もうすぐドラフト・その3……成田翔
「石川2世? いや、全然タイプは違いますよ」
この夏の甲子園、龍谷との初戦前。石川雅規(現ヤクルト)の在籍時、バッテリーを組んでいた秋田商・太田直監督は、成田翔と比較してそう語った。同じ秋田商の、小柄な左腕。成田本人も「あの制球力を参考にしたい」と、石川にあこがれて進学したとくれば、確かに石川2世といいたくなる。だが、
「石川はしなやかな投球で、ゲームをつくるタイプ。だけど成田は力投派で、押していく投球が身上です」(太田監督)。
そして、こう付け加える。体の力、負けず嫌いなハートの強さ、現時点では成田のほうが上でしょう。私は監督7年目ですが、見てきたなかでは間違いなくナンバーワンです……。
監督生活で間違いなくNo.1
1年の夏から甲子園の土を踏んだ。チームは富山第一に敗れたものの、成田は2回を3三振無失点で切り抜けている。このときは最速が130キロ台だったが、2年になると140キロに迫り、昨秋は自己最多の19三振をマークすることもあった。ただ、大事な試合で結果が出ない。太田監督はいう。
「むろん、いいものは持っているんです。でも、0点で抑える投手じゃない。だから、最少失点で抑えるピッチャーを目ざせといい続けてきた」
成田の目の色が変わったのは、昨秋の県大会で敗退し、センバツ出場が絶望になってからかもしれない。県大会後に右手首を骨折したこともあり、完治するまでの2カ月は、短距離と長距離をまじえた走り込みを繰り返すしかない。だがもともと、練習用の帽子のひさしに「負けん気」と書くほどの気の強さだ。骨折が治っても、徹底的に下半身をいじめ、歯を食いしばって鍛えた。
それも、「チームを勝利に導けるピッチャーになりたい。エースである以上、勝ちにこだわりたい」(成田)一心だ。証言するのは、工藤慶捕手。
「このオフは、走りまくっていました。自主練ではポーポー(ポール間)、それが終わってもスクワット、腹筋、ウエイト……。いまは、ユニフォームを着ていてもムキムキがわかるくらいで、風呂で裸になったら並びたくないですよ(笑)。そのおかげで、1年のころは低めの真っ直ぐが垂れていましたが、いまはぐーんと伸びてきます」
カケルの能力はすごいよ
そういえば、こんな話も聞いた。秋田市には、日本リーグ女子1部に属するバドミントンの強豪・北都銀行がある。秋田商に限らず秋田の高校野球チームは、雪のある冬の間、ときに北都銀行の体育館での練習に参加する。初速の速いバドミントンのラリーは、動態視力を鍛えてくれるし、まず軸足に体重を乗せ、体重移動しながら肩、ヒジ、手首、指先と関節を使うスマッシュの動作は、投球フォームに通じるものがあるからだ。
成田を含めこれまで、多くのエース級投手を見てきた北都銀行・原田利雄監督によると、
「カケル? あの能力はすごいよ。さすがにラリーをするとウチの選手には勝てないけど、ムチのように体を使うスマッシュの破壊力はずば抜けていた」
169センチの体は、さながら全身バネのようだというのだ。こうした鍛錬が「生きていると思う」という成田は、一冬越えると最速が144キロまでアップし、武器のスライダーの切れも増した。かくして、この夏。秋田の準々決勝・西目戦では9回16K、準決勝・秋田工戦は9回14Kの奪三振ショーを演じ、秋田南との決勝でも9K無四球完封勝利。5試合39回を投げて55奪三振、8失点というエースが、チームを甲子園に導いたわけだ。
小柄な左腕は、甲子園でも相手をねじ伏せた。龍谷との初戦は142キロのストレートと、縦横のスライダーを駆使して3回まで7三振。結局16三振3安打自責0の好投を演じ、機動破壊が持ち味の健大高崎戦も、延長10回を3失点だ。この試合をモノにした秋田商は、同校初の夏2勝と、80年ぶりの8強進出を遂げたのだ。準々決勝では仙台育英に敗れたが、「勝ちにこだわった」成田の気概が好結果をもたらしたといえる。
甲子園後には、秋田県からは初めてU18の代表に選出されると、そこでもメキシコ、キューバに合計5イニングを投げて8三振無失点。実力の確かさを証明している。
「自分のピッチングが通用することがわかって、自信になりました」
と語る成田。そうそう、付け加えておく。
「最近は(成田の球威が)怖いので、ブルペンで受けていないんですよ(笑)」
石川とともに、青山学院大で野球を続けた太田監督の言葉である。