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IBM"自慢"のクラウド特許について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

ちょっと前の話ですが、IBMがクラウド関連特許を拡充したとのプレスリリースを出していました。

2015年にIBMの発明者が取得したクラウド関連の新規特許数が400件を超えたことを発表しました。さらに、過去18カ月間にわたって、IBMは1,200件近くのクラウド関連の特許を保持し(た)

だそうです(最後の「保持」は元英文ではsecuredなので「獲得した」の方が適切でしょうね)。

出願件数ではなく権利化した件数である点に注意してください。クラウド分野だけで1年に約800件のペースで特許取得していることになります。さすがにIBMの知財力はスケールが違いますね。

クラウドで使われている仮想化等のインフラ関連技術は、概念的には結構古くからあります(たとえば、コンテナーはメインフレーム的な技術です)ので、特許化は難しいのではと思っていましたが、全然そんなことはなさそうです。

さすがに、1,200件チェックするわけにはいかないので、プレスリリースに例として挙げられているうちで最初の特許の内容を簡単にチェックしてみましょう(IBMの自信作ということになると思います)。特許番号9,015,164、実効出願日は2012年11月29日、発明の名称は、High availability for cloud servers(クラウドサーバの高可用性)です。PCT/US2013/051934として国際出願されてますが、日本への国内以降は確認されていません。

クレーム1は以下のようになっています。

1. A method for providing a high availability system in a cloud computing environment, the method comprising:

creating, by a processor, a virtual machine in response to a user request;

creating a snapshot agent for the virtual machine and registering the snapshot agent with a snapshot manager, wherein the snapshot agent is configured to:

periodically take snapshots of the virtual machine associated with the snapshot agent, wherein the snapshot includes all of the files that constitute the virtual machine including a state and a data of a virtual machine at a specific point in time;

determine a delta image based on a change between a current snapshot and a previous snapshot;

remove previous snapshots in the virtual machine;

transmit the delta image to the snapshot manager; and

monitor a health of the virtual machine and to notify the snapshot manager if the virtual machine experiences abnormal behavior;

receiving a recovery image for the virtual machine from the snapshot manager in response to the virtual machine experiencing abnormal behavior; and

restoring the virtual machine with the recovery image,

wherein the snapshot manager is configured to store the recovery image for the virtual machine and to merge the received delta image with the recovery image to update the recovery image;

wherein the snapshot agent comprises a policy engine configured to control snapshot collection, and

wherein the policy engine is configured to collect system and application performance information for the virtual machine and to responsively determine how frequently snapshots are taken.

一見限定が多いように見えますが、技術的にはそれほど複雑ではありません。基本的アイデアは、本番環境のVMインスタンスごとにバックアップ用のVMインスタンスを用意しておいて、定期的に本番VMインスタンスのスナップショットを取り、前回のスナップショットとの差分(デルタ)のみをバックアップ用のVMインスタンスに送り、バックアップ側ではスナップショットにデルタの適用を行ない、本番環境で障害が発生した時に、バックアップ側のスナップショットで直ちにリカバリするという単純なものです。加えて、システムのパフォーマンスに応じてスナップショットを取るタイミングをポリシーベースで調整するという限定がかかっています。

画像

正直、差分ベースでバックアップするのは技術常識なので、本当に新規性・進歩性を否定できる先行技術はないのかという気がしますが、一応、いくつかの先行技術文献で進歩性を否定した拒絶理由を補正で回避できていますので、うまく広い範囲で権利化できたということなのではないかと思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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