東京湾ではレアな無人島・猿島で現代アート展。しかも日没後、暗闇の中で開催。
横須賀の港から、船に揺られて約10分──意外にも近い無人島、それが猿島だ。
猿島は、東京湾ではレアな無人島である。周囲は約1.6km、小一時間もあればぐるりと島を巡れる。ハイキングやバーベキューを楽しむ人々で賑わい、釣り人も絶えない島だ。
そんな猿島で、目下、現代アート展が開催されている。しかも、日没後に。
いったい、どんな展覧会なのか? そこでさっそく、「Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島 2021」に足を運んでみた。
要塞や銃弾の跡など数々の遺構が残る、東京湾の防衛拠点
船を降り、うっそうと木が生い茂る山道を進んでいくと、まずお目見えするのは、中﨑透の作品である。ネオン管で人や船などを造形したカラフルな立体作品が道なりに点在し、暗闇に鮮やかな光を放つ。
だが、作品と同じくらい、設置された空間が存在感を発揮している。というのも、岩を掘ってレンガで固めた要塞に展示されているからだ。
この猿島には、数々の遺構が残されている。江戸時代末期、丘の頂に大砲を設置し、日本で初めての台場が猿島に築かれた。明治以降も、東京湾への侵入を見張る旧日本軍の防衛拠点の役割を猿島は担ってきた(米軍による銃弾の跡とかも残っているらしいけど暗くてまったく見えなんだ)。
つまり、皮切りの中﨑透の作品は、この島の歴史と特異性をも伝える。
視覚は閉ざされたも同然、おのずと聴覚が敏感に
その次は、毛利悠子の作品。トンネルの両端にスピーカーが設置され、双方から「I can't hear you」というつぶやき声が聞こえる。そして前に進むにつれ、音の位相が刻一刻と変化していく音響作品だ。
ただでさえ暗いこの島だが、当たり前だがトンネルの中はいっそう暗い。視覚は閉ざされたも同然で、おのずと聴覚が敏感になる。
もう一度、この展覧会のタイトルを繰り返す。「感覚の島」。つまり、毛利の作品は、タイトルに込められた本展のコンセプトの理解を促す。
なお、この現代アート展は13人/組のアーティストらが参加。中には美術畑以外の参加者もいて、選書家の幅允孝も出品。海辺に椅子やテーブルを置き、波の音を聞きながら本が読める環境をつくり出した。幅がどんな本を選んだのか、それは島に足を運んでのお楽しみ!
スリリングなアウトドア感覚で現代アートに接する
そして最終地点では、Natura Machina(筧康明/Mikhail MANSION/WU Kuan-Ju)による白いオブジェがビーチに音を響かせる。また、ライゾマティクスの設立メンバーで本展プロデューサーの齋藤精一(Panoramatiks)による強い光が海へと向かう。いずれの作品も、暗闇に慣れた目には強い刺激となり、光について考えさせる。
このようにこの展覧会では、島を巡りながら次々と作品が鑑賞できる仕掛けとなっている。そのうえ道中には急な斜面や大きな段差もあって、スリリングなアウトドア感覚で現代アートに接することができるのだ。
Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島 2021
会期:2022年1月22日(土)〜3月6日(日)
会期中の金・土・日及び祝日と2月10日(木)に実施
時間:16時50分〜21時
会場:猿島一帯
料金:一般3500円、小・中学生1500円(いずれも往復乗船料、入島料、観覧料を含む)
・横須賀市民割引あり(詳細は公式ウェブサイト参照)
・小学生未満は無料
・身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方と
付添人1名までは無料