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【閣議決定】高プロ制度によって実現できることは何か?

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
自由法曹団の幟が見える国会前。(写真:ロイター/アフロ)

 ついに高度プロフェッショナル制度(=高プロ)を含む「働き方改革」関連法案が閣議決定され、審議入り目前となってきました。

政府、働き方改革関連法案を閣議決定 成立は不透明

 ここに来て報道も活発化してきていますが、明らかに事実と異なる報道もあり、捨て置けないので、少し解説することにします。

高プロは成果で賃金が決まる制度か?

 少なくなったとは言え、いまだに次のような報道がされています。

新制度は、一定の職種について、賃金と労働時間を切り離し、成果で評価するものだ。

出典:読売新聞2018年4月7日社説

高度プロフェッショナル制度 高収入の専門職を「週40時間」などの労働時間規制の対象から外し、自由な時間に働くことを認める代わりに、残業代や深夜・休日手当を支給しない仕組み。労働の価値を時間で計りにくい仕事について、成果に応じ報酬を支払う

出典:時事通信(高度プロフェッショナル制度の解説記事)

 しかし、日本語を理解できる人が法案を読めば分かると思いますが、法案は賃金制度や評価制度には一切触れていません

 法案を逆さに読んでも、透かして見ても、火であぶってみても、そんなことは書いてありません。

 したがって、「働いた時間ではなく成果で評価する制度」「成果に応じ報酬を支払う」「労働時間でなく成果で賃金を払う」などと報道している新聞・テレビは恥ずかしい報道をしているということを自覚すべきでしょう。

高プロで労働時間が短くなるか?

 さすがに最近の報道で、高プロで労働時間が短くなるというのは見当たらなくなりましたが、独自の見解を持つ経済学者や個人ブログレベルでは散見されます。

 結論から言うと、高プロで労働時間が短くなると言う論理必然性はありません

 高プロは、労働基準法にある労働時間の規制が及ばない働き方を肯定する制度ですので、高プロだから労働時間が短くなる、というものではありません。

 むしろ、労働時間が管理されない労働者の労働時間が長くなるという調査もあることからすれば、高プロの対象労働者の労働時間は長くなるものと考えられます。

 また、後に触れますが、高プロは残業代は出ませんので、使用者は安心して労働者を長時間働かせることができるので、やはり労働時間が長くなる方向へ向かうと思われます。

高プロで労働生産性が高まるか?

 高まらない、というか、低くなると思います。

 労働生産性を「成果÷労働時間」で算出するものとすれば、労働時間部分が長くなれば、それを上回る成果を上げないと生産性は高まりません。

 高プロで労働時間が短くなれば同じ成果でも生産性が高まるのでしょうが、そうならないことは先ほど指摘したとおりです。

 そうなると、成果をよほど上げない限り、生産性は低くなるといっていいでしょう。

高プロで柔軟な働き方となるか?

 高プロだと柔軟な働き方が可能になるでしょうか?

 柔軟な働き方という言葉の意味にもよりますが、少なくとも、労働時間が短くなる方向での「柔軟性」と高プロとは無関係です。

 というのも、現在の法律でも、労働者が成果を上げた場合に定時より早く帰っても賃金を減らさなかったり、成果に応じて賃金を高くすることは、何も制限されていないのです。

 逆に、労働時間が長くなると残業代を払わなければならないのが現在の制度ですが、これは払わなくてもよくなりますので、企業側にとって柔軟に労働者を働かせることが可能になります。

 

 したがって、労働者が柔軟な働き方が可能になる!というのはウソで、企業が柔軟に(残業代を気にせず)労働者を働かせることができる!というのが真実となります。

高プロで残業代は払われなくなるか?

 なります。

 これが、高プロの導入で初めてできることだからです。

 ここまでに見た、労働時間が短くなる、成果で賃金が決まる、生産性が高まる、というのは、高プロという制度との関連性はありませんでしたが、残業代が払われなくなるというのは、高プロでこそ、できることになります。

 通常の労働者は、1日8時間または週40時間を超えて働くと割増賃金の支払が必要となります。

 また、休日労働や深夜労働についても割増賃金の支払いが必要となります。

 ところが、高プロはこれが不要になるのです。

 もっとも、高プロ導入推進側で、このことを宣伝文句として使っているのを見たことありませんが…。

労働時間規制の適用がないというところが最大の特徴

 高プロを導入したい人たちは、高プロ制度によって

労働時間が短くなる

労働生産性が上がる

柔軟な働き方が可能になる

成果に応じた賃金がもらえる

などと言うのですが、いずれも高プロ制度を導入とその期待する結果との間に論理必然の関係はありません。

 しかし、

残業代が払われなくなる

だけは、論理必然の関係があります。

 あと、ここでは書きませんでしたが、「休憩を与えなくてもOK」というのもあります。

 いずれにしても、どんな枕詞をつけようと、どんな歪んだ解説をしようとも、高プロの最大の特徴は、労働基準法の時間規制の条文を適用しないというところにあります。

 来週には審議日程をめぐって与党・政府と野党の間で綱引きが行われると思います。

 今後も注目です!

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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