川の溺水は14時から15時に多発。7月25日は世界溺水防止デー♯DrowningPrevention
暑い休日となれば、水辺に出かける人も増えていますが、ここ数日、水難事故も目立ってきています。
7月25日は、世界溺水防止デー
おりしも、本日、7月25日は、世界溺水防止デーです。2021年4月国連の第75回総会で、世界的な溺水防止に関する決議が採択され、今年から毎年7月25日を世界溺水防止デーとすることを宣言しました。記念すべき第1回目、それが今日なのです。
スローガンは、Anyone can drown,No one should.(人は誰でも溺れる 誰も溺れてはならない)というものです。プッチーニのトゥーランドット「誰も寝てはならぬ (No one should sleep)」が脳内再生されそうなスローガンです。
国連で「溺水」を主題に決議が採択されたのは初めてで、さらにこの溺水には、洪水による溺水も含まれています。そして、溺水は防ぐことのできる事故であることを強調しているのが特徴的です。
日本の溺水状況は10万人に1、5人〜3人。先進国中、溺水率が高め
洪水も含まれるためという理由もありますが、日本の溺水は、世界的に見ても防げるべき溺水が防げていない国となっています。国連第74会期決議では、「溺水と開発の関連性を認識し、溺水の 90%以上が低・中所得国で発生していること、アフリカは世界で最も高い溺水率を記録していること、及びアジアは数の上で最も大きな溺死者数及びその負担を背負っていることを指摘」とされており、開発との構造的な問題であるがゆえに溺水は対策により防げるものと報告されています。[1]
すべての溺水は防げるというけれど、どうやって?
タイトルにある、川の溺水事故の時間帯についてお伝えする前に、この世界溺水防止デーのキャンペーンでは、すべての溺水を防ぐためどのような方法を指摘しているかをまずご覧いただきたいと思います。
すべての溺死は防げる
解決策はある。WHOは、エビデンスに基づく溺死防止策を示し、その詳細な実施ガイダンスを提供している。これらの実施方法は状況によって異なるが、世界の溺死防止コミュニティが一貫して、溺死防止のために実施可能な以下の6つの介入方法を明確にすることが重要である。
1. 水へのアクセスを制限する柵・フェンスなどを設置する。
2. 就学前の子供たちに水から離れた安全な場所を提供し、スキルのある保育士を配置する。
3. 学齢期の子どもたちを含め、基本的な水泳、水の安全、安全な救助方法を教える。
4. その場で救助する可能性のある人に安全な救助と蘇生の訓練を行う。
5. 個人用浮力装置の着用を含む、安全なボート、船舶、フェリーの規則を設定し、施行する。
6.レジリエンス(強靭化と訳される事もある)の構築と洪水リスクおよびその他の危険性の管理。
(出典 World Drowning Prevention Day Guidancefor Organizationsをwww.DeepL.com/Translatorで翻訳したものに著者修正)
この1の「 水へのアクセスを制限する柵・フェンスなどを設置する。」の部分は、用水路やため池の事故で、ふだんから「人食い用水路」などと呼ばれるまま放置されて柵などの対策が遅れている国内事例が当てはまってきます。
親が目を離さないはどこまで有効か?川の事故は、
ところで、子どもの水難事故が起こると、解決策のひとつとして「親が子どもの目を離さないよう注意する」という対策が取り上げられることがあります。ただ、一般論としてですが、「〜しないようにする」という解決方法は、対策につながりにくい場合があります。
例えば、「交通事故にあわないように注意する」と言っても、では、どうすればいいのか伝わりにくいです。「お酒を飲みすぎないようにする」ではどうでしょうか?これに対し、飲みすぎる時間帯がわかれば、「何時からの飲酒をやめる」など対策を取りやすくなります(もちろん成否は人によるのでしょうが)。
水難事故についても、「目を離さない」というだけではなく、どのようなケースで目が離れやすくなるかという分析があれば、より対策が取りやすくなります。例えば、上記のWHOガイダンスでは、バングラデシュの例として、溺死の多くが9時から13時の間に起こっていることを指摘しています。これは、親が家事に追われている時間帯と同じであることが原因として分析されています。[2]
日本の場合は、川の水難事故について、過半数が午後に発生しており、ピークの時間帯が、14時から15時という分析があります。[3]
ここでは、考えられる要因として、「暑さ・疲労・昼食後の眠気・飲酒等」記載されています。また、今年も残念ながら起こってしまったバーベキューの後片付け中の水難事故について、統計はありませんが、今後、調査していけば要因として上位に上がってくるのではと推測できるほど、聞いたことがある水難事故かと思います。
今後さらに原因をきちんと分析していくことにより、「目を離さない」という漠然とした対策ではなく、「バーベーキューのあとは、子どもと一緒に片付けをする」、「片付け中など子どもをひとりにしないように、常に誰かが子どもと一緒にいることができる体制を確保した上で、川遊びに出かける」などの対策がとりやすくなります。
エビデンスに基づく溺死防止策 消費者庁リーフレット
世界溺水防止デーでも強調されている「エビデンスに基づく溺死防止策」ですが、決して日本で実施されていないわけではありません。ただ、残念なことに官公庁から出されているわかりやすい啓発や資料を報道で見かけることは少ないです。今年、消費者庁は7月7日に以下の資料を発表しました。
「水辺で遊ぶときはライフジャケットを必ず着用しましょう」 と明記されています。皆さんはご存知でしたでしょうか?
海の対策
海に関しては、コロナ禍であることにも鑑み、以下のように記載されています。
より具体的な海の水難事故対策について、上記、消費者庁だけでなく文部科学省も授業での使用を勧めている公益財団法人 日本ライフセービング協会 e-Lifesavingが親子で使いやすいです。
これについては、「水辺の安全教育がコロナ禍で遅れぎみ。水難事故から身を守る方法を学校や家で。離岸流を見分けられますか?」でも記事にしています。
川の対策
川の水難事故についての消費者庁のリーフレットには以下のように記載されています。
川について具体的には、「サンダルが流されても取りに行かないで。国土交通省のRPG風こども向け水難防止動画が秀逸!親子で見て」で記事を書いたのですが、この動画が国が制作した物とは思えないほど(言葉が悪くてすみません)、「子どもたちの食いつきがすごい」と保護者にも人気です
昔の装備で川の魔物退治に出かけた勇者が、魔物にやられてしまい、マスター・リバーに装備の不備を指摘される構成です。流されにくいシューズを着用することや、きちんとした装備を身につけ、流された場合の対処法を実施することで、最後は、水の魔物たちと仲良くなれることも、小さな子にも安心のストーリー構成になっています。もっとアクセス数があってもいいのでは?と思うのですが、7月25日現在4500ほどです。YouTuberには、まだまだ及ばなのがもったいない内容です。
その他、川については、装備の他に、保護者は、子どもより常に川下にいて、 流れが穏やかで足も容易につく場所に立っておくことなどを徹底することが有効です。
ため池・プール対策
さらに、消費者庁リーフレットは、ため池や遊具のあるプールの注意点も記載しています。
プール遊具での痛ましい事故も起こっています。消費者庁だけでなく、経済産業庁も業界向けと消費者向けにチラシを作成しています(上記右イラスト)。
♯DrowningPrevention 世界溺水防止デーの行動を
最後に、WHOや公益財団法人日本ライフセービング協会などが7月25日の世界溺水防止デーについて、ハッシュタグ、♯DrowningPreventionをつけ、溺水防止について発信することを呼びかけています。多くの方の発信で、溺水が防止されますように。
その他、国連決議では、洪水対策と溺水事故対策は同時に啓発することや法整備を整えること、遺族に配慮した溺水防止の啓発などについて記載されているので、また機会があればご紹介したいと思います。
楽しく事故のない夏休みになりますように。
参考文献
[1]国際連合第75会期決議 Global drowning prevention
国際連合第75会期決議 溺水防止への世界的な取り組み(JLA国際室翻訳)
[2]WHO World Drowning Prevention Day Guidance for Organizations
[3]河川財団 No More 水難事故2021(令和3年6月現在 2003-2020年収集データ)