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「水タバコ(シーシャ)」の健康への害について考える

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 タバコを吸う方法はいくつかあるが、水タバコ(シーシャ)という喫煙方法が少しずつ広がり始めている。文字通り、水に通したタバコ煙を吸い込むが、通常の紙巻きタバコより安全という誤った認識もあり、またカフェやクラブなどに用意されていて喫煙に対するハードルを下げる効果もある。この水タバコの健康への害について考えてみた。

日本でも増えつつある水タバコ喫煙目的店

 喫煙率はやや下げ止まり、喫煙のスタイルは多様化している。紙巻きタバコ、加熱式タバコのような新型タバコ、噛みタバコ(スヌース)、パイプタバコなどがあるが、アラブ諸国やインドなどの昔からの喫煙法に水タバコがある。

 水タバコは、水パイプ、水煙管、フーカー(Hookah)、シーシャ(Shisha)などの異なった呼び方があり、日本ではシーシャが一般的だ。水タバコは若い世代を中心に中東から欧米へ広がり、世界的に蔓延しつつあり、公衆衛生上の大きな問題として指摘されている(※1)。

 水タバコも葉タバコを使用する喫煙行為なので、日本では規制する法律がある(たばこ事業法)。飲食店など公共の屋内での水タバコの喫煙は、喫煙目的店でしか吸えないというように改正健康増進法によって規制されている。

 だが、全国ほとんどの繁華街に喫煙目的店としての水タバコ(シーシャ)カフェや水タバコ(シーシャ)バーがあり、実態は不明だがその数は増えつつあるようだ。実際、Googleマップで検索してみると、ほとんどの大都市に水タバコを提供する喫煙目的店が多数ある。

水タバコの吸い方はなかなか難しい

 水タバコの基本的な構造は、図のようになっている。上部で木炭を燃やしてあり、喫煙者が息を吸い込むとそこで熱せられた空気がペースト状にしてフレーバーを付けた葉タバコを通過し、その気体がいったん水に入ってからホースを経由して喫煙し、タバコ煙が喫煙者の体内に入るという仕組みだ。

一般的な水タバコの構造。ペースト状になった葉タバコを木炭で熱し、タバコ煙を吸い込む過程で水にくぐらせる。Via: Wasim AMaziak, et al.,
一般的な水タバコの構造。ペースト状になった葉タバコを木炭で熱し、タバコ煙を吸い込む過程で水にくぐらせる。Via: Wasim AMaziak, et al., "The global epidemiology of waterpipe smoking" Tobacco Control, 2014

 水タバコを吸う場所を提供する喫煙目的店は、中東的なエキゾチックな装飾があったり、くつろいだ雰囲気と独特の甘いフレーバーが漂ったりしている。こうした非日常感とSNSなどでの発信が、若い世代に受け入れられている要因のようだ。

 筆者も某所の水タバコ(シーシャ)カフェに行ってみた。入り口に喫煙目的店と表示があり、店員がその旨を確認する。筆者はもう喫煙者ではないのでニコチン・フリーのものを頼んだ。

 1時間の器具の使用量と使い捨ての吸い口代、お茶代で3000円近くして決して安いものではなかった。また、店員は吸い込んだ煙を肺に入れないほうがいいと説明したが、元喫煙者の筆者にそれは難しかったし、むしろ肺の奥に深く吸い込んでしまい、退店後もしばらく口の中に妙な違和感が残った。

水タバコ使い捨ての吸い口(左)、加熱用の木炭とガラス製の本体(右)。木炭の下に葉タバコなどがある。撮影筆者
水タバコ使い捨ての吸い口(左)、加熱用の木炭とガラス製の本体(右)。木炭の下に葉タバコなどがある。撮影筆者

害は少なくなっていない

 過去の水タバコに関する研究はそれほど多くない。日本ではさらに少なく検索しても全く引っかからないが、やはり中東や欧米の研究が目立つ。

 2004年にシリアで行われた調査研究によると、水タバコの喫煙者は、ときどき水タバコを吸い、通常は紙巻きタバコを吸うようだ。水タバコを1時間吸うと平均100パフ(1パフは1吸い)と見積もられ、紙巻きタバコ5本分(20パフ×5)の喫煙量になる(※2)。

 また、米国で大学生を対象にした調査研究によると、最初は水タバコの喫煙から始めた場合、数年の間に紙巻きタバコなどを日常的に吸うようになる(※3)。水タバコが本格的な喫煙のゲートウェイになるというわけだ。

 問題なのは、タバコ煙を水にくぐらせることで、有害性が低くなったり健康への害が少なくなったりすると誤解する喫煙者がいることだ。

 水タバコは、木炭などで加熱した空気を、フレーバーをしみこませた葉タバコのペーストに通過させるが、水タバコの構造、ホースの長さ、加熱温度、葉タバコやフレーバーの種類、吸い方などによって、その健康影響は多様になる。そのため、科学的な分析や長期的な健康影響などについての研究は難しい。

 これまでの研究で、水タバコからは、葉タバコによるニコチン、ペースト状に固めるためのタール、燃焼による一酸化炭素、フレーバーに含まれる多環芳香族炭化水素といった発がん性のある有害物質、銅、亜鉛、鉛などの重金属といった成分が検出されている。

 そして、水タバコを吸うことで、こうした物質が発がん、心血管疾患、呼吸器疾患、一酸化炭素中毒などの疾患リスクを高め、健康へ悪影響をおよぼす(※4)。

 例えば、水タバコはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の発症と関係している(※5)。レバノンの医療関係者らによる研究では、全くタバコを吸わない人に比べ、紙巻きタバコと水タバコを併用する喫煙者は約42倍、COPDになりやすいことがわかっている(※6)。

新型コロナの感染リスクも

 また、水タバコの喫煙者は、新型コロナなどの感染症にかかりやすいとされる。イランの医療関係者らが、水タバコのホースと瓶からサンプルを採取し、細菌について調べたところ、緑膿菌、大腸菌、その他のグラム陽性菌類が発見されたという(※7)。

 実際、水タバコの喫煙者は、MERS(中東呼吸器症候群)にかかるリスクが高いという疑いがあり(※8)、イランのテヘラン医科大学などの研究グループの調査研究では、水タバコの喫煙者は非喫煙者に比べ、新型コロナに感染して人工呼吸器による治療を受けるリスクが3.9倍だった(※9)。このように水タバコの喫煙者が多くなり、喫煙環境が増えると新型コロナの感染拡大に影響を及ぼすのは明らかだ(※10)。

 また、水タバコによる健康影響に関する研究を網羅的に集め、信憑性の高い複数の論文を比較するシステマティック・レビューという手法で調べてみた研究がこれまで複数ある。そのどれもが、肺がんや膀胱がん、食道がんなどの発がん性、呼吸器疾患と低体重児出産、歯周病などのリスクが高いという結果になっている(※11)。

 以上をまとめると、日本でも水タバコ(シーシャ)が広がりつつあるが、その成分は他のタバコ製品と同様、有害物質が含まれており、がん、呼吸器疾患などのタバコ関連の病気にかかる危険性や新型コロナなどの感染リスクもある、ということになる。

 日本でも水タバコ(シーシャ)の喫煙者や水タバコを提供する喫煙目的店が増えていると考えられる。だが、筆者が厚生労働省に確認したところ、その全容を把握しようとする危機感は感じられなかった。

 水タバコの健康は、ニコチン・フリーのものを含めれば製品も多種多様だし、その吸い方もいろいろだ。さらに、水タバコの呼び方もシーシャを始め、多種多様で研究が進まず、混乱する要因になっている。

 どのタバコ製品にもいえることだが、どんな成分が入っているかわからない製品を吸い込み、呼吸器から体内へ送り込むのは危険だ。ネットでは水タバコの器具も安価で売っているが、水タバコの喫煙頻度はあまり増やさないほうがいいだろう。

※1-1:Wasim AMaziak, et al., "The global epidemiology of waterpipe smoking" Tobacco Control, Vol.24, i3-i12, 8, October, 2014

※1-2:WHO, "Waterpipe tobacco smoking: health effects, research needs and recommended actions for regulations, 2nd edition" WHO Study Group on Tobacco Products Regulation (TobReg), 2015

※2:K D. Ward, et al., "The tobacco epidemic in Syria" Tobacco Control, Vol.15, Issue suppl 1, 2005

※3:Kathleen R. Case, et al., "Hookah use as a predictor of other tobacco product use: A longitudinal analysis of Texas college students" Addictive Behaviors, Vol.87, 131-137, 2018

※4-1:Kurt Straif, et al., "Carcinogenicity of polycyclic aromatic hydrocarbons" THE LANCET Oncology, Vol.6, Issue12, 1, December, 2005

※4-2:Elizabeth Sepetdian, et al., "Measurement of 16 polycyclic aromatic hydrocarbons in narghile waterpipe tobacco smoke" Food and Chemical Toxicology, Vol.46, Issue5, 1582-1590, 2008

※4-3:Giovanna La Fauci, et al., "Carbon monoxide poisoning in narghile (water pipe) tobacco smokers" Canadian Journal of Emergency Medicine, Vol.14, Issue1, 11, May, 2015

※5:Fares Darawshy, et al., "Waterpipe smoking: a review of pulmonary and health effects" EUROPEAN RESPIRATORY review, Vol.30, DOI: 10.1183/16000617.0374-2020, 2021

※6:Georges Khayat, et al., "Waterpipe smoking and dependence are associated with chronic obstructive pulmonary disease: A case control study" EUROPEAN RESPIRATORY journal, Vol.38, Issue Suppler 55, 2011

※7:Alireza Javadi, et al., "Waterpipe tobacco smoking may potentiate risk of fungal and bacterial infections" EUROPEAN RESPIRATORY journal, 2016

※8:Abdulaziz N. Alagaile, et al., "Waterpipe smoking as a public health risk: Potential risk for transmission of MERS-CoV" Saudi Journal of Biological Sciences, Vol.26, 938-941, 2019

※9:Azin Ghamari, et al., "The effect of hookah use on COVID-19 related adverse outcomes: Lessons learned from integrating STEPs 2016 and national COVID-19 registration databases" Tobacco Induced Diseases, Vol.20, Issue11, 28, January, 2022

※10:Khaled Alturki, Peter Watton, "Waterpipe Smoking and the COVID-19 Syndemic" American Journal of Epidemiology & Public Health, Vol.12(6), 19-24, 2022

※11-1:Elie A. Aki, et al., "The effects of waterpipe tobacco smoking on health outcomes: a systematic review" International Journal of Epidemiology, Vol.39, Issue3, 834-857, 2010

※11-2:Hafiz Muhammad Aslam, et al., "Harmful effects of shisha: literature review" International Archives of Medicine, Vol.7, No.16, 2014

※11-3:Ziad M. El-Zaatari, et al., "Health effects associated with waterpipe smoking" Tobacco Control, Vol.24, Issue Suppler 1, 6, February, 2015

※11-4:Reem Waziry, et al., "The effects of waterpipe tobacco smoking on health outcomes: an updated systematic review and meta-analysis" International Journal of Epidemiology, Vol.46, Issue1, 32-43, 13, April, 2016

※11-5:Anne S. Kienhuis, Beinskje Thalhout, "Options for waterpipe product regulation: A systematic review on product characteristics that affect attractiveness, addictiveness and toxicity of waterpipe use" Tobacco Induced Diseases, Vol.18, Issue69, 25, August, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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