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ついに政府も調査に乗り出した、ハリウッドの男女雇用平等問題。女性の監督が増えないのはなぜ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
少数派の女性監督のひとりジョディ・フォスター(写真:ロイター/アフロ)

オスカーの演技部門候補者が2年連続で全員白人だったことをきっかけに、今年に入ってから、ハリウッドの白人優先主義が大きく批判されてきた。その影にやや隠れてしまった感はあるが、ハリウッドにおける男性優先主義も、最近、あらためて問題視されている事柄だ。昨年5月にアメリカ自由人権協会(ACLU)が働きかけたこともあり、アメリカ政府の雇用機会均等委員会(EEOC)は、映画とテレビ業界の雇用状況について調査を開始している。委員会の担当者は、これまでに約50人の女性監督と話し、どうやって仕事を得たのか、お金を払ってくれたのは誰だったのかなどを質問したという。

映画業界の女性の雇用状況を調査する「セルロイド・シーリング」の報告書によると、2015年に公開された興行成績トップ250に入る映画のうち、女性が監督した映画は、わずか9%。1998年と同じ割合で、つまり17年前から進化していないことになる。女性の脚本家は11%、エクゼクティブ・プロデューサーは20%、エディターは22%、シネマトグラファーは6%だった。南カリフォルニア大学が行った別の調査には、2013年と2014年、トップ100の映画のうち、女性が監督するものは、1.9%だったとある。先月、Thewrap.comは、今後の公開作を調べ、パラマウントとフォックス(アートハウス部門のフォックス・サーチライトは含まない)は、2018年までに1本も女性の監督作がないと報道した。

ハリウッドも、この問題に完全に背を向けているわけではない。昨年10月には、ウーメン・イン・フィルムという団体が主催する2日間の会議が行われ、スタジオの大物、プロデューサー、脚本家、タレントエージェントなど44人を集めて、この問題についての話し合いがなされた。参加者のひとりで有力プロデューサーのマイク・デ・ルカ(『ソーシャル・ネットワーク』『キャプテン・フィリップス』)は、今後、自分が製作する映画の監督を決める上で、エージェントらに、男女比半々で候補者を提案してほしいと頼むことにすると、決意を語っている。

今年のオスカーをボイコットしたスパイク・リーも指摘したように、問題の根底にあるのは、雇う側、つまりスタジオのトップにいる人たちが、圧倒的に白人の男性だという事実。自分たちがよく知っている世界を心地よく思うトップたちは、自分たちに似た人を雇う傾向にあるのだ。そうやって生まれる作品にも、当然、彼らの価値観は反映される。ハリウッド映画の主人公の多くは男性で、女性はその恋人だったり、妻だったりすることが多いという不満は、以前からハリウッド女優たちの間がつぶやいてきた。しかも、その“恋人”役も、主役の男性よりずっと若くなければ獲得できない。たとえば、最近の「007 スペクター」でも、ダニエル・クレイグ(48)の恋のお相手を務めたのは、30歳のレア・セドゥだった。

調査の結果、明らかに差別があるという結論にEEOCが達すれば、スタジオやエージェンシーに対して訴訟を起こすという行動に出ることもできる。しかし、映画やテレビの制作には、いろいろな会社のいろいろな人々が多数関わることから、複雑で、実際には難しいだろうというのが、現実的な見方だ。ただし、いまだにこの問題を本気でとらえていない人々に、ことの重要性を認識させるきっかけにはなるだろう。

来月日本公開の映画「マネー・モンスター」のほか、最近はテレビドラマも監督しているジョディ・フォスターは、女性たちにとって、監督業は、最後の砦なのかもしれないと語った。子役でキャリアを始めたフォスターは、当時、現場にいる女性といえば、メイクアップ・アーティストがせいぜいだったと振り返る。今では少しずつ女性が増えたが、「監督に関しては、そんなに変わっていない。女性の監督はリスクが高いと思われないようになることを、私は願っているわ。実際のところ、誰を連れてきたって、リスクは変わらないのだから」とフォスター。その単純な事実に気づいてもらうのに、あまりにも時間がかかっている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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