Yahoo!ニュース

ラ・リーガの行方はどうなる?「2強時代」の崩壊とアトレティコの躍進。

森田泰史スポーツライター
レアル・マドリー対アトレティコの一戦から(写真:ロイター/アフロ)

2020-21シーズンのリーガエスパニョーラは、例年にない盛り上がりを見せている。

 リーガの最終節は現地時間22日に行われる予定だ。だが、現時点で、まだ優勝者は決定していない。首位アトレティコ・マドリー(勝ち点83)と2位レアル・マドリー(勝ち点81)が、タイトル獲得の可能性を信じてラストマッチに臨む。

オサスナに勝利したアトレティコ
オサスナに勝利したアトレティコ写真:ロイター/アフロ

「我々は自分たちの試合に集中していた。前半は非常に良かった。敵陣でプレーできていたし、多くの決定機を作った。だがオサスナが自陣に引くようになり、我々には決定力が欠けていた。それから、後半に投入された選手が新鮮な空気を入れてくれ、攻めに出た時に決定力を発揮して試合をクローズしてくれた。最後はシーズンを通じての仕事の成果だった」とは先のオサスナ戦後のディエゴ・シメオネ監督の弁である。

「ネガティブな考えは、私にはない。次の週に向けて、トレーニングをして、フレッシュな気持ちで挑みたい。(最終節の相手である)バジャドリーも勝利を必要としている。最高の準備をしたい」

■タイトルの行方を左右した瞬間

 今季のリーガの行方を左右したのは、「12分」と「15秒」だった。わずか735秒の時間だ。

 まずは「15秒」の方だ。リーガ第35節、レアル・マドリーは本拠地アルフレド・ディ・ステファノにセビージャを迎え、2-2で引き分けた。

 だが議論を呼んだのは1-1で迎えた75分のシーンだ。セビージャのCKを跳ね返したマドリーが、カウンターを仕掛ける。独走したカリム・ベンゼマがGKヤシン・ブヌに倒され、主将の笛が鳴った。マドリーにPKが与えられる...誰もが、そう思った。

 しかしながらVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入で状況が一変。セビージャのCKの場面でエデル・ミリトンのハンドがあったとされ、一転してセビージャ側にPKが与えられた。天国から地獄にーー。この15秒が、最終的な結果に大きな影響を及ぼすのは間違いないだろう。

セビージャ戦で主審に説明を求めたジダン監督
セビージャ戦で主審に説明を求めたジダン監督写真:ロイター/アフロ

 そして、「12分」だ。

 リーガ第37節、アトレティコ・マドリー対オサスナの一戦で、オサスナが76分にアンテ・ブディミルの得点で先制。同時刻に行われた試合でマドリーがアスレティック・ビルバオに1-0で勝っていたため、アトレティコとしては絶対に勝利が必要だった。

 給水タイムを挟み、シメオネ監督から檄が飛んだ。「気持ちを強く、メンタルを強く持て。落ち着くんだ。必ずゴールは届けられる」。すると、81分にレナン・ロディが同点弾。さらに、88分にルイス・スアレスが逆転ゴールを決め、土壇場で勝ち点3を奪取した。

直近の試合で決勝点を記録したスアレス
直近の試合で決勝点を記録したスアレス写真:ロイター/アフロ

「これほどの苦しみに僕たちは値しなかったはずだ。(オサスナ戦の)前半は今シーズンの中で最高のパフォーマンスのひとつだった。だけど、僕たちは決定機で外し続けた。第一に、僕自身が、だ。ラ・リーガで優勝したければ、苦しみを知らなければいけない。そういう試合だった」とはルイス・スアレスの言葉だ。

「誰もが、苦しむというアトレティコのスローガンを僕に語っていた。でも、これほどまでとは思っていなかったよ。このチームの努力や犠牲、目標を達成するための多くの人たちが払った労力を考えれば...いまはこの瞬間を楽しむべきだ。それから、来週に向けて準備をしよう」

■シメオネ・アトレティコの過去と現在

 アトレティコが最後にリーガで優勝したのは、2013-14シーズンだ。以降、スペイン王者の座はマドリーとバルセロナが分け合ってきた。

 7年前のアトレティコは堅守速攻を武器に戦っていた。【4-4-2】の3ラインで全体をコンパクトに保ち、カウンターとセットプレーで得点を奪う。シメオネ監督は1-0(ウノセロ)の美学を貫いていた。

 だが今季のアトレティコは違う。シメオネ監督は3バックの採用を決め、【3-1-4-2】を基本布陣にした。そのなかでマリオ・エルモソ、トーマス・レマル、ヤニック・カラスコ、マルコス・ジョレンテ、スアレスが躍動。彼らは”終わった選手”だと揶揄されていた。

 無論、まだリーガは終わっていない。最終節で、逆転でマドリーが優勝する可能性はある。しかしながら、マドリーとバルセロナのワン・ツーフィニッシュはすでになくなった。そして、バルセロナのロナルド・クーマン監督、マドリーのジネディーヌ・ジダン監督の進退が騒がれている一方で、アトレティコはシメオネ監督の続投が決定的である。2強を揺るがしたのは間違いなくアトレティコであり、シメオネだ。試合から試合へーー。その信念が具現化した時、アトレティコに栄光が訪れる。

選手のようにゴールを喜ぶシメオネ監督
選手のようにゴールを喜ぶシメオネ監督写真:ロイター/アフロ

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事