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間もなくゴング! マイク・タイソンvs.ロイ・ジョーンズ・ジュニア

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
タイソン、ホリフィールド、ルイスのジェネレーションが終わり、ヘビー級は冬となった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ついにマイク・タイソン(54)とロイ・ジョーンズ・ジュニア(51)のエキシビションマッチが、数時間後に迫った。

 前日計量では、ジョーンズが210パウンド(95.25kg)、タイソンが220.4パウンド(99.97kg)であった。両者ともに、トレーニングを積んだようだが、当然のことながら現役時代とは比較にならない中年男の体である。

 ジョーンズの腹はダブついている。タイソンはジョーンズよりは締まっているが、「驚くほど鍛えられた」という程ではない。54歳なりに努力した、という表現が適切か。

TRILLER社が作った試合のポスター
TRILLER社が作った試合のポスター

 1988年ソウル五輪の決勝で、圧倒的優位に試合を運んでいたにもかかわらず、ホームタウンディシジョンに泣き、銀メダルに終わったロイ・ジョーンズ・ジュニア。

 本来なら、彼は間違いなく金メダルを手にしていた。実際、コンピューターがはじき出したクリーンヒット数もジョーンズの78に対し、相手の韓国選手は32に過ぎなかった。

 プロ転向後は、ミドル、スーパーミドル、ライトヘビー、そしてヘビーと4階級を制し、長くパウンド・フォー・パウンド最強と謳われた。

 特に、2003年3月にWBAヘビー級王者、ジョン・ルイーズからワンサイドの判定勝ちでタイトルを奪ったファイトは圧巻だった。15kgも重い相手に対し、スピードとテクニックで終始リングを支配した。

撮影:著者
撮影:著者

 同試合はラスベガスで最も大きなハコ、Thomas & Mac Centerで行われた。ファイト中の最終ラウンドに、ジョーンズが飛び上がってガッツポーズした姿が忘れられない。

 興行師たちはこの数週間、両者のミット打ちやサンドバッグ打ちの映像を流しては「全盛期を彷彿とさせる!」などと煽っているが、彼らのチャンピオン時代を取材したのか? と言いたい。

 50歳を超えたファイターに20代の動きが出来る筈もない。そんなレベルの動きではない。

 それでも、2人のLEGENDSがリングに上がるということで、ファンは胸を熱くしている。また、当の2人も楽しそうに汗を流して来た。

 今回のエキシビションマッチに向け、タイソンは言う。

 「人々が信じているように、戦えるからこそ、俺はリングに上がる。54歳になったが、人生が終わった訳じゃない。何かをしなければいけない。人々が感じる様に、俺も人生は美しいものだと思っているんだ」

 とはいえ、タイソンのラストマッチは2005年6月のことである。無名選手に一方的に打たれ、6ラウンド終了時に試合を棄権した。その姿は「落魄」としか表現できなかった。

 タイソンと聞くと、あの痛々しいフィナーレよりもIRON(鉄の男)と呼ばれた頃の印象の方が何倍も強い。そこが危険である。40歳のシュガー・レイ・レナードがヘクター・カマチョに挑んだ試合も、かつてタイソンと統一ヘビー級王座を懸けて戦ったジェームス・"ボーンクラッシャー"・スミスが46歳にしてカムバックしたファイトも、私は会場の記者席から目にしている。

 彼らは深いダメージを負い、セコンドに支えられながらリングを降りて行った。全盛期とは比較にもならない、ただの老兵であった。

 確かにPPVは売れるであろう。しかし、健康面を考えた場合、やるべきイベントなのか? という疑問が拭えない。

TRILLER社が制作したポスター
TRILLER社が制作したポスター

 2000年代前半、私は何度も「マイク・タイソン、イベンダー・ホリフィールド、レノックス・ルイスの世代がリングを去る頃、ヘビー級は冬の時代が訪れる」と書いた。その通り、最重量級らしい魅力的なファイターの登場が待たれるまま20年近くが過ぎた。今回のエキシビションも、そのツケが回って来たからこそのイベントだと感じる。

 両者が怪我無くリングを降りることを、ただ祈りたい。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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