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コロナ禍で激減!医師への信頼度 - 皮膚科受診にも影響か

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Grokにて筆者作成

【医師への信頼度、4年で大幅低下】

新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの生活に多大な影響を与えました。その中でも特に注目すべきは、医師や病院に対する信頼度の変化です。

アメリカの研究チームが行った大規模調査によると、医師や病院を「とても信頼している」と答えた人の割合が、2020年4月の71.5%から2024年1月には40.1%まで激減したことが分かりました。この結果は、医療界に衝撃を与えています。

この調査は、18歳以上のアメリカ人を対象に、2020年4月から2024年1月までの約4年間にわたって実施されました。総回答数は58万件以上に及び、44万人以上の方々が参加しています。調査対象者の平均年齢は43.3歳で、65.0%が女性でした。

調査では、人種や民族、年齢、性別などの割り当てを設けることで、アメリカの人口構成を反映するよう工夫されています。また、信頼性の低い回答や自動化された回答を除外するため、注意チェックや自由回答の確認も行われました。

NapkinAIにて筆者作成
NapkinAIにて筆者作成

【信頼度低下の要因と影響】

では、なぜこれほどまでに医療への信頼が失われてしまったのでしょうか。

調査結果によると、信頼度の低下は特定の層で顕著でした。25〜64歳の年齢層、女性、学歴が低い人、低所得者、黒人、そして地方在住者で、より大きな信頼低下が見られました。

興味深いことに、この傾向は政治的な立場とは関係なく観察されました。つまり、医療への不信は、特定の政治信念によるものではなく、より広範な社会現象であることが示唆されています。

信頼度の低下は、単なる意識の変化にとどまらず、具体的な健康行動にも影響を及ぼしています。調査では、医師や病院への信頼度が低い人ほど、新型コロナウイルスやインフルエンザのワクチン接種率が低いことが明らかになりました。

具体的には、医師や病院を「とても信頼している」人は、「全く信頼していない」人と比べて、新型コロナウイルスのワクチンを接種する確率が4.94倍、インフルエンザワクチンを接種する確率が5.09倍高いことが分かりました。また、新型コロナウイルスのブースター接種についても、「とても信頼している」人は3.62倍接種する確率が高かったのです。

【皮膚科診療への影響と今後の課題】

この医療不信の広がりは、皮膚科診療にも無関係ではありません。皮膚疾患は目に見える形で現れるため、早期発見・早期治療が重要です。しかし、医療への信頼が低下すると、症状があっても受診を躊躇する患者さんが増える可能性があります。 皮膚科医として、この調査結果を深刻に受け止めています。アトピー性皮膚炎や乾癬などの慢性疾患の管理には、医師と患者さんの信頼関係が不可欠です。信頼関係が損なわれると、治療の継続性や効果にも悪影響を及ぼす恐れがあります。

今回の調査では、医師や病院を信頼しない理由についても分析が行われました。主な理由として以下の4つが挙げられています:

1. 金銭的な動機が患者ケアよりも優先されている(35.0%)

2. ケアの質が低い、または過失がある(27.5%)

3. 外部の影響や特定の意図が存在する(13.5%)

4. 差別や偏見がある(4.5%)

NapkinAiにて筆者作成
NapkinAiにて筆者作成

これらの理由は、皮膚科診療にも当てはまる可能性があります。例えば、高価な新薬の処方や不必要な検査の実施などが、金銭的動機と誤解される可能性があります。また、皮膚疾患の治療には時間がかかることも多く、即効性のある治療法がないことで、ケアの質が低いと感じられる可能性もあります。

今後は、医療者側も患者さんとの信頼関係構築により一層努める必要があるでしょう。具体的には、以下のような取り組みが考えられます:

1. 分かりやすい説明:医学用語を避け、患者さんの理解度に合わせた説明を心がける。皮膚疾患の場合、視覚的な資料を用いて病態や治療法を説明することが効果的です。

2. 患者さんの声に耳を傾ける:診察時間を十分に確保し、患者さんの不安や疑問に丁寧に対応する。皮膚疾患は外見にも影響するため、患者さんの心理的な負担にも配慮が必要です。

3. 情報発信の強化:SNSなどを活用し、正確な医療情報を積極的に発信する。特に、よくある皮膚トラブルやその対処法などの情報は、患者さんの不安軽減に役立ちます。

4. 透明性の確保:診療方針の決定プロセスを患者さんと共有し、信頼感を醸成する。治療法の選択肢や、それぞれのメリット・デメリットを明確に説明することが重要です。

5. 継続的なフォローアップ:定期的な経過観察を通じて、長期的な信頼関係を築く。慢性皮膚疾患の場合、長期的な管理が必要なため、特に重要です。

6. 医療費の透明性:治療にかかる費用を事前に明確に説明し、患者さんの理解を得る。特に自費診療の場合は、なぜその治療が必要なのかを丁寧に説明することが大切です。

7. 最新の医学知識の習得:常に最新の医学情報をアップデートし、エビデンスに基づいた治療を提供する。皮膚科領域では新しい治療法が次々と登場しているため、継続的な学習が欠かせません。

8. 多職種連携:必要に応じて他の医療職や専門家と連携し、総合的な医療を提供する。例えば、アトピー性皮膚炎の患者さんには、アレルギー専門医や栄養士との連携が有効な場合があります。

NapkinAIにて筆者作成
NapkinAIにて筆者作成

医療への信頼回復は一朝一夕にはいきませんが、患者さんとの対話を重ね、互いに理解を深めていくことが重要です。皮膚科医療の現場からも、この課題に真摯に取り組んでいく必要があるでしょう。

今回の調査結果は、アメリカのデータですが、日本の医療現場にも示唆に富む内容です。日本でも、インターネットの普及により医療情報へのアクセスが容易になり、患者さんの医療に対する見方も変化しています。また、新型コロナウイルスへの対応を巡っては、日本でも医療への信頼が揺らぐ場面がありました。

私たち医療者は、この調査結果を重く受け止め、患者さんとの信頼関係をより強固なものにしていく努力を続けなければなりません。そうすることで、皮膚疾患を含むさまざまな健康問題に対して、より効果的な予防や治療が可能になると考えています。

医療への信頼は、健康な社会の基盤です。皮膚科医療においても、患者さん一人ひとりに寄り添い、丁寧な診療を心がけていくことが、信頼回復への第一歩となるでしょう。

参考文献:

Perlis RH, Ognyanova K, Uslu A, et al. Trust in Physicians and Hospitals During the COVID-19 Pandemic in a 50-State Survey of US Adults. JAMA Netw Open. 2024;7(7):e2424984. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.24984

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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