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【菅原由勢】 タディッチ(アヤックス)へのチャレンジで学んだこと

中田徹サッカーライター
AZとアヤックスはノールト・ホーラント州に本拠地を置くライバル 【中田徹】

 AZは1月20日、アヤックスに0対1で敗れ、KNVB(オランダサッカー協会)カップ・ベスト8進出を逃した。

 12月から公式戦10試合連続スタメン出場を続けていた菅原由勢は、ヤンセン監督から「週末に大切なゲーム(対フェイエノールト戦)があるから、それに向けてちょっと休んでほしい」という説明を受けてベンチスタート。チームがビハインドを負った61分からピッチに入った。

 最初に対峙したプロメス(オランダ代表)をしっかり封じ込めたり、再三、右サイドからオーバーラップを仕掛けたり、30分間という短い出場時間の中で、それなりに菅原は自身の色を出していたと思う。しかし、私が最も印象を受けたのは、79分から登場したアヤックスの大黒柱タディッチ(セルビア代表)に対して菅原が猛然とボールを奪いに行ったものの、巧みにかわされてしまったシーンだった。

 タディッチは現在のオランダリーグを代表する名手の一人である。左足でボールに魔法をかけて幻想的なプレーをし、強烈なシュートを放ち、体を張ってデュエルに挑んだりする、総合力の高いテクニシャンなのだ。そんなタディッチに対し、菅原は抜かれてもピンチにならないエリアで果敢にボールを奪いに行ったが失敗した。だけど、素晴らしいチャレンジだったと思う。

 試合後、本人にこのシーンを振り返ってもらいながら、“一対一”に対する取り組みなどの話を訊かせてもらった。

■「“一対一”は試合で相手と対峙して学べるもの」

――スパーンとタディッチ選手に抜かれました

「うまい体の使い方でしたね」

――もしかして“力試し”に行ったのでは?

「そうですね。正直、自分の近くにカバーもいたので、トライ・アンド・エラーだったというか。トライしないと学べないこともあるので、あそこは思い切って行きましたが、うまい体の使い方をされました。だけど、次にやったら抑える術はイメージとしてわいてきてます」

――今日の菅原選手は攻撃面で良く絡んでましたが、私にとってはタディッチ選手に抜かれたシーンが印象的でした。結果としては彼にやられてしまったけれど、(思い切り力試しができて)良かったなあと思ってます

「間違いないですね。彼はプレミアでプレーしたことのある選手ですし、チャンピオンズリーグでもいいプレーをしました。あの1回の失敗というのは……、(言い直して)トライというのは、自分にとって良いトライでした」

――今後のトレーニングにも生きてくるんじゃないですか

「そうですね。一対一の守備というのは、試合で相手と対峙して学べるものだと思うので、いい教訓になったというか、1つ引き出しが増えたかなという感触です」

■「“一対一”は自分の課題。だけど強みに変えることもできる」

――次はフェイエノールト戦。左ウイングにはシニステラ選手がいます

「はい」

――菅原選手とマッチアップするのは彼になります。年齢的にもそう変わりませんよね(菅原は20歳。シニステラは21歳)

「彼とは一回、U20ワールドカップ(2019年6月)前の、コロンビアとの練習試合で戦ったことがあるんです。力強いし、速いし、すごく良い選手だなと思ってました。でも、今度の試合で止める自信はあります。

 サイドの攻防は“戦術”というよりも“一対一”。強いチームになればなるほどそこがフォーカスされます。“ボールを取りきる”ということも大事ですけど、“相手にやらせない守備”というのがキーになってくると思う。“一対一”の状況から“これまでの”二対一(の数的優位)を作ったり、後ろ向きにボールを受けさせたりとか、色々な引き出しはあるので、そこも試してみたい」

――オランダはマッチアップが比較的はっきりしますし、試すには良いリーグかもしれませんね

「はい。オランダは4−3−3という基本的な形があって、サイドの選手が張っているから、ワイドで一対一の展開になる。一対一は自分の課題ですが、(ワイドでの攻防を繰り返していくうちに)自分の弱点を強みに変えることもできます。だから、今日みたいなトライを繰り返していきたい。試合中のミスというのは、少なからずあると思います。“ミスをする時間”とか“ミスの仕方”というのはもちろん考えないといけませんが、チャレンジをしていかないとダメな部分もあると思います」

――タディッチ選手との一対一はハーフウェーラインあたりでしたものね

「そうです。あそこで入れ替わるのと、自陣のゴール前で入れ替わるのとでは違うので。正直、あそこでタディッチ選手を抑えられたらベストでしたが、そこはまだまだ自分の力不足だと思います。

 でもやっぱり楽しいですね。いろいろな選手と一対一をやるのは」

――アヤックスとは1月31日、オランダリーグで再戦します

「タディッチ選手は体が強いからタメを作れるし、なおかつ足元の技術もあるいい選手で、僕にとってやりがいがあります。ボールを持たれるとやっぱり怖いので、ボールを持たせる前から駆け引きが始まってると思います。

 アヤックスの選手だけじゃなく、良い選手に対してはボールを受ける前に、どれだけ駆け引きして相手を潰せるかだと思います。ボールを受ける前に勝負は決まる。今日は改めてそこの重要性を感じました」

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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