“ビリギャル”作者・坪田信貴氏が語る「子どもにかけてはいけない言葉」とは
著書「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話」が大ヒットし、続々と話題の書籍を手がける学習塾「坪田塾」塾長の坪田信貴さん。新著「『人に迷惑をかけるな』と言ってはいけない」も話題になっていますが、子どもたちへの指導のみならず、企業研修からも多数声がかかり、吉本興業ホールディングスの社外取締役を務めるなど、さらに活動の幅を広げています。その中で、今注目しているのが芸人さんの持つ新たな可能性だと言います。
「やればできる」はウソ
これまで本はたくさん書いてきたんですけど、子どもを育てる上で、親御さんが具体的に何をすればいいのか。それをまとめたのが今回の本なんです。
親御さんの声のかけ方で子どもたちの認知が変わる。良かれと思って言いがちな言葉なんだけど、実は子どもたちに負担をかけたり、認知をゆがめたりしかねない。そういった言葉を紹介して、その言い換え方とともに説明しています。
よく親御さんは「やればできる」とおっしゃると思うんですけど、この言葉は本当に良くなくて。なぜ良くないか。簡単に言うと、ウソだからなんです(笑)。
人間には無限の可能性があって、やればできる。よく聞く言葉ですけど、例えば、僕は身長165センチなんですけど、僕が今からものすごく頑張って、バスケットボール選手としてNBAに行く。これは無理です。世界中からトップコーチを集めてスペシャルチームを組んだとしても、そりゃNBA選手になれないです。
ただ、僕がNBAを目指して3年間ものすごく頑張ったら、今よりもバスケはメチャクチャうまくなると思うんです。だから、正しくは「やればできる」ではなく「やればのびる」なんです。“成功”ではなく“成長”を目指した方がいい。
あと、本のタイトルにもなっている「人に迷惑をかけるな」という言葉も、子どもに言いがちですよね。
でもね、人に迷惑をかけないということは無理なんです。生きてる以上、ゴミは出すし、誰かの負担になるし、どこかで迷惑はかかるんです。そして「迷惑をかけるな」ということは、概念としては「失敗しちゃだめよ」とイコールになるんです。これは人を消極的にさせる言葉でもあります。
なので、正しくは「迷惑はお互い様。その分、困っている人を助けなさい」ということだと思うんです。失敗をするなというのは、ある意味、動きや可能性を封じる呪いの言葉にもなるので。
ちょっとした言葉や考え方の違いだけで、結果が大きく変わってくる。これは子どもたちのことだけでなく、あらゆる分野に生かされることだとも思っています。
芸人の価値の再発見
今、僕は吉本興業の社外取締役という仕事もさせてもらっています。月1回、会議に出るくらいの感じかな…と思っていたら、実際はほぼフルで働いてます(笑)。
主にやっているのは吉本のDX化。デジタルトランスフォーメーションで、分かりやすいところで具体的に言うと「キングコング」の梶原さんがカジサックとしてYouTubeの世界に入っていく時のお手伝いをしたりという感じですね。梶原さん以降、芸人さんが次々とYouTubeを始めていますけど、その流れの仲介役というか。
あと、BS放送で吉本興業が放送事業をやるという話も着々と進めていますが、これもある意味、革命的なことだと思っています。これまで吉本興業は一つの芸能事務所としてテレビ局から仕事をもらっていました。それが、吉本興業自体が放送局になる。
新しいことなんですけど、となると既存のテレビ局のライバルになるとも言えるんです。これって、結構なリスクでもあるんですよ。同業他社になるわけですから。
じゃ、ライバルにならず放送局をやるにはどうしたらいいのか。番組にCMを入れずにやるという形を考えているんです。そうすることによって、広告出稿主のお金を既存のテレビ局と分け合うことにならない。
ただ、そうなると当然「どうやって儲けるの?」となりますよね。なので“一番組一起業”という考えで、番組自体で儲けるシステムを作ろうとしています。
そこで重要なのが吉本興業が商品として作り続けてきた芸人さんたちの力なんです。芸人さんって物事を分かりやすく話したり、普通のことを面白く話したりすることに秀でている。それを存分に生かしてもらう。
例えば、石川県の小さな町で美味しいお弁当屋さんをやっているおばあちゃんがいたとします。そのお弁当を芸人さんが紹介して、良いところを分かりやすくフィーチャーする。そうやって魅力を特化させて、それをeコマースと組み合わせて発信していく。そういう形で、番組自体でお金儲けをしていく。そんなイメージなんです。
あと、企業の社長さんに芸人さんがインタビューして、その動画を会社のPRなどに使ってもらうという番組企画も進めています。
芸人さんは会話やその場の空気を作る専門家でもあるので、シンプルに話が盛り上がるんですよ。もちろん、社長さんのパーソナリティーにもよりますけど、社長さんは事業のプロではあるけれども、しゃべりのプロではない。なので、理念や積み重ねはあったとしても、それをうまく、そして、面白く伝えられるかどうかは別なんです。
よく社長さんが自費出版した自伝本なんかが関係者に配られて、みんなが「ん~…」と困ってしまうなんてこともありますけど(笑)、芸人さんのインタビューだと無理してみるんじゃなくて、映像としても面白く見られるんです。社長さんの人となりも出やすいし、そのあたりの“押し引き”も芸人さんはプロなので、ギリギリのラインまで攻めて、結局、社長さんが得をするところを見極めることができます。
これも芸人さんが特化した能力の有効活用ですし、そうやって、吉本興業のファンになっていただける企業を増やすというのも、大きな意味があると思っています。そして、芸人さんにとっても、自分たちの能力を生かして世の中に発信し、収入にもなる。
社外の取締役とは思えないくらい思いっきり吉本の会社に通ってますから(笑)、いろいろ考えています。「やればできる」はウソと言いながらナニですけど(笑)、ここの可能性は本当に無限に広がっていくだろうなと思っています。
(撮影・中西正男)
■坪田信貴
坪田塾塾長。心理学を駆使した学習法で、これまで1300人以上の子どもを個人指導してきた。累計120万部を突破し、映画化もされた「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(通称・ビリギャル)を執筆するなど作家としても「バクノビ 子どもの底力を圧倒的に引き出す339の言葉」「才能の正体」など著書多数。吉本興業ホールディングスの社外取締役など多岐にわたり活動。新著「『人に迷惑をかけるな』と言ってはいけない」を7月15日に上梓した。