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猛暑のヒロインたち・・・「オトナの男」にオススメの夏ドラマ

碓井広義メディア文化評論家

猛暑が続いているが、今クールの連続ドラマのヒロインたちも、かなりヒートアップしている。それぞれの“冒険”に挑む女優陣を軸に、「オトナの男」にオススメの夏ドラマを選んでみた。

夫婦そろって見るのは危険

「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(フジテレビ)

「男性からキレイだと思われる女と、そうじゃない女の人生って、ぜんぜん違うと思います」だなんて、いいのか、そんな本当のコトを言って。「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(フジテレビ)のヒロインの一人、吉瀬美智子のセリフである。

「上戸彩が浮気妻?白戸家の娘にしか見えないんだけど」と思っていたら、ちゃんと“オトナの女”担当の吉瀬がいた。ドラマの役柄と同じ39歳の吉瀬美智子、今後を占う勝負の1本となっている。

女性雑誌編集長を夫にもつ美人妻、良き母親、瀟洒な一戸建てに住むセレブ主婦でありながら、一方ではバリバリの「平日昼顔妻」だ。この吉瀬が、偶然知り合った普通のパート主婦・上戸を禁断の世界へと誘い込む。

吉瀬の相手は才能があってアクの強い独身の画家(北村一輝)。上戸のそれは生真面目な既婚者の生物教師(斉藤工)だ。

だが、いずれもすんなりと不倫やダブル不倫に走るわけではない。特に上戸は自分の気持ちを疑ったり、押さえたりしながらの一進一退が続く。いや、そのプロセスそのものがドラマの見所なのだ。

前述のようなドキリとさせるセリフをはじめ、妻や夫がもつ“別の顔”の描写など、井上由美子の脚本が冴えている。夫たちは外で仕事だけしているわけではなく、家にいるはずの妻たちもじっとしているわけではない。そんな妻や夫の生態はもちろん、べッドシーンもしっかり登場する。

このドラマを夫婦そろって見るのは、互いのハラを探り合う事態を招くから止めたほうがいい。見るなら、別々に、一人で。

その意味ではリアルタイム視聴率もさることながら、最近話題の「タイムシフト視聴率(録画再生率)」が高そうな1本と言えそうだ。

“美少女”武井咲の笑顔封印作戦

「ゼロの真実~監察医・松本真央~」(テレビ朝日)

20歳の女性を少女とは呼ばないかもしれない。しかし武井咲は20歳になっても「美少女」という印象が強い。

「20歳の美少女」が監察医って、そりゃ無理筋ではないのか。「ゼロの真実~監察医・松本真央~」(テレビ朝日)の設定には懸念を抱いていたが、意外や今クールのドラマの中の隠れた佳作となっている。

まず警察ミステリーとしての骨格がしっかりしていることだ。たとえば、ミイラ化した遺体をめぐって、犯人である歯科医の夫を追い詰めていく過程に見応えがあった。見る側にも「こいつが怪しい」と思わせておいて、犯行の決め手となる部分を知らせずに引っ張るのだ。最後は武井の鋭い観察眼が「思わぬ事実」を見つけ出した。

次の特徴として、主演は確かに武井だが、本人の出番の時間を割と短くしている。これはキムタクの「HERO」でも功を奏しているスタイルだ。

このドラマでは先輩監察医・真矢みき、捜査一課の刑事・佐々木蔵之介、部長監察医・生瀬勝久といった面々の快演や怪演による群像劇を、一種のバラエティ感覚で楽しめる。

そして最後に“美少女”武井咲の笑顔封印という逆手の演出だ。彼女の「喜怒哀楽を持たない(出さない)」性格はどこから来たのか。その鍵を握る謎の死刑囚・橋爪功の置き方も上手い。武井に笑顔が戻るのは恐らく最終回だろうが、その決着を見とどけてみようと思う。

金曜深夜には壇蜜がよく似合う

「アラサーちゃん無修正」(テレビ東京)

富士には月見草が、そして金曜深夜には壇蜜がよく似合う。オトナのためのバラエティドラマ「アラサーちゃん無修正」(テレビ東京)だ。

原作は峰なゆかが「週刊SPA!」に連載中の漫画。アラサー世代の日常を、セックスを軸にリアルに描いていて面白い。これに目をつけるあたり、さすが「極嬢ヂカラ」の工藤里紗プロデューサー(演出も兼務)である。

このドラマでは、たとえば元カレにして現セフレの男との情事の最中、「バック大好き。だって表情で演技する無駄なカロリー消費がないし」てな具合に、アラサーちゃん(壇蜜)の思っていることが本人の声で流れる。それは合コンという喧騒のゲームに参加している時なども同様で、アラサー女子の赤裸々な本音が開陳されるのだ。

また毎回、壇蜜や元AV女優のみひろが繰り広げるベッドシーンもお約束だ。深夜ドラマでエロといえば、「特命係長 只野仁」(テレビ朝日)の独壇場だったが、好敵手の出現と言えるだろう。男女の結合部分の手前に人形などを置く、プチ昭和な手法の映像処理も微笑ましい。

以前、放送倫理・番組向上機構(BPO)から「性表現が過激」と指摘を受けたのはフジテレビ系の昼ドラ「幸せの時間」だった。あの時は「昼間の番組にもかかわらず」とか、「子供への影響」が問題視されたが、こちらは金曜深夜0時52分。オトナの時間である。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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