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JASRACを訴えた佐村河内氏の言い分は正当なのか

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
注)写真は2014年3月のものです(写真:Motoo Naka/アフロ)

久しぶりに名前を聞いた佐村河内守氏ですが、著作権使用料700万円の支払いを求めてJASRACを訴えたようです(参照記事)。同氏の主張は正当なのでしょうか?勝訴の可能性はあるのでしょうか?

JASRACのサイトにある著作権信託契約約款を見てみましょう。以下の記載があります。

第3条 委託者は、その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を、本契約の期間中、信託財産として受託者(注:JASRACのこと)に移転し、受託者は、委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作物使用料等を受益者に分配する(以下略)。

第7条1項 委託者は、受託者にその著作権の管理を委託するすべての著作物について、著作権を有し、かつ、他人の著作権を侵害していないことを保証する。

著作権者(著作権を有する者)であれば、JASRACに著作権を信託できることがわかります。著作者(元々の作詞家・作曲家)である必要はありません。「著作権者」と「著作者」の言葉の使い分けにご注意下さい。著作物が作られた時は(多くの場合)著作者=著作権者ですが、著作権が譲渡等で移転すると著作者≠著作権者となります。たとえば、音楽出版者が、著作者である作詞家・作曲家から著作権を譲渡してもらって、それをJASRACに信託することは一般的に行なわれています。

一方、以下の規定もあります。

第20条 受託者は、著作権の管理の委託を受けた著作物について、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、前条の規定にかかわらず、当該著作物(略)に係る著作物使用料等の分配を、必要な範囲及び期間において、保留することができる。(略)

(2) 著作権の存否又は帰属に関して疑義が生じたとき。

(以下略)

要は、佐村河内氏は、著作者である新垣隆氏から著作権を譲渡してもらっている自分は著作権者であって、分配金をもらう資格があると言っており、JASRACは正当に譲渡されたかどうかに疑義があるので分配金を払っていなかったと言っているわけです。

結局、問題は佐村河内氏と新垣氏の間の「ゴーストライター契約」がどのような性質のものであったかに帰着します。新垣氏がいわゆる買取り契約的に著作権を譲渡したというつもりだったのであれば、佐村河内氏の主張は正当と言えます。ただ、契約書なんてものは絶対ないでしょうから、言った言わないの話になる可能性もありそうです。一部報道によればJASRACは使用料を支払う意思があるようですが、金額の算定等でまだもめる要素はあります。おそらく新垣氏にとってははもう忘れたいと思っていた話を蒸し返されること(ひょっとすると証人として出廷すること)になってお気の毒と言うほかはありません。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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