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スギ花粉症の根治がめざせる『舌下免疫療法』。3年以上かかる理由は。

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
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スギ花粉の飛散量が、この10年で最も多いという状況です。

そしてスギ花粉症は、日本人の4割が持つという国民病になりました[1]。

本来はスギ花粉は体にとって敵ではないタンパク質です。

しかしスギ花粉症の方は、免疫が敵だと判断しやすくなっていて、花粉を体外に押し出すようなメカニズムが働き、目が痒くなったり、鼻水が出たり、くしゃみが出たりするのです。

そのため私の外来でも、スギ花粉舌下免疫療法に関して尋ねられることが増えています。

『舌下免疫療法』というのは、スギ花粉のタブレットを舌の下に毎日1分間置くことで、スギ花粉症の症状が軽くなっていく治療方法のことです[2]。スギ花粉症を根本的に治すことが期待できる唯一の治療法で、保険適用にもなっています。

しかし、スギ花粉舌下免疫療法は長期間かかる治療で、一般的には3年以上、できれば5年以上続ける必要があります。

『3年から5年もかかるのですか?』と驚かれる方もいらっしゃいます。そこで今回は、舌下免疫療法がなぜ時間がかかるのかを簡単に解説してみたいと思います。

なぜ、3年から5年もかかるのでしょうか?

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そこで外来では、こんな例えを使って説明することがあります。

例えば、あなたが英語が苦手だとしましょう。

英語の勉強を毎日続け、最終的にTOEIC 600点が取れるようになるまで、一般的には3年から5年かかるでしょう。

そして英語が苦手な方が、英語を勉強し始める時、英語の勉強が嫌だと思うのは当然ですし長く続けることができない方もいらっしゃるでしょう。

舌下免疫療法は、口の中の舌の下に、スギ花粉が含まれたタブレットを置く治療ですが、最初の治療期間に、口の中の症状が出やすいです。痒くなったり、しびれが出たり、そういった症状が出ることがあります。

ただ、その症状も大体最初の1、2ヶ月ぐらいで収まることがほとんどです。

英語の勉強をし始めた時に、英語の勉強が嫌だという症状が出てしまうのと似たようなイメージです。

ただ、毎日継続していくと、英語の勉強が嫌だという症状が起こりにくくなってくるように、免疫療法も症状が軽くなっていくのですね。

では、早めに免疫療法をはじめるといいのでしょうか?

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そうすると、年齢が低い時に、舌下免疫療法を始めると、将来的なアレルギーの心配が少なくなることが想像できますね。

実際に、(スギ花粉のデータではありませんが)アレルゲン免疫療法を行うと、他のアレルギーにもなりにくくなるのではという研究結果もあります[3]。

スギ花粉症は、小学校入学頃には3割ぐらいの方が持っていることがわかっています[4]。

そして、スギ花粉症は少なくとも50歳、60歳ぐらいまで持ち続ける可能性が高い病気です。

英語の勉強に例えると、5歳から6歳ぐらいからずっと英語を使わないといけないような地域に住んでいる場合、早めに英語の勉強を始めた方が得ですよね。

そのため、舌下免疫療法を早めに始めることは良いことだと思います。皆さんも、英語の勉強を小さい頃から早めに始めておいた方が良かったと思う方も多いでしょう。

3年から5年と言っても、毎日1分だけ英語の勉強をすればいいのであれば、結構効果的だと思われるかもしれませんよね。

外来でそんなお話をすると、「早めに始めておいた方がいいかもしれない」と納得される方も多いです。

スギ花粉症は、大人でも比較的満足度が高い治療方法です。

そして、舌下免疫療法は、開始した次のシーズンには有効性が認められる方が増えてきます。

さらに子どもでなくとも、もちろん大人でも効果は期待できます。スギ花粉舌下免疫療法の満足度は、小児より成人のほうが高いかもしれないという研究結果もあります。

スギ花粉症の舌下免疫療法は、スギ花粉の飛散時期には開始できない治療ですが、6月頃から始める方が増えてきます

現在、スギ花粉症で苦しんでいる方は、ぜひ近くのクリニックや病院に相談してみてくださいね。

今回の記事は、音声ラジオVoicyでも簡単に解説しました。

スギ花粉症の根治がめざせる『舌下免疫療法』。3年以上かかる理由は。

参考文献

[1]花粉症環境保健マニュアル2022

[2]スギ花粉症の薬を減らしたり、根治も期待できる『舌下免疫療法』とは?

[3]J Allergy Clin Immunol 2010; 126:969-75.

[4]5歳~9歳の子どもの30%がスギ花粉症に 発症リスクを減らす方法は?

[5]J Allergy Clin Immunol Pract 2019; 7:1287-97.e8.

[6]American Journal of Rhinology & Allergy. 2021 Jan;35(1):9-16.

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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