象とする『女芸人No.1決定戦 THE W』の4賞が挙げられる。

『M-1』、『キングオブコント』、『R-1』はファイナリストたちがまずファーストラウンドに臨み、1組目から順番にネタを披露。その得点上位3組がファイナルラウンドへ進出し、優勝者を決める。『THE W』は、ファイナリストを数組ずつブロック分けし、勝ち抜き形式で各ブロックの勝者を決定する。たとえばAブロックでまず1番手と2番手が対決し、勝った方が3番手と勝負する…という戦い方だ。そうやって各ブロックの勝者を決め、ファイナルラウンドをおこなって優勝者を選ぶ。

『THE SECOND』が4賞と違うのは、1対1のタイマン形式によるトーナメント戦という部分だ。2024年大会では、第1試合でハンジロウと金属バット、第2試合でラフ次元とガクテンソク、第3試合でななまがりとタモンズ、第4試合でタイムマシーン3号とザ・パンチが激突。準決勝は第1試合と第2試合の勝者、第3試合と第4試合の勝者が当たり、勝ち残った2組で最終決戦がおこなわれる。

タイマン形式ということで「どちらが強いか」がはっきり決まる。その点では非常に残酷な「戦い方」でもある。ただ、勝った方が、負けた方の想いも背負って次の試合に挑むというトーナメント戦ならではの「感情の乗っかり方」も見られる。2023年大会のトーナメント1回戦では、大阪の劇場で長年切磋琢磨してきたギャロップとテンダラーが対決。後輩のギャロップに軍配があがったが、ギャロップの毛利大亮は、テンダラーの白川悟実に可愛がってもらっていたことから、勝ちながらも複雑な涙を流した。その姿がとても感動的だった。

『THE SECOND』は、そういうドラマが生まれやすい「戦い方」でもあると言える。

番組側の気配りがしっかり行き届いた「一般審査員100人」の採点方法

審査のシステムについても触れておきたい。各賞レースは、審査のやり方にもそれぞれ特色を持っている。先出の4賞はいずれも、実績があるお笑い芸人が審査員として登場し、採点・判断する。

『M-1』、『R-1』、『キングオブコント』はお笑い芸人が審査員をつとめ、その採点・判断で勝者が決まる。『THE W』はお笑い芸人の審査だけではなく、視聴者による「国民投票」の枠も設けられている。また採点ではなく、「どちらがおもしろかったか」を投票するシステムだ。

このように勝者の決め方はバラバラだが、どれも「お笑い芸人が審査する」という点は共通している。そんななか『THE SECOND』は、かなり異色な審査スタイルをとっていると言って良いだろう。

『THE SECOND』の採点・判断にお笑い芸人は一切タッチしない。漫才師たちの命運を握るのは、番組側が集った一般審査員100人。一般審査員は各試合の2組のネタ終了直後、「とてもおもしろかった:3点」「おもしろかった:2点」「おもしろくなかった:1点」のいずれかを振り分ける。そして合計300満点のなかで、集まった得点が高い方が勝ち上がる。

重要なのは、2組のネタ終了後に採点するところ。もし1組ずつネタ終了後に採点していたら「先攻はひとまず様子見で2点」という状況が増えるだろう。2組まとめて採点することで、優劣をはっきり決めることができる。ちょっとしたことだが、番組側の気配りがしっかり行き届いたシステムだ。

2023年大会のギャロップ、マシンガンズが見せた「ネタ時間6分」の醍醐味

「ネタ時間」も、大型賞レースのなかでもっとも長い6分。つまり決勝まで進めば、6分ネタを3本もやることになる。

2023年大会の決勝戦ではマシンガンズが「もうネタがないんだって」とネタ切れを宣言し、フリートーク型の漫才を見せた。一方、優勝したギャロップは決勝戦で、まず林健が喋りまくり、毛利大亮がツッコミを入れないネタを繰り出した。「4分ツッコミなし」のネタだったが、終盤で一気に伏線回収する“大技”をやってのけた。

フリートーク型で乗り切ったマシンガンズも、最後の爆発力に賭けたギャロップも、どちらも「ネタ時間6分」だからこその醍醐味と言える。

あとなにより、6分ネタを数本おこなう労力も伝わってきて、視聴者側も心地良い疲労感におおわれる。

2023年大会は松本人志のポジショニングが絶妙、今回の有田哲平&博多華丸・大吉はどうか

「戦い方」、「審査方法」、「ネタ時間」の3つを押さえておけば、『THE SECOND』は十分楽しめるが、演出面まで目を配るとより同大会の素晴らしさが感じられるだろう。

特に見事なのがカメラワーク。ほかの賞レースでは、審査員のリアクションもまじえながら芸人たちのネタを見せている。ただ『THE SECOND』は「芸人集中型」だ。基本的には、ネタをやっている芸人たちの姿を画面から外すことはない。「ベテラン芸人たちのネタを余すことなくしっかり見せ切る」という姿勢が、『THE SECOND』からは感じ取れる。

また、2023年大会では、見届け人的な役割であるアンバサダーのあり方も良かった。ダウンタウンの松本人志がその立場を担ったが、出過ぎず、引き過ぎずの絶妙なバランスでコメントなどをおこなった。もしそこで権威性が発揮されたり、細かい論評がなされたりすると、一般審査員の採点に響く可能性がある。その点で松本人志の立ち振る舞いはこれ以上にないものだった。

2024年大会では、松本人志が芸能活動を休止しているため代理のアンバサダーは設けずに、ハイパーゼネラルマネージャーとして有田哲平(くりぃむしちゅー)、スペシャルサポーターとして博多華丸・大吉が大会に参加。両組がどういったやり方で番組を“演出”するのか注目されるが、どちらも百戦錬磨のバラエティ巧者で、空気を読めるタイプであることから、大会に合った笑いの取り方やコメントをしてくれるはず。

また『M-1』や『キングオブコント』は審査員としての「松本人志色」が強いが、『THE SECOND』は大会歴が浅いことから、まだいろんなイメージ付けが可能であるため、「松本人志不在」の影響を感じさせることはそれほどないと思われる。むしろ2023年大会も「松本人志色」を濃くしない方向性を受け取れたので、そもそも番組自体のバランス感覚が優れているのだろう。

2023年大会は番組進行、システム面などあらゆる面で好評を集めていたが、2回目はどうなるのか。期待を持って番組を鑑賞したい。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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