どの子にも 入学おめでとうと言える社会にしたい
小学校・中学校の進学説明会、高校入試、大学入試などあわただしい日々を送っている家庭も多いだろう。
受験勉強の最後の追い込みをしている受験生と見守る親も多いと思う。
入学準備に不安を抱える世帯
しかし、子どもの進学先が決まっても、果たして子どもの入学準備が整えられるのか、心配している家庭があることをみなさんはご存じだろうか。
中学の入学時の準備費用をあるご家庭を例にとって説明しよう。
制服代は夏冬で61128円、体育着11770円、カバン8900円そのほかもろもろで合計13~14万円かかったというのだ。
高校の入学時の費用はもっとかかる。入学金5650円、教科書代37940円、制服代52550円、体操服24000円、学年費32000円、カバン14040円、合計で23万円くらいかかったという。
これは、昨年度、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむが支援したご家庭の調査結果から抜粋したものだ。
ひとり親家庭は経済的に苦しく、貧困率も高く、月々の家計もギリギリであるので、臨時出費に見合う貯金をしていない家庭も多い。
子どもが合格したあとも、入学準備をどうしよう、と不安な気持ちを抱いている家庭も多いのだ。
こうした制服代については、朝日新聞錦光山雅子記者が「公立中制服の価格差、最大2倍超 SNSで111校調査」なお数回の記事にまとめている。
これによると、3万円台から7万円台までの価格で、
「体操服や上履き、かばんなど他の主な指定品だけで総購入費が10万円を超す学校も2校あり、保護者からは「家計を圧迫している」との声が寄せられた。」
という。
しかも、「経済的に苦しい家庭向けの就学援助制度では「入学準備費」などとして2万数千円が支給されるが、支給時期はほとんどの市区町村で夏の1学期末となり、実際の購入時期とずれている。」というのだ。
就学援助制度の実態は
義務教育のあいだは、就学援助制度というものがある。
学校教育法第19条において,「経済的理由によって,就学困難と認められる学齢児童生徒の保護者に対しては,市町村は,必要な援助を与えなければならない。」とされている。就学援助の対象者は、生活保護法の対象者と、準要保護者といい、認定基準は各市町村が規定するものがあり、補助対象品目は、文部科学省のホームページによると以下の通りである。
就学援助 補助対象品目
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/05010502/017.htm
学用品費/体育実技用具費/新入学児童生徒学用品費等/通学用品費/通学費/修学旅行費/校外活動費/医療費/学校給食費/クラブ活動費/生徒会費/PTA会費などが対象となる。
みなさんは新入学児童生徒学用品費に、制服代なども入るのではないか、と考えるのではないか。
確かに就学援助でカバーされるものもある。
しかし、1.制服代やカバン代などすべての費用は給付されない 2.就学援助を支出するのは、入学後なので給付されるのは6月ごろであるので間に合わない 3.就学援助の申込みから漏れている家庭もある という現状なのである。
6月まで制服代の支払いは待てない。
悲しい銚子市での母子の事件、きっかけは
2014年9月、県営住宅の家賃を滞納し、明け渡し請求の日、母親が娘を絞殺するといういたましい事件があったのを覚えているだろうか。
貧しさゆえに娘を殺したシングルマザーの慟哭?銚子市・女子殺害事件の真相
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44912
私が裁判を傍聴して分かったことは、さまざまな要因がからんでいたと思われるが、中学入学時の費用が用意できなかった母親が、(夫の借金を肩代わりして消費者金融からの借金があったため)闇金融から7~8万円の金を借り、その督促が厳しかったために、家賃などそのほかの支払いが滞り、生活保護申請もできず、住宅の明け渡し請求されてしまい、かわいがっていた娘を殺めるという事件だったことがわかった。
たとえ10万円以下のお金でも、まったく貯えのない人にとっては、崖のように立ちはだかるお金である、ということを分かってもらえるだろうか。
母親は、給食調理の調理員として働いていたが、その収入は毎月6万円~8万円であり、夏休みや冬休みには収入は途絶え、やりくりしながら、やっと暮らしていた。
当然貯えはなかったのだ。
だが、借金の取り立ては、法テラス等に相談し、弁護士の代理人がつけば、止む。取り立ては代理人に行くようになるからだ。そして、余裕ができるので、これからどうすべきか考えることができたはずなのだ。
しかし、母親は、自殺サイトをスマホでは見ていたが、相談にはつながらなかった。
わたしは、こうしたつらい事件を二度と起こしてはならないと、ひとり親支援団体として決意した。そして、相談がすぐできるように、サイトをスマホ対応にするとともに、翌年、新入学お祝い金事業を始めたのである。
新入学お祝い金(給付金)事業
2017年度新入学の子どもたちのために、わたしどものNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむはほんのささやかな支援を企画した。小学校・中学校・高校・大学等に入学する場合に、200人の子どもたちに、3万円を送金するというものである。
ほかにも、子どもの貧困対策センターあすのばhttp://www.usnova.org/2016/12/blog-post_20.html(すでに申込み受付は終了)
また被災地限定の支援をするセーブザチルドレンなどが、給付金を送る事業をしている。
しかし、正直予想を超える申込みが日々、届いており、しんぐるまざあず・ふぉーらむだけでも、500人を超えると思われる。
わたしたちは甲乙つけがたい生活に困っている家庭の子どもたちすべてを支援したいが、お金に限りがある現状で断腸の思いで、お渡しする人数を約半分に絞る予定である。
もしも、今回少しでも寄付が届けば、さらなる人に支援が届られる。
ぜひとも協力をお願いしたい。
【郵便振替】00170-4-152781 NPO法人しんんぐるまざあず・ふぉーらむ
※振替用紙に入学お祝い金事業寄付とお書きください
【銀行振込】三菱東京UFJ銀行 高田馬場駅前支店 普通預金4536336特定非営利活動法人しんぐるまざぁずふぉーらむ
※振込人名の頭に2017nとつけてください
昨年度お送りした方からはこんなお礼の言葉をいただいている。
「今回は中学入学にあたり、このような多大なご支援をいただきまして、私の中ではせめて人並みに入学をということに…で、奇跡みたいに感じ、本当にありがたい気持ちでいっぱいになりました。うまく書けませんが、感謝という言葉で足りませんが、他の言葉がみつかりません。申し訳ありません。(Sさん)」
望まれる制度・社会は
親たちがもっと働けばいいのではないか、と思う人もいるかもしれない。しかし、働ける状況の親は働いている。
行政は、ひとり親の就労支援には、かなりの力を入れている。
そして、わたしたちNPOも、シングルマザーのキャリア支援プログラム「未来への扉」(約30人対象)を開催し、女性がもっと活躍できるような応援をしている。だが、残念ながら、それでも、教育費は足りないのである。
就学のための支援の制度はどうか。
福岡県久留米市など、就学援助を前倒しで支給する自治体が出てきたのは、歓迎すべき動きだろう。
しかし、そもそも、入学時の支援がまったく足りない状況なのだ。
入学時の費用がカバーされるような額の就学援助を低所得世帯に、入学前の3月に渡すことが必要である。
その就学援助制度すら、申込みをためらい、申し込んでいない人がいる。就学援助制度を、必要なすべての子どもたちが申し込めるような配慮もすべきだ。
つまり、1、就学援助の額の増額 2、支払時期を早める 3、漏給をなくす が必要なのだ。
高校となれば、就学援助はない。どう応援していけばいいのかも課題である。
おめでとうの時期、おめでとうと心から言えるように
日々、家計の苦しい世帯の親と子を応援していて、思うことが二つある。
まず、困っているご家庭の事情がさまざまであるということである。親がうつ傾向で十分に働けないご家庭も、また、子どもがたくさんいるご家庭も、兄姉の大学進学費用で困窮しているご家庭も、DV被害を受けたあとまだ働けていないご家庭もある。
そして、もうひとつは、本来は子どもたちが「入学おめでとう」と言ってもらえるうれしい季節が、その家庭にとっては、人知れない不安と苦労の時期になるということである。そういう「うれしい」時期に、子どもたちは世間との差を感じ、「どうせ自分は」と思ってしまう。
子どもたちには、「おめでとう」と言ってあげられるだけの支援を、社会がまずはつくっていきたい。
さまざまな立場を超えて、そういう社会づくりへの協力をお願いしたいと思う。